黒の至宝 第17話

C.C.それは、有名な名前だった。

黒衣を身にまとった謎の怪盗、ゼロ
赤いスーツに身を包んだ赤髪のガンマン、カレン
日本の道着と袴を纏った黒髪のサムライ、トウドウ
そして緑の髪の謎の美女、シーツー

そうだ。彼女はこんなにきれいな若葉色の髪で、そしてその容姿は美しい。
そしてこのミステリアスな空気、どうしてその可能性に思い至らなかったのだろう。
やはり最初のピザの印象が強いからだろうか?

「なんだ、そんなに驚くことか?」

言葉をなくした私たちをみて、C.C.はくすりと笑った。

「C.C.ということは、ゼロの仲間、よね?」
「そうだな」
「でも、ゼロは予告前に宝を狙ったなんて聞いたことないわよ?」
「予告、だと?ゼロが予告状を出したのか?その宝に?」

C.C.は驚きに目を見開いて訪ねてきた。
ああ、そういえばこの人が意識を取り戻したのはその話の後だった。

「ええ、明日が予告日だそうよ。その為に私たちをここに…保護したらしいの」

保護。なんて胡散臭い響き。必要なのは宝だけなのに、万が一の時のために私たちも確保しておくための名目か。そんな私の気持ちに気づかなかったのかC.C.は先ほどまでの無表情とは違い、どこか嬉しそうな顔をしていた。

「そうか、成程な。予告状か」
「なになに?予告状が出されたことに何か思い当ることでも?」

リヴァルがその嬉しそうな理由を聞こうと、満面の笑みで問いただした。

「いや、なに。私がシュナイゼルに捕まってもうすぐ4日。あの坊やの心配も限界だったと言うことだ」
「坊や?心配?」

シャーリーが何の話し?と言う顔で聞き返した。

「ゼロは私がその宝の近くにいる可能性を読んでいる。だから予告状を出すことで、その宝の所在を突き止めたのさ。なにせ、私がこうして動いた理由は、それのありかを突き止めること、だったからな」

C.C.はその金の瞳をやわらかく細めながら、優しい声音で語った。

「予告状を出すことで、場所を突き止めた?」
「簡単な話だ。ゼロが予告状を出せば枢木スザクが動く。枢木スザクが動けば、宝も動く。しかも相手はシュナイゼルだ。軍や私兵も動く。それだけの動き、アイツが見逃すはずがない」

私たちは唖然とした。

「え?それじゃあ何?狙ってる宝の場所が解らないのに、予告したの??」
「そうだと言っている」

何事も用意周到に計画し、奇跡ともいえる数々の逸話を残しているゼロが、そんな賭けのような行動を取るなんて信じられなかった。
それなのに、C.C.はさも当然のように言い放つ。
だが、今はそんなことより、大事なことがあった。

「C.C.お願いがあるの!ゼロと連絡は取れない!?」
「ゼロと?無理に決まっているだろう?可能ならとっくに連絡を取っているさ」

何を聞いているのだとあきれ顔でC.C.は断言した。
解っていた事だが、私たちは落胆の色が隠せない

「なんだ?アイツに連絡を取って、なにを願うつもりだった?」

ん?彼女、今何て言った?

「願う?」
「そうだ。お前、カラレスの屋敷の前の公園に居た女だろう?」

私がぎくりと身を強張らせた。
見られていた?でもいつ?

「あの日、逃走しようとあの公園に行った時だ。何かに呼ばれた気がしてな。向かった先にはバイクに跨ったお前の姿があった」

それは、ゼロが出てこないかとあの場所で待機していた私。
C.C.は痛みから回復したのか、その半身を起し、マットレスの上に座った。

「何かを必死に願っていたようだったが、それが何か分からなくてな。近くにゼロもいたから、もしかしてゼロに会いたかったのか?とも思ったんだが、確証もなかったからそのままにしたんだが」
「え?まって、今なんかすごい事聞いた気がするんだけど!?私の願いを感じた?ゼロがあの近くにいた?何それどういう事?」

私は思わず、彼女の肩を掴んで揺さぶった。
おちつけ、まだ体が痛むんだから!という必死の声に、周りのみんなが私を止めた。
C.C.は胸元を抑えながら、殺す気か、とぽつりとつぶやいた。

