黒の至宝 第12話 |
くっ・・・私とした事が。 こんなドジを踏むなんて。まるでルルーシュのようじゃないか。 C.C.は今にも途切れそうな意識を必死に繋ぎ止めていた。 「ふむ、君が動いている、ということはゼロが狙っているという事だね」 白い衣装を着た金髪の美しい男が足元に転がっているC.C.を見下ろしながら楽しそうに言った。その顔には、ロイヤル・スマイル。相変わらず胡散臭い笑顔だ、とC,C,は見上げながら心の中で悪態を吐いた。 「カノン、彼女を例の者たちのところへ。ああ、拘束はそのまま解かないように」 「よろしいのですか?シュナイゼル様」 「なに、彼女は思っていた以上に聡明だ。あの箱の解錠の役に立つかもしれないだろう?」 そういうと、こちらに背を向けて、歩きだした。 箱、解錠。つまり私にも手伝えと、そういうことか。 「ああ、通信機の類を持っていたら困るからね。身につけているものは全て破棄して新しいものを与えるように」 「イエス・ユアハイネス」 次の瞬間、カノンが近づき、私の腕をとった。 その手には注射器。 「・・・何をする気だ?」 「大丈夫よ、しばらく眠っててもらうだけだから」 シュナイゼルがいる間はあんなに表情豊かだったのに、今私を見る目には感情が無い。ちくりと、腕に痛みが走り、次の瞬間には私の意識は闇に落ちていた。 「一ヶ所に置いてるんじゃないの?」 やや青白い顔で起きてきたカレンに、雑炊を用意すると、有難う、と言って一口食べた。ああ、美味しい。とその顔に笑顔が戻る。 「どうやら、定期的に移動しているようなんだが」 相変わらず、カタカタとキーボードを打ちながら、眉を寄せ、珍しくルルーシュは口ごもった。カレンとC.C.は顔を見合わせ、ルルーシュが次の言葉を紡ぐのを待った。 「何かおかしい。・・・いや、これは・・・」 カタカタと打つ音が、ぴたり、と止まった。 額に手を当て、難しい顔で何やら思案している。こういう顔をしているときは、たいていろくでもない情報が飛び出してくる。この前、カラレスの臓器売買の情報を見つけた時もこんな顔をしていた。カレンは、嫌そうな顔をして、胸の悪くなる話が飛び出す前に、さっさと雑炊を食べきることに専念した。 ルルーシュは、ガタリと珍しく音を立てて席を立つと、そのまま台所へと移動し、お湯を沸かし始めた。そして無言のまま紅茶の用意を始める。 これは本当になにか嫌なものを見つけたのだろう。 カレンは食べ終わった食器を洗い、私は自主トレをしているはずの藤堂を呼びに部屋を出た。数分後、手作りのクッキーと共に、香り高い紅茶が振舞われた。 C.C.とカレンも席に着き、紅茶を受け取る。 静かに扉が開き、急いで汗だけを洗い流してきた藤堂は、タオルで頭を拭きながら席に着いた。 「で、何がわかったんだ?ルルーシュ」 全員席に着いたのを確認し、C.C.が口を開いた。 「情報が少なすぎて、断言はできないのだが」 紅茶のカップを傾けながら、ようやく重い口を開いた。 「おそらく、シュナイゼルはこの秘宝に関わった者全てを殺害している」 「は!?」 思わぬ内容に、思わず間抜けな声をあげてしまった。 「さっき、定期的に移動してるって言ってたわよね?つまり、移動のたびに関係者を?」 「おそらく、だ。この1年半ほどの間に、奇妙な事件が続いている。シュナイゼルと特に親交のない、あるいは敵対する形の貴族とその関係者が事件に巻き込まれ、命を落としていた。 それだけなら、派閥争いや、別件の可能性もあるんだが、彼らの使っていた、あるいはリンクしていたコンピューターで、現在も稼働している物を何台かハッキングしてみた」 どうやってだよ!と、C.C.とカレンは突っ込みを入れたかったが、ここはぐっと我慢をした。この男の能力には毎回驚かされる。 藤堂は、そんなことも可能なのかと普通に感心していた。 「そこに残された痕跡には共通するものが4つ。<日本><からくり><仕掛け箱><皇家・天皇>」 それはこれから狙うお宝に関係のあるキーワード たった4つの言葉だが、ブリタニア人がそうそう調べる内容ではない。あの箱に関わっていた可能性が大きいと言える。 「つまり、どういう事だ?」 「大々的に調べることを許さず、情報を漏らすことも許さず、箱を開ける様に命じた。おそらくなにか弱みでも握って脅したのだろう。そしてある程度の期間がたっても何も進展がなければ、始末する。それを繰り返している可能性が高い」 「今、誰の処にあるのか解るのか?」 「いや、それを調べていた所なんだがな。俺は怪しい死因の貴族とその知人を元に調べ、この仮説に行き着いた。今所持している者は生きているのだからこの手では探せない。