黒の至宝 第18話

警察官にまぎれて枢木スザクの元に居るカレンから入った連絡で、C.C.の存在が確認でき、俺は安堵の息を吐いた。
薬を使われたのかは解らないが、ぐったりとしていて、軍人に抱えられて建物に入ったと言う。C.C.だけではなく、民間人と思われる5人も一緒に連れて行かれたということから、おそらくその5人が今回シュナイゼルに箱の解錠を任された貴族なのだろうと言う事が推測できた。
予告は明日1日。時間はもう残り少ない。
施設の詳細な情報を手に入れるため、俺の指はキーボードの上を動き続けた。

「こちらの手駒は少ない。その上、C.C.は捕われて身動きが取れず、施設のどの場所に居るかも解らない」

カレンは警察に紛れている。
今ここに居るのは俺と藤堂だけだ。
動けるのは二人だけということ。
施設の見取り図を開きながら、目的を達するための作戦を練り続けた。
手に入れるべき宝は1つ。救うべき命は5人。取り戻すべき仲間は1人。
この3つの条件全てを満たす案を、策を。
カチカチカチと時を刻む音と、キーボードを叩く音だけがその部屋に響いた。
藤堂はその様子をただ黙って見つめていた。
その時、突如警報音のようなものが、テーブルの上に置かれた小型端末からけたたましく鳴り響いた。

「・・・っC.C.!!」

ルルーシュは、眉根を寄せ、悲痛な表情でその端末を手に取った。
藤堂はまさかと、目を見開き、ルルーシュの傍へと駆け寄る。

「あの、馬鹿がっ!」

振り絞るようにして出されたのは精一杯の罵倒。
赤く光るその端末には数字が次々に表示されていく。
そこには、現在C.C.が居る座標が表示されていた。




それは、ルルーシュの端末が反応を示す少し前の事だった。

「私たちの願いは、ゼロに、私たちの宝を盗み出してほしい、と言う事だったの」
「だから宝とはそれの事だろう?ならば今日にでも盗みに来るぞ?」

私は何度言わせる気だと、呆れながら答えた。

「いいえ、違うのよ。私たちの宝はシュナイゼル殿下に握られているの。私たちが殿下に協力するのはその宝を守るため。 もし、この<漆黒の夜明け>がゼロに奪われ、私たちが姿を消す事が出来たとしても、宝は戻らないわ」

そういえば坊やが言っていたな、貴族を脅して従わせている、と。

「何だ、お前たちの宝と言うのは?」

ミレイはポケットから手帳を取り出し、そこに挟めていた写真を私に見せた。
そこに写っていたものに私は驚きを隠せなかった。

「これが、お前たちの宝か?」
「ええ、そう。私たちに、アッシュフォードに残された最後の宝。絶対に失うことのできない大切な宝なの」

悲痛そうに訴えるミレイと、私たちのやり取りを無言のまま見守っているルーベン。
そして、この宝の事をよく知るのであろうシャーリー、リヴァル、ニーナも目を伏せて唇をかみしめていた。

「成程な。ならは行動は早い方がいいだろう」

私は写真を返すと、辺りを見回した。何かいい物はないだろうか。

「行動って、なにをするつもり?」
「私の居場所と、<漆黒の夜明け>のある場所、つまりここをゼロに知らせる。さっさと盗み出してもらわなければ、お前たちの宝にも手が出せないだろう」
「え?どういう事!?」
「あの腹黒皇子が欲しいのは、鍵が解けたその箱なのだろう?ならば、さっさとゼロをここに呼んで箱を開ける。そしてその後、腹黒皇子と取引をする。お前たちの宝を取り戻した後、再び腹黒皇子の手からこの宝を取り戻し不老不死は阻止する。簡単な話だ」

