黒の至宝 第27話

「よくやったC.C.。ルート7を通り二人を連れて脱出しろ」

通信を切り、ナナリーを無事に発見できた事に安堵の息を吐いた。
この後C.C.は用意した車に二人を案内する手はずだ。
幸いシュナイゼルはアッシュフォードから障害を持った娘を誘拐したとは聞いているようだが、それがナナリーだとは気づいていなかったようだ。汚れ仕事は自分の手ではやらず、不要な情報を遮断する性格のお陰で助かったが。

「シュナイゼルめ、よくもナナリーを人質になど!ああ、ナナリー、誘拐されるなんて、お前の繊細な心をどれだけ苦しめたか。抱きしめる事の出来ない兄を許しておくれ」

超弩級シスコンであるルルーシュは、2か月以上も軟禁され、恐怖に怯えていたであろう妹を想うと、シュナイゼルへの怒りがさらに膨れ上がった。

「くくくくくっ、フハハハハハ!見ていろシュナイゼル!貴様の不老不死の夢、目の前で打ち砕いてくれる!」

まさに悪の化身と言わんばかりの笑い声と笑みでルルーシュはゼロの仮面をかぶった。

「ふむ、これも駄目か。他に何か案はないのかね?」

シュナイゼルは顎に手を置き、静かに周りを見据えた。
思いつく限りの案を出したが、なにも変化はない。

ちらりと時計を伺うと、ここに来て既に2時間。よく粘っていると自分を褒めてやりたい。
僅かな動作だったというのに、私が時計を見たことにシュナイゼルが気づき、こちらを見た。

「あ、あとは、時間的なものがあるかもしれませんね。特定の時間に何かしら変化が起きるとか、この宝石が太陽を表すならば、月の光による変化なども考えられます」

私は誤魔化すように、時間が関係ありそうな内容を思いつくまま言葉にした。

「成程、その可能性は否定できないね」

ロイヤルスマイルを浮かべながら答えるその姿に、私は胸を撫で下ろした。
間もなく願いが叶う可能性があるせいか、シュナイゼルは始終楽しそうに私たちの案を試していた。
その時、突然部屋の明かりが落ちた。
この部屋は外部から中が見えないようにと、厚い遮光カーテンが引かれているため、照明が落ちれば辺りは真っ暗闇だ。
唯一光を放っているのは<漆黒の夜明け>のみ
突然の環境の変化に皆の動きが止まったその時、フハハハハとあの笑い声が聞こえてきた次の瞬間、照明が灯る。
笑い声のした方に視線を向けると、黒のマントと仮面を身に付けた怪盗ゼロがそこに立っていた。
ゼロの後ろのカーテンが揺れている。今の一瞬で窓を開け、部屋に入ってきたのだ。

「ゼロ!!」

スザクが椅子から立ち上がり、ゼロに向かって走り出した。

「藤堂!」
「了解した!」

ゼロの後ろ、遮光カーテンの向こうから、日本刀を構えた藤堂が躍り出た。
スザクは足を止め、咄嗟に後ろに飛び距離を取る。
カノンとスザクが急いで外の警備に連絡を取ろうとしているが、どうやら繋がらないらしい。 相手が出ないというよりは、妨害電波が出ていて、通信機が使用できない状態のようだった。
完全防音のこの部屋で起きている事を、外に待機しているジェレミア達は気付いた様子もない。

「これはこれは、よく来たねゼロ。だが、私は君を招待していないのだが?」

ソファーの横に立ちながら、ロイヤルスマイルを浮かべたシュナイゼルはゼロに語りかけた。

「ええ、招待はされておりませんが、<漆黒の夜明け>を頂くと事前にご連絡差し上げたはずですが?」

牽制しあう藤堂とスザクを気に留めることなく、ゼロはシュナイゼルへと歩みを進めた。
カノンがシュナイゼルを庇うように立つ。
私たちは椅子から立ち上がることなく、その様子を見つめていた。
全員の視線がゼロに集中したその時、再び部屋が暗闇に包まれた。

「あっ!」

私が驚きの声を上げたその瞬間、<漆黒の夜明け>が、光り輝く軌跡を残しながらゼロが居た場所とは反対の窓へと飛んで行った。
反射的に走りだそうとしたスザクを牽制する藤堂の気配。

「<漆黒の夜明け>が!」

ルーベンの叫び声が聞こえたとき、その光り輝く箱は降下する前に空中で静止した。
そして再び明かりが灯ったその時には、<漆黒の夜明け>は赤いスーツを身にまとった赤毛の少女の手に収まっていた。

「紅月カレン!」

カノンは拳銃を取り出し、その少女に照準を向けるが、少女はすでに視界を覆っていた暗視ゴーグルを外し、左手に握られた赤い拳銃をシュナイゼルに向けていた。
そして、カノンを牽制しながら足早に移動し、その箱をゼロに手渡すと、箱を手にしたゼロは、フハハハハハハとポーズをつけながら高らかに笑った。

「秘宝<漆黒の夜明け>は我々黒の騎士団がもらった!」
「ゼロ!!」

再びスザクがゼロの元へ走ろうとするのを藤堂が愛刀<残月>で牽制し、カノンが動こうとするのを、カレンが愛銃<紅蓮>で牽制する。

「シュナイゼル殿下、あなたがアッシュフォード家の次女ナナ・アッシュフォードを監禁していた証拠と、この部屋で行われていた一部始終を録画した監視カメラの映像。 それら全て我々黒の騎士団が押えた。この箱を開けるために犠牲となった貴族たちの情報も含めてな。楽しみにしているといい、全て白日の元へと晒して見せよう!この私が!」

マントを翻しながら、ゼロは箱を持っていない手を高らかに振り上げた。

「では、諸君。我々はここで失礼する」

優雅に一礼をしたゼロは、遮光カーテンを勢いよく開け、その身を窓の外へと躍らせると、上から垂れ下がるロープを片手でつかみ、そのまま滑り降りた。
藤堂とカレンも、ジリジリと窓へ移動し、藤堂、次にカレンが威嚇射撃をしながら飛び降りた。

「待てっ!」

スザクが後を追おうと窓に身を乗り出そうとした瞬間、下から発砲音がし、慌ててその身を逸らした。
今の弾が当たったのだろう、ロープが重力に従いするりと落ちた。
既に地上に降りたゼロと藤堂が走り出し、カレンは窓に照準を合わせた状態で二人の後を追っていた。
地上を警備していたはずの軍人、警察が地上に倒れている姿が見える。
通信が一切使えなくなったために、この異常に誰も気がつかなかったのか?スザクは鋭い舌打ちをし、窓から飛び降りた。一瞬で起きたそれらの出来事を呆然と見ていたカノンは我に返り、大急ぎで扉を開けた。

「ジェレミア卿!何をしているの!ゼロよ!ゼロが現れて殿下の宝を盗んでいったわ!」
「なっ!なんですと!?」

ジェレミアはまさか!と目を見開いた。

「ゼロは窓から逃げたわ!急いで捕まえなさい!」
「イエス・マイロード!!!」

先ほどは全く使えなかった通信機器が回復しており、ジェレミアは急いで指示を出し、カノンも私兵に急いで連絡を取る。
辺りが物々しい空気となっている中、シュナイゼルは優雅に歩みを進め、窓から外を眺めた。

「高々泥棒が、私の邪魔をするというのかい?私の願いを邪魔するものは、誰一人許すつもりはないよ?」

言葉そのものは柔らかく感じるが、その声音は鋭く、低かった。
執拗な執着を見せ、獲物をいたぶる事に愉悦を覚える白き蛇。
その姿にその場にいた者は全員、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
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