クロキシ本店営業中 第3話


トウキョウ租界の一等地。
丁度いいタイミングで閉店した店舗を購入し、外観も内装も全て純和風に作り替えた。とはいえ、白ではなく黒を基調としたその店舗には、堂々と黒の騎士団直営店と書かれていた。もちろん騎士団のマークも入っている。
店舗名は<和食処クロキシ>。
今後日本各地に展開していく予定なので一応本店となる。
ゼロが当初話していたように、ここは和食を提供する食堂なのだが、レジの横に売店も併設されており、そこでは手作りの弁当が売られていた。
値段もリーズナブルで、手が出やすいようにしている。
日本各地の農家といつの間にか契約を結び、海産物も団員が毎朝仕入れに行く。
どこにそんな知識や経験がある者がいたんだと尋ねたら、終戦後職を追われはしたが、元々料理人だった者、海産物を扱っていた者、農作物を扱っていた者があちこちにいるじゃないかと言われた。言われてみればそうなのだ。嘗て自分で店を経営していた者や働いていた者、あるいは志していた者が溢れている。
7年前彼らは戦争でその道を断たれた。
いつかまた。そんな希望を胸に生きている者たちがいてもおかしくは無い。
つまり団員の中ににいてもおかしくは無いのだ。
この店の改築にしてもそうだ。元々建築関係に携わっていた団員たちが、生き生きとした表情で細部までこだわり完成させた。
弁当の容器一つにしても、ブリタニアから仕入れなければいけない物は、かつて営業を行っていた団員達が総出で交渉し、安く仕入れることにも成功していた。
一人では無理だが、黒の騎士団と言う場所に集まった多くの者たちの強い思いが、不可能を可能にしようとしていた。
・・・と、考える事が出来れば楽なのだが。
看板にでかでかと黒の騎士団と書くのか。
そこは隠さなきゃ駄目じゃないのか?
一応私たちはテロリストだぞ?
とか、団服で作業するな。
とか、突っ込みどころが多すぎて、感動も何もできやしない。
解った事は、戦いには向かないが有能な人材が黒の騎士団内には眠っていたということだ。そして彼らが一致団結し、こうして一つの形を成した。
今はもう、深く考えずにその結論だけ受け入れよう。

「いらっしゃいませ!黒の騎士団直営店、和食処クロキシ、本日開店です!」

と、元気よく愛想を振りまいているのはこの店の看板娘カレン。
着物をアレンジした衣服・・・まあ、カグヤの衣装を思い出してくれ。ああいうので、かつミニスカの美少女が呼び込みをしていて、その上連日テレビや雑誌で話題となっていた黒の騎士団の食堂。
開店前からイレブンが長い行列を成していた。
もちろんイレブンだけではなく、ブリタニア人の姿も混ざっている。
飲食店経験を持つ女性(もちろん同じ衣装)とカレンはテキパキと客を捌いていった。
同じく看板娘である私は、もう一つの目玉である弁当コーナーにいた。
つまり弁当売り場の売り子だ。
ちなみにこの場所は看板娘が二人いるため、大繁盛していて、はっきり言って捌き切れない状態だった。それでも看板娘2人、団員2人の4人でどうにか客を捌いてく。
これ以上この場所に人は入らないし、何より人手が足りない。
だからここは自然と流れ作業となり、無駄のない動きで次々捌いて行った。

「鮭弁当2つ」

その言葉に、私は鮭弁当二つを袋に入れる。もちろん割り箸付きだ。
ブリタニア人にはプラスチックのフォークをつける。

「のり弁とちらし寿司2つ」

その言葉に団員が同じように袋に入れて行く。
私と団員二人はこうして品物を用意し、袋に入れる担当だ。

「ありがとうございます」

にこやかに笑顔で応対し、レジを打ち料金を受け取るのはもう一人の売り子。
ここの会計を一手に担っている黒髪に白磁の肌、深いアメジストの瞳を持つ共犯者。
こいつは全ての弁当の値段を覚えている上に電卓いらずだから、私たちが応対するよりも格段に早いのだ。
ちなみにここにいる名目はクラスメイトのカレンに応援を頼まれたから。
だからゼロではなくルルーシュとしてバイトに来ている。
それでなくても人気のあるこの男が、フェロモンボイスで応対し、さわやかな笑顔を向ける物だから、通りがかりの人までつい並んで買ってしまう。
本人も意識して愛想良くしているため、フェロモン垂れ流しの状態だった。
これはある意味危険な状態なのだが、本人はそんな事に気づいていないから注意が必要だと、幹部は内心冷や汗を流していた。
さらにまずい事に、お金を受け取る時、お釣りを渡す時に、相手の手を取り両手で渡すから、皆頬を赤らめている。わざと大きな札を出して手に触ろうとする連中ばかりで小銭の在庫が心配になるほど。
つまりこいつのファンがウナギ登りどころか鯉の滝登り状態で現在急上昇中なのだ。
これ以上増やしてどうするんだ。
今でさえ面倒だというのに。
残念なことと言えば、この男は売り子だというのに、男用のごく普通の黒地に地味な柄の着物を着ていることだ。
どうして私たちのように可愛らしく、可憐で、そしてちょっときわどい衣装じゃないんだ。まあ男だからだと言われそうだが、お前は看板娘に数えられているんだからな。
この衣装を着る権利はあるんだ。
とはいってもここは台があるから見えるのは腰より上だけだが。
お弁当は作っても作っても次々無くなり、その上食堂も全席埋まって待ち時間1時間以上と言う状態で、厨房は大忙しだった。
とうとう販売数に製造数が負け、弁当の数が心もとなくなった頃、ルルーシュは「厨房を手伝ってくる。ここは任せた」と、奥へ引っ込んだ。
いかに屈強な男たちとはいえ、そろそろスタミナ切れの時間。ルルーシュが厨房に入ることで一気に活気が出るだろう。・・・藤堂たちの幹部の苦労は増える訳だがまあ、仕方ない。
その瞬間、それを残念がる者たちの声が聞こえた。
・・・私が、この私がここにいるのに何だその不満そうな声は。
ついついいらっとした私は、にっこりと必殺の笑みをのせた。その瞬間、あの男に向いていた視線がこちらに向く。「お・・・男よりやっぱり美少女だよな」と、フェロモンに充てられていた男が正気を取り戻し、私に赤い顔を向ける。
しまった、やりすぎたか。
再び無表情で応対したが、どうあがいても私は美少女。
あいつのようにフェロモン垂れ流しじゃないから、集客力は落ちたが、それでも常に人だかりが出来てしまった。

こうして和食処クロキシ本店は順調すぎる第一歩を踏み出したのだ。

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