シュナイゼルと友好的ではない貴族、と限定しても膨大な人数だからな、さて、どう調べるべきか」 だが、もし今の仮説が正しければ、現在所持している者も口を封じられることとなる。 そして、新たな犠牲者のもとへその箱は移動する。 「なるほど、それは急がなくてはならないな。仕方がない、私が調べてやろう。報酬はピザ100枚だ」 C.C.は肩をすくめながら、紅茶を口に含んだ。 「C.C.、まさか潜り込む気?相手はシュナイゼルなのよ!?」 カレンは無茶だと言わんばかりにC.C.に詰め寄った。 「私も反対だ。無謀すぎる」 藤堂は冷静にC.C.を見据えながら言った。 「C.C.」 「なんだ、ルルーシュ。お前まで反対だというのか?・・・お前たち、私を誰だと思っている?」 目を細め、三人を見下すような視線で、C.C.はその顔に冷たい笑みを浮かべた。 「尻に殻のついたひよっこが、いらぬ心配をするな。忘れたか?私が永遠を生きる魔女だと言う事を」 その笑みはまさに魔女。カレンと藤堂は、極寒の地に居るかのような冷気を感じ、ぶるりと体を震わせた。 C.C.はその様子に満足したのか、立ち上がり、片手を上にあげ、握りこぶしを作った。 「その上この美貌!いかにシュナイゼルと言えど、私の色香に惑わされないはずはない!」 フハハハハハハと、今までの冷気も魔女っぽい雰囲気も台無しにする笑い声と発言に、辺りの空気は一瞬で元に戻った。 ゼロだ。女ゼロがここにいる。カレンは内心そう思いながら、ズズっと紅茶をすすった。 「C.C.策はあるのか?」 魔女とのやり取りなど無かったかのように、ルルーシュは真剣な目でC.C.を見据えた。C.C.は振り上げていた拳を静かに下ろしながら、優しく目を細め、口元にほほえみを浮かべた。 「なんだ?私が何も策もなく動くと思ったか?心配するな、私はC.C.だぞ」 「そうか。ならば任せよう。・・・無理だけはするな。お前は俺の共犯者なのだからな」 「わかっているさ」 C.C.は椅子に座り、パクリとクッキーを口に放りこんだ。 さすがルルーシュ、いい仕事をする、と、満足げに次々にクッキーを手にしていたC.C.だが、突然ぴたりとその手が止まった。 「そういえば、あの情報はどうしたんだ?臓器密売の。いまだにニュースにも出ていないぞ?」 「ああ、カラレスのやつよね?密売ルートや顧客情報、手に入れたんでしょ?警察に渡したの?」 いつもなら即日、不正の情報があちらこちらに流されて、大々的にニュースで取り上げられるのに、今回は全く報道されていなかった。 「あれか。あれは・・・だな。あのイレギュラーのポケットに忍ばせておいた」 ルルーシュは視線を彷徨わせながら、言いづらそうに呟いた。 「は?なんでスザクに?」 「ここに戻る途中、匿名で警察に届けたんじゃなかったのか?」 「下手な者に渡すと、ルートを抑える前に報道されてしまうからな。その点、イレギュラーの所属している研究チームの主任は理想的だった」 「それはつまり、ルートや顧客を抑えた後に報道される流れを作るため、相手の手に渡るようにした、と?」 藤堂は顎に手を添えながら、成程、と納得していた。 下手なものに渡した場合、自分の手柄とするためにあちらこちらに話を漏らす事が多々あった。今回それをやられてしまうと、せっかくの情報が半分以上役に立たなくなるのだ。 だが、私は騙されない。 「なんだ、枢木スザクに暴漢から助けてもらったお礼をしたのか。律儀だなお前は」 「なっ!違う、間違っているぞC.C.!お礼ではなく、確実性を」 「いいじゃないかルルーシュ君。確実にルートをつぶし、尚且つ借りを返せる。一石二鳥とはまさにこのことではないか」 珍しく、ルルーシュの言動を遮った藤堂は、かつての弟子の手柄になったのだろうと、喜んでいるようだ。さすがに藤堂に頷かれてしまっては、ルルーシュは否定することもできず、そのまま口をつぐんだ。 「一石二鳥か、なかなかいい言葉だな、藤堂。ならば、我が魔王の願いを叶えつつ、腹黒皇子の野望阻止という一石二鳥を、私たちは狙おうじゃないか。 なあ、ルルーシュ。そうと決まれば前夜祭だ!ピザを焼けピザを!」 ピザピザうるさいぞピザ女! えー、また飲むの~私二日酔い・・・ 迎え酒と言う言葉を知らんのかカレン。二日酔い程度、飲めば治る! ふむ、では、今日は日本酒でどうだろうか?ルルーシュ君 では日本酒に合うつまみを用意しよう なんだ!私の望みは無視するくせに、藤堂の望みはかなえると言うのか! うるさい!だまれ!・・・仕方ない、今日は和風ピザにしてやる。 和風だと!?ワクワク。 ・・・なんだ結局作るんじゃないの・・・日本酒ねぇ、いいお塩あったかしら? 塩なら・・・ |