黒の至宝 第13 話

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暗く重い意識の中で、誰かが呼ぶ声が聞こえた。
ああ、うるさいな。誰だ?ルルーシュか?
ピザの用意はできたのか?起こすなら用意が出来てからにしろ。
今日はシーフードで作れ。私の腹は今シーフードピザを求めているのだから。

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そう、ルルーシュに訴えようとしたが、声が思うように出ない。
体がだるすぎる。おかしい、まさかこの私が二日酔いか?

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C.C.は、ぼやけた頭で考えるが、答えが出ない。
思考が鈍い。体の自由が利かない。手首が痛い。
何より、自分を呼ぶ声に聞き覚えがない。

「・・・ねえ・・・きて・・・か?・・・」

その声にはこちらを心配するような、必死と言ってもいい声音を感じ、C.C.は重い瞼をこじ開けた。

「大丈夫ですか!?起きて、目を開けてください!」

真っ先に視界に入ったのは長くて明るい茶髪の少女。
可愛いと、そう表現できる大きな目、全く見覚えのない女だ。

「あ、目、開いた!会長~起きた!起きたよ~!!」

私の目が開いたのを、ぱあっと満面の笑顔で喜び、遠くにいるのであろう誰かに呼びかけていた。
まだ朦朧としていたが、どうにか現状を確認しようと、瞳を動かした。照明がつけられているという事は、夜か?部屋の作りはなかなか良いな。ドアは一つか?テーブルの上には何やら機械、私が寝ているのはソファのようだ。
今いるのはこの女だけ、ドアの向こうに呼び掛けている。
両腕が痛い。手首を拘束されている。くそ、後ろ手だから身動きが取りにくい。そこまで状況を確認したところで、ガチャリと扉が開いた。
真っ先に入ってきたのは金髪の女。この茶髪とそう年齢は変わらないだろう。
その後ろには青髪の男と深緑髪の女。

「ねえ、大丈夫?どこか痛いところない!?」

金髪の女が真っ先に近づいて、私の肩に手を置いた。

「・・・手首が痛い」
「ああ、そうよね、手首以外は?」
「・・・頬が痛い、頭が痛い、腹が痛い」

私は相手の反応を伺うように、淡々と答えた。

「殴られてた所よね、ごめんなさい、勝手に服の下見させてもらったの」

殴られてた、という言葉で、私はこの状況になった理由を思い出した。潜入捜査を始めて10日。新人としてシュナイゼルの会社へと入り込み、シュナイゼルやその部下の目を盗みながら情報を集めていた。思った以上にあっさりとシステムに潜り込めたので、なんだ、あの腹黒男も大したことないな、と思っていたら、突然部屋にシュナイゼルの私兵が飛び込んできた。
シュナイゼルの罠だったと気付いたのはその時だ。
私は両手を拘束され、床に押し倒された。私が何の目的で入り込んだのか吐かせるため、シュナイゼルの目の前で、副官のカノンの手により暴行を加えられた。腹や顔を殴られ、頭を踏みつけられ、何度も何度も蹴り上げられた。私が身動きできなくなるまでじっと見ておきながら、女性に暴力を振るうのは本意ではないのだよ、とか胡散臭い笑顔で言うのだからいい根性をしている。
そして、薬を打たれて今ここにいるわけか。

「吐き気は?目まいとかする?」
「体中打撲で痛むだけだ。吐き気もない。それより腹が減った。ピザをよこせ」
「・・・ピザ?」
「シーフードだ。シーフードピザがいい」

しばらくぽかんと私を見ていた女は、ぷっ、と噴き出した後、アハハハハハと大声で笑い出した。

「貴女すごいわね。わかったわ、リヴァル、シーフードピザ注文してきてくれる?」

リヴァルと呼ばれた男は、え?まじで!?と、目を白黒させた後、部屋の外へと小走りで出て行った。

「で、私の腕はどうなってるんだ?」

私は一番聡明そうな金髪の女に話しかけた。

「ああ、それね。電子手錠が掛けられてるのよ。ごめんなさい、私たちにはそれを解く事が出来ないの」
「そうか、仕方ないな。せめてこの手を後ろ、ではなく前に回したいが、それも無理そうか?」
「そうよね、後ろより前のほうが色々楽よね。殿下からは外すな、しか言われてないから、試してみる?」
「・・・私はどうやら、まだ自由に動けないらしい。お前たちでどうにかしてくれ」

