クロキシ本店営業中 第8話 |
月曜日。 当然授業のあるルルーシュとカレンは教室にいた。 はっきり言って、コーネリアが軍人を総出で建設に出している今がチャンス。 とも考えていたが、あんな疲れ切ったスザクが戦場に出たら・・・という親友フィルターが働いてしまい、結局何事もなく月曜を迎えた。 これは私情じゃない、和食処クロキシが忙しかったから仕方がないんだ。 と、本末転倒な言い訳を自分にした時点で、俺は何をやっているんだ。とルルーシュは激しく凹んでしまい、どの道テロ活動は無理だったのだが。 休み時間になると、皆話題のレストランブリタニアが気になるのか、その話題で持ちきりだった。そして、小型テレビで見ていた者が、いろいろと情報を流してくる。 昼休みになり、疲れ切った表情のルルーシュは、屋上にカレンと二人で来ていた。 もちろんルルーシュ手製の弁当付きだ。 お昼になり、ルルーシュが当たり前のようにカレンを誘い、カレンも特に気にすることなく当たり前のように誘いに乗ったため、今頃教室で騒ぎになっているだろうが、疲れきっている二人はそんなことにも気付かなかった。 その上、ルルーシュが二人分の弁当を手に持ち、カレンは手ぶら。 怪しんだクラスメイトが、ルルーシュとカレンが並び、ルルーシュの弁当を食べている場面を目にし、多くのルルーシュ、そしてカレンのファンが勝手に失恋している最中なのだが、二人は当然気づいていない。 「なあカレン」 流石に連日の和食に飽きたのか、今日のお弁当は中華だった。 これにはカレンも大喜びで、早速春巻きにかじりつく。 「何?」 あんた中華も美味しいのねと、カレンは箸を動かす。 「平日朝から開店はいい。セットメニューなのもいいだろう。だが、一番安いランチが1食20ブリタニアポンドってどういう事なんだ?」 (※1ブリタニアポンド=100円として2000円だと思ってください。今のポンドレート基準なら180円台なので3600円ですが※) 「まあ、私は食べに行かないわね。それならうちのお弁当買うかな。1/4以下で食べれるわよ」 がさりと紙を開く音が聞こえたので見ると、ルルーシュは今日のチラシを広げていた。当然A2サイズで馬鹿でかい。 流石に開店日にはいろいろ決まったらしく、メニューの一部が書かれている。 コース料理は目が飛び出る値段だった。 「私、てっきりうちの店潰しに来るんだって思ってたのよね」 客層、全く被らないわよね。 なにせ和食処クロキシの料理は高くても10。弁当は5以下が殆どだ。 ボリュームもあり、値段も安い事でも人気がある。 何せターゲットは労働賃金の安いイレブンなのだから、当然の価格帯だ。 「俺もそう思っていた。だから、弁当にしても、こちらの値段に合わせてくるとばかり・・・」 だから、今後の展開としては値引き合戦や客引き合戦。 看板娘によるお色気対決や、料理対決など想像していたんだが。 そんな話し以前の状態だった。 「ターゲットがよく解らないわよね」 クロキシのターゲットは最初から低賃金層であるイレブン。 だが、勝手にダイエット目的の女性が付随し、健康を気にする男性もついてきたため、ブリタニア人も多い。 「少なくても日本人には無理だろう。メニューを見る限り健康志向、ダイエット目的の者も行くと思えない・・・しかしこれでこの値段なのか」 もし同じメニューをクロキシで出すなら、半額以下になるだろうな。 「まあ、いい食材使ってそうだし、人件費高そうだし、仕方ないんじゃない?何より広告費すごいんでしょ?」 ゴールデンタイムのCMは、1回放送するのに2万以上かかる。それをこの3日の間、全局、全時間ずっと占拠しているのだ。 税金を使ってない事を祈るばかりだ。 「だがこの店、クロキシを潰す目的じゃないなら、何のための出店なんだ?」 その当たり前の問いにカレンは眉を寄せ考え込んだ。 「潰すならもっと早くに動くでしょ?7店舗も建った後なんて後手すぎじゃない?