目的さえ分かれば、私のすべきことは唯一つ。
この場所をルルーシュに知らせることだけ。

「簡単な話!?」
「そうだ。とはいえ、ここへの潜入と箱の解錠にシュナイゼルとの交渉。その辺はゼロの手腕にかかってくるが、まあ、大丈夫だろう。」

アイツは頭だけはいいからな。
工具箱を見つけ中を漁り、これがいいな、と先端の鋭い道具---錐を取りだした。
そしてそれを、ルーベンに手渡す。

「子供の手を汚すわけにはいかないからな。お前がやれ」

錐を手渡されたルーベンは、これで何を?と聞いてきた。

「ほう、バスルームがついてるな。丁度いい、そこでお前が私を殺せ」

感情を込めずそう言うと、周りから悲鳴のような声が上がった。

「何言ってるのあなた!何考えてるのよ!」
「そうよ、死んで何になるの!?考え直して!」
「第一不老不死って死なないんだろ?理事長に何させるんだよ!」

震えるニーナと、止めようとする3人。
始終無言のまま、私たちのやり取りを聞いていたルーベンの目には、静かな決意が宿り始めた。
ふむ、このルーベンと言う男、いいな。ルルーシュに一度是非会わせたい。理由は解らなくても、私が死ぬことで何かが起きる事を悟った目だ。口数が少ない所もいい。ニーナは頭が良いという以外はあれだが、他の三人もなかなかのお人よしだ。アイツの周りにはこういう、にぎやかで優しい人材が欲しいところなんだが、まあそんな夢を見ても仕方がないか。
私は騒ぐ3人をそのままに、バスルームへと入った。
そこはトイレと一体型の3点式ユニットバス。
このままでは服が汚れてしまうと、さっさと服を脱ぎ始める。彼らはバスルームまで押し掛けてきたが、流石にリヴァルは驚いて転がるように出て行った。
全裸になった私は、バスタブの中に足を踏み入れ、ルーベンと対峙する。
私の左胸には、おそらく人間だった頃のモノだろう、刃物で切り刻まれた跡が生々しく残っており、それを見たニーナが短い悲鳴をあげて出て行った。
シャーリーはニーナに引っ張られる形でここを立ち去った。
残ったのはルーベンとミレイ。

「ああ、出来れば確実に死ぬために、心臓に刺してほしい。刺した後は錐は抜いておけよ、生き返れないからな」

私は心臓の上を指で指示し、にやりと笑った。

「理由を聞いても?」

やはり躊躇いがあるのだろう、ルーベンが重い口を開いた。
流石に何も言わずに殺させるのはかわいそうか。

「私の体にはゼロが一つ、機械を埋め込んでいる。私が死んだ時、私が今いる座標がゼロに解るようにな」

その瞬間、ルーベンとミレイの目が細まり険しさを増した。

「なんでそんな機械を?」
「・・・私と同じ神の使徒は大昔は大勢いたが、正気を保っている者---今も生きている、と言える者はごくわずかなんだよ」

その言葉だけでルーベンは何かを悟ったのか、私を優しく見つめた。

「どういう、ことなの?」

聡明だが、まだ若いミレイにはそこまで至れないか。それは仕方のない事だと、私は溜息を一つ吐いた。

「不死とはいえ、一時的な死はある。その死の状態で埋められたらどうなると思う?災害に巻き込まれて身動きが取れなくなったら?海底に沈み、浮上することされ出来なくなったら?魔女と呼ばれ生き埋めにされたら?体を切り刻まれた状態で、幾つもの壺の中にでも詰め込まれたら?そう、この錐が心臓に刺さったままだったら私はどうなると思う?」

私の言わんとしている事に気がついたのだろう、ミレイは蒼白な顔で、ごくりと固唾を飲んだ。

「そういう事だ。死と再生が繰り返される。生き返ったと思った瞬間に苦しみながら死ぬ、永遠にな。正気でいられるわけがない。ゼロはそれを危惧しているのさ。だからせめて自分が生きている間は、私が不慮の死を迎えても、ちゃんと生き返ることが出来る様に、と」

願いを込めて、私の中へ一つだけ仕掛けを施した。
だから、今回はそれを利用させてもらう。

「出来れば迷わず一突きでやってくれ。ああ、返り血で服が汚れないよう注意しろよ?」

人と変わらない痛覚がある。だから本音を言えば死ぬのは嫌だ。だが、それを悟らせる必要はない。なぜなら私は魔女だからだ。
だから私は魔女らしく、その顔に不敵な笑みを浮かべた。

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