クロキシ本店営業中 第4話


フハハハハハハハ。
相変わらず正義の味方とは思えないような笑い声を上げた共犯者を、私はちらりと覗き見た。今日はクラブハウスなので食事は待望のピザ。至福の時を過ごしていたのにと、思わず机に向かいパソコンを弄っている男に尋ねた。

「どうした?今日は随分と機嫌がいいな」
「当然だ。見ろC.C.」

そう言って何やら画面を向けてくるので、私はのそりとベッドから身を起こした。
クロキシが開店してから1週間。
連日弁当売りをさせられたため、足腰が痛み、どうしても動きが緩慢になる。

「お前、不老不死なのに筋肉痛になるのか?」
「即死級の怪我はすぐに治るが、この手の物は普通の人間と変わらないんだよ」

そう答えると「やはり年には勝てないのか」と、不名誉ない呟きが聞こえ、私は痛む体を無視して機敏に動き、画面を見た。
くそ、湿布でも張っておくんだった。
画面に映し出されたのは大量の数字。
それが意味する所を私は考え、成程と頷いた。

「すごいな。ここまで売り上げがあるのか」

それは和食処クロキシの収支報告だった。
あれだけの来客数だからかなりの黒字だと思っていたが、私の予想をはるかに上回っていた。上回りすぎていたと言ってもいい。
何だこれ。本当に1店舗の売上なのか?純利益が恐ろしい事になってるぞ?

「今はまだ物珍しさが先行しているからな。この売上は一時的なものだ。今後も品質を落とすことなく管理し、リピーターを呼び込まなければいけない」
「そうだな。話題性が無くなってからが勝負だろう」

とはいえ、あの店の料理はルルーシュ仕込み。私も食べたが非常に美味かった。
その上料金も良心的で、接客態度もいい。
ダイエットに向いているという情報まで流れたため、女性客が一気に増えた。
最初は黒の騎士団を馬鹿にし、騒ぐ目的で来たのだろうブリタニア人や軍人でさえ「イレブンの食事など家畜の餌だ」と言いながら一口食べた後は、黙々と平らげ、土産に弁当まで買って行くのだ。
ルルーシュ恐るべし。
がっちり客のハートだけではなく胃袋をも掴んでいた。
行列に並んで食べる時間は無い客は弁当売り場に雪崩れ込む。
だから弁当も飛ぶように売れ続け、売れ残るなんて事はまずない。
むしろ材量が尽きて連日売り切れている状態だ。
看板娘三姉妹と密かに呼ばれている私、カレン、ルルーシュが居る時はさらに売り上げが伸びた。残念ながらカレンとルルーシュは学業とテロ活動があるためなかなか来れないが、私はテロ以外暇だろうと連日こき使われていた。
おかげで私に花束を持ってくる馬鹿まで湧き始めて、正直もう働きたくは無い、働いたら負けだと思い始めているが、ルルーシュをあの場に置く以上護衛は必要だからとも思い我慢して仕事をこなしている。
まあ、私にもバイト代が出るから、それでピザを食べまくるつもりだが。

「団員が張り切っていて、今のうちに2店舗目をと言ってきている。桐原からもキョウトに是非と言われているんだが」

桐原までか。黒の騎士団関係者にまともな人間はいないのか?

「いいんじゃないか?お前のレシピ通りに作れる料理人がいれば、繁盛まちがいなしだ。美味しいご飯は活力の源。皆こぞって食べにくるだろうさ」

看板娘がいないから集客力は落ちるだろうが。

「やはり話題性があるうちに出すほうがいいか」

カレンとC.C.は本店から動かす予定は無いから仕方がないな。
いまだに看板娘No1が自分だという事に気づいていないルルーシュは、よし、と頷いた後、2店舗目の出店場所を探し始めた。

こうして黒の騎士団は着実のその行動範囲を広げて行った。

「いや、これは行動範囲を広げたと言っていいのか?本当にいいのか?」
「C.C.、考えるな。考えたら思考のループから抜け出せなくなる」

どうやら一度そのループにはまったらしいルルーシュは眉を寄せそう忠告してきた。

「思いっきり活動拠点とバレている以上、ブリタニアがその気になれば一網打尽だな」
「いくら俺でもこんな場所をアジトにはしない。ちゃんと別に用意する・・・が、団員をこちらにかなり持っていかれるんだ・・・っ、俺の目的はブリタニアの破壊であって、飲食店での日本制覇ではないのだがっ!」
「考えるなルルーシュ。資金だ。活動資金を稼いでいるんだ。これだけの黒字ならKMF作り放題だぞ。なんならお前の専用機も作ればいい。防御力主体の指揮官機だ」
「・・・そうだな」

相変わらずこの環境に今だ馴染めない二人は、そうやって無理やり納得しながら着実に日本全国に店舗を増やしていった。



店舗数が7を数えた頃、ブリタニア政庁で怒りに身を震わせている人物がいた。
当然、コーネリア・リ・ブリタニア総督である。
テロリストの店に客など入るはずがない。入るとしても物珍しさからだ。話題性が無くなればすぐに潰れる。
閑古鳥が鳴き、寂れて、力無く項垂れる黒の騎士団員。
それを見て、高笑いする気満々だったのだが、予想外に和食処クロキシは大繁盛していて、店舗数を増やしているのだ。

「ええい!どういうことだ!」

はっきり言って潰れる事が解りきっていたから、動向など気にしていなかった。だが、クロキシに客を取られた近隣の店から苦情が殺到し、そんな事あるはず無いと調べたところ、こんな状況だったのだ。

「安くて、速くて、美味いことから、我が軍の者も良く利用しているようです。接客態度もよく、気持ちよく食事ができるという情報もあります」
「なんだと!?」

ブリタニア軍人がエリア11の食べ物をだと!?

「その上、和食はヘルシーな物が多く、ダイエットにも向いていると、若い女性を中心に話題となっていて、今度黒の騎士団監修日本の食という料理本が出版されるとか・・・」
「・・・日本だと!?その名はもう無い、ここはエリア11だ!」

一瞬ヘルシー、そしてダイエットと言う言葉に心がぐらりと揺れたが、日本と言う名前でどうにか持ちこたえた。

「ですが、黒の騎士団はあくまでもこの地を日本と呼んでいます。それに既に公表された本のタイトルを変える事は難しいかと」

既に予告されている本のタイトルを変えれば、横暴だとされ総督の名前に傷が。

「おのれゼロ、連日行列だと!?一体どのような手を・・・まさか、食事に薬を!?」

麻薬を混ぜ込み、知らぬ間に中毒症状を起こさせているのでは。

「いえ、検査機関で調べたところそのような薬は出ていません」

私も疑いました。

「くっ!このまま奴らの思い通りにさせる訳には・・・そうだ!」
「何かいい考えでも?」
「我々も店を出すのだ!話題性と立地条件が良かったから繁盛しているだけに違いない!ならば我々が同じ条件で出店すれば、黒の騎士団ごときが経営する店ではなく、我々の店に来るに違いない!」


こうして食事処クロキシの目の前にレストランブリタニアが開店することとなった。



食事に麻薬は、お隣の国で客寄せに使われてましたよね。
今も使う所があるとか。飲み物にも混ぜるようです。
そんなの使うより、美味しい料理出せばいいのにと思うのですが。

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