黒の至宝 第19話

「我々の目に届く場所に置くべきだ、と自分は言ったはずですが」

僕たち警察がシュナイゼルに指示された場所に到着した時にはすでに、ゼロが狙っている宝は僕の目の届かない場所へ移されていた。

「確かにそう言っていたが、私は一度でもその意見を聞くと言ったか?」

ジェレミアは、見下すような態度で、僕を見てきた。
既に指示されたこの場所、ブリタニアの旧実験施設は軍とシュナイゼルの私兵で厳重な警備がなされており、僕たち警察は完全に後手に回った。

「殿下の宝はこの施設で最も厳重な場所にある。ちゃんと見張りに6人付けているから問題はない」
「その6人の中にゼロが、黒の騎士団が紛れている可能性もあります」
「もしそうだとしても、あの部屋から出ることはできん」

自信満々の顔で言い切る男は、あの時僕の話をちゃんと聞いていたのだろうか。

「その上、この施設の地下は迷路のように入り組んでいる。そしてそれぞれの通路も兵が見張っているのだ。たかだがコソ泥ごときが突破できるわけがない」
「相手はゼロです。最新の警備システムですら無効にする相手、油断をすれば足元をすくわれます」
「油断などしてはいない。獅子はウサギを駆る時も全力でか狩るものだろう?我々は全力でゼロを捕縛する。後続に歯向かうなど万死に値する」

そして、イレブンが指揮をしているから捕まる者もつかまらないんだと言う、侮辱を含んだ視線。その視線には慣れているつもりだが、苛立ちは中々押えられない。

「警察は、この建物の外を頼むぞ。中は我々だけで十分だからな」

これ以上話をしていてもらちが明かない。

「イエス・マイロード」

僕は踵を返し、部下へ指示を出すことにした。
建物の中に入れない以上、建物の外を厳重に守るしかない。
ジェレミアの部下、ヴィレッタに地下の状況を確認すると、どうやら地下は5階まであるらしく、部屋数もかなりの量だと言う事だ。
どの部屋にあるかは知らされなかったが、その地下に行くための道は1本で、そこと、各フロアに兵を配置しているのだと言う。
部下に指示を出し終わった後、僕は建物の周りを丹念に調べることにした。 流石のゼロも、何処に目的の物があるか解らない以上、地下を掘ってくる事はないだろう。
なにせこの場所が選ばれたのも予告後の事だ。下準備など出来てはいまい。
となると侵入は地上から。
ゼロの事だ、この建物の図面は手に入れている事だろう。
地下への道が一本だけ、その一本を馬鹿正直に通ってくるだろうか?
答えは否。
ゼロが藤堂とカレンの3人で強行突破なんて策は考えないだろうし、睡眠薬や催涙弾で隙を作ってその場所を通るとも考えにくい。
あからさまな1本道ならなおさらだ。あっという間に取り押さえられるか、反対に閉じ込められるだけ。
ならば別ルートか。
建物の壁には特に怪しいものは見当たらない。
既に兵士の中にゼロたちが紛れているとしたらアウトだ。
中に入ることができれば、1階の床に穴をあけて別ルートを作る、という可能性を調べて回れるのだが、それも今は出来ない。
あーもう、外しか回れないのにどうしろって言うんだ!
僕は両手を頭に置き、くしゃくしゃと髪をかき乱した。
警備の指示や、建物の周辺を調べているうちに、気が付いたら辺りは明るくなり始めていた。
時計を見るともう朝の5時だ。
いつの間にそんなに時間がたっていたのだろう。
同じ考えを堂々めぐりしていたせいか、時間の感覚が狂っていた。

「だめだ、今日はまだ始まったばかりなのに、こんな事でどうするんだ。・・・散歩でもして気分転換でもするか」

この施設は人里離れた森の中にある。
人の手が入っていない木々に囲まれた薄気味悪い施設。
何度見ても何も変化は見られない。
うん、一旦ここから離れて、気分を変えてから考えた方がいい案浮かぶかも。
僕は部下の一人に、しばらくこの場を離れることを告げ、森の中に足を踏み入れた。
それから、どれくらい歩いただろう。
誰かが長年歩いたような獣道を見つけ、それをひたすら辿っていると何か音が聞こえた。

「ほわぁぁぁぁぁぁぁ」
「・・った・・ル・・・君!」

それは悲鳴のような声と、誰かが呼びかける声
僕はとっさにその声の方へ走り出した
辿りついた先には開けた空間。
そこに居たのは

「藤堂先生!?」
「スザク君!!」

まさか、なんでこんな場所に!?
反応は藤堂の方が早かった。とっさに僕が居る場所とは反対方向に走り出す。

「待って下さい!」

僕は思わずその後を全速力で追いかけた。
藤堂が居たその場所から聞こえた悲鳴の事を、僕はその時完全に忘れていた。




「くっそ!失態だ」

俺は舌打ちをした。
上を見上げると、こちらを見下ろす心配そうな藤堂の顔。
だが、次の瞬間、聞きなれた声が聞こえてきた。

「藤堂先生!?」
「スザク君!!」

この声、やはりイレギュラーか。
どうやってこの場所を嗅ぎつけたんだイレギュラーめ!

「待って下さい!」

瞬時に囮となる判断をした藤堂を追いかけたのだろう、スザクの声が遠くなり、辺りには静寂が戻った。
ふう、と俺は詰めていた息を吐いた。
この隠し通路は入り口を知らない者は、岩と木の陰になっていてなかなか見つける事は出来ないはずだ。岩に偽装されていた扉が今は開かれた状態なので、よく見ればばれてしまうが仕方がない。
俺は、今使ったロープを念の為強く引っ張ってみたが、しっかりと木の幹に括りつけたおかげで外れることはなさそうだ。・・・落ちたのは、俺の握力が足りなかったからじゃない、足場にした壁が思いの外滑ったのが悪いんだ。
足を滑らせた拍子に手を離してしまい、思わず背中を打ちつけたが、あと少しで地面に着く距離だったおかげで大したことはない。
怪我もしていないから、なにも問題はない。想定の範囲内だ。
俺は立ち上がると、仮面をいったん外し、仮面の中のボタンを操作した。
視界を暗視モードにし、仮面をかぶり直す。
すると、真っ暗で何もないように見えた空間に、横に伸びる通路が見えた。
あの施設は確かに地下へ入るための通路は1つしかないが、緊急用の秘密の通路があった。
ただしこれは極秘中の極秘で図面には一切記載されていなかったが。
俺は図面の僅かな違和感に気づき、この入口を探し当てたわけだが、あのイレギュラーはどうやってここにたどり着いたのだろうか?
まさか野生の感という不確かなものではないだろうな?
まあいい、俺が考えるべきはアイツの事ではない。
怪盗ゼロとして、仲間であるC.C.と宝を盗み出すこと。
さて、ここから先の地図はないが、あの図面からある程度の予想は立ててはいる。
藤堂がスザクの相手をしている間に、目的を果たさなければ。
俺は通路を進み、その奥にある鉄の扉の前に立った。
予想通り電子制御されたその扉はすんなり開ける事が出来た。
中はコンクリート打ちっぱなしの通路。
あちらこちらひび割れていて、崩れそうになっている場所もある。
これも予想の範囲内。
目的地までこの通路がつながっている事を願いながら、俺は足を踏み出した。

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