急にお店を出したって事は、何か他に理由があるんじゃないの?じゃなきゃせめて1週間は見て準備するでしょ?」 2日で完成させたのはすごいが、作るならもっとじっくり作るはずである。 本来なら数ヶ月掛けて完成させるべきものだ。 それをしなかったという事は、今日開店と言う事に何か意味があるのではないか。 ・・・何も思い当たらないが。 「・・・そうだよな」 思考のループに嵌ったらしくどうやら食欲が失せたようだった。 完全に箸の止まったルルーシュの弁当箱をじっと見る。 「そうよ。ねえルルーシュ、その春巻き貰っていい?」 「なんだ、気に入ったのか?」 そう言って弁当箱を差し出す。 「うん、凄く美味しかった。お店に中華は出さないの?」 カレンはありがとうと言って箸を伸ばした。 やはり連日和食だけでは自分たちのように飽きてしまう。 ならば和洋中織り交ぜて出すのも手ではないかと言う事なのだが。 「何品か出すのも有りかと思ってはいるが、和食処と謳った以上、和食一筋で行くべきじゃないか?」 それに、あの店には和食を広める目的もあるからな。 和食に興味を持ったブリタニア人も多く、日本食の本も売れ行きが好調で、累計1000万部を超えていた。 ゼロ監修の和の料理道具まで発売され、そちらも好調らしい。 この豊富な資金で現在KMFを大量生産中だ。 ラクシャータが大喜びで紅蓮の改造とゼロ専用機・蜃気楼の作成をしている。 「餃子ももらいっ」 カレンは行儀悪くルルーシュのお弁当箱に入っている餃子(ニンニク抜き)を箸で刺した。 そんな様子を何人もの学生が見ているとも知らず。 教室へ戻ると、まるでお通夜のような暗さが支配しており、カレンとルルーシュは思わず顔を見合わせた後、それぞれの席に着いた。 「まったく。あいつの予想が外れるなんて、槍が降ってくるんじゃないだろうな!」 C.C.は文句を言いながら、ルルーシュ特製中華弁当を口にした。 ああ、美味い!この麻婆豆腐ものすごく美味いが、この腹立たしさを解消するには濃厚なチーズたっぷりのピザが必要だ!! なにせ、開店して数日は和食処クロキシよりもレストランブリタニアの方が人が入るだろうと、ルルーシュは予想していたのだ。 というか全員そう思っていた。 普通は誰でもそう考えるし、外れるなんて方があり得ない。 だが、蓋を開けてみると、レストランブリタニアの食事は馬鹿高く、なぜかドレスコードもあり、ぶらりと立ち寄れる店では無かったのだ。 肩すかしをくらった客は、いつも通りこちらの店に流れ込んできた。 むしろ遠方からレストランブリタニア狙いで来た客でさえ、ドレスコードで引っかかり入店が許されず、ならばクロキシ本店で食べて行こうという流れが出来上がってしまい、はっきり言って看板娘3姉妹が出てくる日並みに忙しい。 今日休みにしていた団員も急ぎ呼び出し、今フル稼働で接客、製造中だ。 まるで土日並みの忙しさに、目が回りそうだった。 ああ、腹は立つが飯は美味い。 ゆっくりとお米をかみしめていると、携帯が鳴り、出るとそれは共犯者の物だった。 「おい、店が繁盛しすぎて手が足りないぞ!」 私は開口一番そう文句を言った。 『だろうな。すまない、これは予想外だった。臨時ボーナスを払うと全員に通達してくれ』 ボーナスと言う言葉に私は反応した。 電話の向こうでカレンの喜ぶ声も聞こえる。 「つまりピザか」 『違うだろう。まあ、お前はその金でピザを買えばいい』 言うだけ言って男は電話を切った。 やれやれ。 「仕方ない。ピザのためにも少し頑張るか」 だがいいのだろうかかこれで? いや、駄目だろう。 テロリストだぞ私たちは。 コンコンと言うノックの後、扉が開かれ千葉が顔をのぞかせた。 「C.C.、そろそろ店に出てくれるか?」 「ああ、今行くよ」 まあ、あの男のことだ。これを足掛かりにして本気で何かやるのだろう。 そうだよな?お前まで感化されてないよな? C.C.は一抹の不安を覚えながら売店へ足を向けた。 |