「信じる信じないはお前たちが勝手に判断すればいい。…私は、心の底から神に祈りを捧げた者を何となく感知することが出来るんだ」
「それで、私が解ったのね?」
「そうだ。ただし、私に叶えられる程度の願いしか感知できないが。これでも私は正真正銘神の使いだからな」

俗にいう天使と言う奴だ。と、なんでもないかのようにC.C.は言った。

「天、使?」

流石に受け入れがたい単語。
その存在は聖書や物語に出てくる類のもので、現実に存在しているはずのないもの。いや、それよりも、見た目は確かに美しく、口さえ開かなければ納得してしまいそうだが、天使がこんなに口が悪く、その上ピザ好きというのはどうなんだろうか。

「なんだその疑いの眼差しは。・・・まあ、天使というのは正直自分でも言うのも抵抗があるからな。だから私は不老不死の魔女と呼ばれる方が似合っている」

若干不貞腐れたような声音で、自らを魔女と呼んだ彼女は、さらりと更に爆弾発言をした。

「不老、不死」
「そうだ。もう自分がどのくらい生きているかも解らない。自分が人間だったのかさえも、忘れてしまったよ」

そういう彼女の眼には一瞬だけ悲しみが感じられた。

「で、ゼロに何を願う・・いや、盗み出してほしかったんだ?そこの宝を盗み出して、殺される運命から救ってほしい、と言うのであれば叶いそうだが?」

私は何度彼女に驚かされるのだろう。
一体彼女は何処まで知っているのだろう。
天使と言うのは正直信じがたいが、魔女と言うのは本当なのかもしれない。

「やっぱり、私たちは殺される、の?」

おそるおそる聞いたのはニーナ。
シャーリーの背中に縋るように、C.C.を見ていた。
シャーリーも、リヴァルも、おじい様も、私も、C.C.を見つめた。

「ゼロが調べた限りでは、だが。お前たちの前にその宝をあの腹黒皇子に預けられた、と予想される者達が変死しているそうだ。証拠はない、あくまでもゼロの予想だが、あの男が可能性の低い予想を口にすることはない」

だから、私は間違いないと思っていると、C.C.は言外告げた。ニーナが目をギュッと瞑り、震える手でシャーリーの服を強く握った。シャーリーは自分も震えているにもかかわらず、ニーナを落ち着かせようと優しく抱きしめた。

「・・・予想は、してたの。だってシュナイゼル殿下は私に言ったの。殿下の望みは世界征服だと。それを知る者を生かしておくとは思えないわ」

その言葉は、今まで誰にも、おじい様にすら伝えていなかったもの。
それを聞いて、周りが息をのむのが聞こえた。

「世界征服だと?ずいぶんと小さな願いだな」

呆れたような声音でC.C.は呟いた。

「小さい願い?」
「だってそうだろう?こんな物で世界征服したとしよう、で、世界征服した後どうするんだ?征服者などよほどの事がない限り恨まれるぞ?毎日暗殺におびえ続ける日々を送りたいなんて酔狂な男だ」

確かにそうだ。人々が支配されることを望んでいるとシュナイゼルは言っていたが、必ず反攻勢力は現れる。たとえ一瞬でも世界征服がなされれば、それで宝の効力は切れるだろう。
その後の事を考えていないはずがない。

「まあ、おそらく、だが。奴は世界征服など願わんよ」

私たちの混乱に気がついたのか、C.C.は言葉を紡ぐ。

「あれだけのカリスマと知略があれば、時間はかかるが世界征服など今のアイツにでも可能だろう。だが世界征服を望みながらそれをしないのはなぜか?簡単だ。先ほど私が言ったように暗殺の危険があるからだ。今の皇位継承権第二位という地位でさえ暗殺の危険が常に付きまとっているのだからな。その上、自分が生きている間支配できればいいなどと言う事を考える奴ではないだろう?自分に支配されることこそが人々の幸せだと勘違いしてそうな男だ。ならば何を望む?答えは簡単だ」

そこまで一気に話し、C.C.は私たちを見てにやりと笑った。

「奴が望むこと、それは不老不死、だ」
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