なにせ体はだるくて、重くて、まだ指一本動かすのさえ億劫だ。

「よっし、シャーリーあなたはこっち、ニーナ、大丈夫だからこっち来て手伝って。ほら、そこもって」

金髪と茶髪・・・シャーリーと呼ばれた女の後ろに隠れるように立っていた深緑髪の女、ニーナがおどおどと近づいてきて、私の腕に触れた。三人がかりで私の体を動かし、なんとか腕が後ろから前へと移動することが出来、三人は安堵の息を漏らした。

「大丈夫でした?腕、痛くなかったです?」

シャーリーが心配そうな顔でこちらを伺った。動かない人間の体を無理に曲げたりしたのだ、痛まないはずがない。かなり無理な姿勢、無理な動きをさせた自覚があったのだろう、三人は心配そうにこちらを伺っていた。

「痛かった。だけど気にするな。この程度すぐに治る」

私は感情を表情には出さず、淡々と答えた。

「あなた、痛みに強いのね。今シップ張るからちょっとごめんね?」

シャーリーと金髪の女が私の肩に湿布を貼ろうと服を僅かに肌蹴させた。

「大丈夫だ。言っただろう、この程度すぐに治ると。蹴り飛ばされた跡も、もう殆ど消えているはずだぞ」
「え?」

半信半疑といった顔で、恐らく痣が出来ていたであろう場所を三人は覗きこんだ。

「嘘・・・さっきまであんなに」
「私は傷の治りが速いんだ。動けないのは薬のせいで打撲のせいではない」

金髪とシャーリーはぽかんとした顔で私を見た。
珍しい反応だ。普通は気持ち悪がるモノなんだが。ニーナは驚いたような、不気味なものを見るような眼を一瞬したが、まあ、当然の反応だから気にするほどではないな。こいつらは悪い奴ではないのかもしれない、と私は僅かに警戒を解いた。

「で、お前、名前は?」

唯一名前のわからない女に訪ねてみる。

「私はミレイ。ミレイ・アッシュフォードよ。安心して、私たちは貴女に危害を加える気は無いわ」
「だといいんだが。で、ミレイと言ったな。お前たちはあの腹黒・・・いや、シュナイゼルの部下か?」

その言葉に、ここにいた三人は明らかに顔を曇らせた。
ニーナに至っては、恐怖でミレイの後ろに隠れる始末だ。

「・・・私たちは・・・」

ミレイが俯きながら、そこから先どう答えるべきか悩んでいるようだった。

「もういい。あの腹黒皇子の部下ではなく、私と同じ被害者だという事は分かった」

三人とも驚いたかのように事らを見る。
その時、勢いよく扉が開いた。

「会長~遅くなりましたっ!いや~あいつらホントに融通利かないぜ~、デリバリーぐらいさっさと取ってくれればいいのによ!」

リヴァルと呼ばれていた若者が、頭を掻きながら、不機嫌と言った顔で部屋へと入ってくる。

「あいつら?お前たち以外に誰かいるのか?」
「ええ、シュナイゼル殿下の部下が二人ほど・・・ね」
「ほう、ピザなど電話一本で来るこのご時世に、携帯すら持たせてもらえず、シュナイゼルの部下経由で注文するしかないと?」
「え・・・ええ。」

シュナイゼルの部下ではないのに、シュナイゼルに捕まった私の介抱をし、シュナイゼルの部下に監視されている・・・か。
テーブルの上には謎の機械。
だがまて。その機械に乗っているモノに私は覚えがある。これは不幸中の幸いと言うべきか。棚から牡丹餅と言うべきか。なんにせよ、奇しくも私は目的を達成したわけだ。

「そういえば、あの腹黒男、あの箱の解錠の役に立つかもしれない、とか言って私に薬を打ったな」

思わず口角が上がる。

「え?貴女もあの宝の関係者なの?」

ミレイが驚いたような声を上げた。

「そうとも言えるし、違うとも言える。さて、教えてくれないか?ここは、どこだ?」

私がこれからすべきことは限られている
ルルーシュにこの場所を教えて宝を手に入れ、この囚われた被害者達を解放することだ。
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