黒の至宝 第16話 |
夜中に、突然軍人が部屋にやってきた。 ヴィレッタと呼ばれた女性の軍人は、緑の髪の彼女を目にするなり、私たちの目の前で暴力をふるった。私たちは止めようとしたが、軍人に抑えられ、身動きのできない彼女は口を閉ざしたまま「来るな」とその眼差しで告げていた。彼女が痛みで身動きが取れなくなったのを確認した軍人は、私たちを無理やり車に乗せた。 リヴァルは私たちを守るように軍人の一番近くにすわり、私は震えるニーナを、シャーリーは緑の髪の女性を抱きしめ、おじい様は厳しい顔で軍人を見据えていた。 辿りついた先は無機質な白い壁と僅かな窓の見える大きな建物だった。一瞬病院かと思ったが、全ての窓には鉄格子がはめられており、入口に受付のようなものはない。何かの研究施設と言っていい雰囲気だった。建物の中にも外にも軍人がたくさんいて、まるでこれからここで演習でもするのではないかと言う物々しさを感じた。 青い髪の長身の軍人が、何やら指揮をしている様子がうかがえる。 「ジェレミア卿、連れてきました」 ヴィレッタが青髪の指揮官に声をかけると、ジェレミアと呼ばれたその軍人は足早にこちらに近づいてきた。 「殿下の宝も持ってきただろうな」 「はっ、それはルーベン・アッシュフォードが持っております」 ルーベンの手に、大事そうに持たれたその箱を見て、ジェレミアは大きくうなずいた。 「よし、では予定通り彼らを例の部屋へ連れて行け」 「イエス・マイロード」 ヴィレッタが深々と礼を取った後、さっさと進め!と私たちを建物へと追いやった。 建物へ入るその時、警察車両が何台もこちらへ向かってくるのが見えた。 「警察が!」 ニーナが思わず、助かったと言わんばかりの声で叫んだが、回りにいる者達は、焦る様子は一切なく、近づいてくる警察車両へ一瞬視線を向けただけだった。 「ああ、ようやく来たのか」 ヴィレッタはそう口にすると、近づく警察を気にする様子もなく、早く行けと私たちを急かした。 「警察も、私達がここに居ることを知っているのですか」 ルーベンはヴィレッタに訊ねた。 「当然だ。今回の件はシュナイゼル殿下も了承している」 「殿下も?殿下とのお約束は明後日のはずですが」 「お前たちが殿下とどのような約束をしていたかは知らないが、緊急事態でな。こちらを優先させてもらう」 何人もの軍人とすれ違い、施設の奥へと足を進めると、厳重に施錠された一枚の鉄の扉の前に辿りついた。いくつものセキュリティが施されているそれを解除すると、扉が重々しい音を立てて開く。 そこには地下へと続く階段。 促されるままに私たちは階段を下りた。 その先にはいくつもの厳重な扉と階段が続き、どれだけ降りたか解らなくなった頃、私達は殺風景な部屋に辿りついた。僅かばかりの清掃がされたその部屋には、中央にテーブルとそれを囲むように椅子が置かれていた。 「その扉の奥にトイレとシャワールーム、そちらの奥に簡易キッチンがある。冷蔵庫には飲み物と、簡単な食材。その箱にはインスタント食品が入っている。毛布などの寝具はそこだ」 ヴィレッタは淡々と部屋の説明をすると、踵を返し出て行こうとした。 「待って!一体何がどうなってるの!?説明ぐらいしてくれてもいいんじゃない?」 私は何も説明も無くここまでされた事に怒りを感じ、ヴィレッタに詰め寄った。 「ああ、そうだったな。まだ話をしていなかったか。悪いがお前たちはこれから26時間ここに居てもらう。」 「26時間!?」 「そうだ。お前たちが持っているそのシュナイゼル殿下の宝を、怪盗ゼロが狙っている」 怪盗ゼロ。 その名前にこの部屋にいる全員が反応した。 「奴の予告の日は明日。つまり後2時間後だ。我々軍と警察は予告日である明日一日お前たちと共にその宝を守ることとなったのだ。話では、お前たちはその宝の解析を任されているそうだな?工具の類はその棚、お前たちのパソコンはそこに一応持ってきたが、ネットワークには繋がっていない。まあどの道、こんな場所で解析など出来ないだろうな。この部屋はこれから26時間施錠されたまま外には出られなくなる。以上だ」 ヴィレッタはそれ以上話す事はないと、部屋を後にした。 扉が閉まると同時に施錠をした音が部屋に響く。 「・・・ゼロが・・・この宝を?」 ルーベンがテーブルに置いたその箱を、思わず見つめた。 「・・・うっ」 「あ、気がついた?」 意識をなくしていた少女は、ヴィレッタと共に来ていた軍人に抱えられ、ここに運ばれていた。今は床に投げ出された状態で、少しでも楽になるようにとシャーリーが膝枕をしていた。 「とりあえず、彼女を寝かせましょう。リヴァル、そのマットレスこっちに持ってきて」 てきぱきと寝床を整え、彼女をその上に寝かせた。 せっかく痣が消えたのに、その顔は腫れ、体中に痣や切り傷が付いていた。 「なんでここまでするのよあの女」 棚にあった救急箱から消毒とガーゼを取り出し、応急処置をする。 「・・・決まっているだろう?」 目を覚ましたのか、金色の不思議な光を宿したその目を開き、彼女は私を見据えた。 「決まっているって何が?」 「あいつらが私に暴力を振るう理由だ」 「何が決まってるって言うの?こんなこと」 「ああ、そういえば名乗ってなかったな」 と彼女は私の言葉を遮り、口角を上げ、いたずらっ子のような顔で私たちを見た 「私が、C.C.だからだ」 |