クロキシ本店営業中 第9話 |
「やっぱり皇族や貴族だと、庶民とは金銭感覚が違うんだよなぁ」 最愛の皇族は二人共庶民的だけど。 スザクは内心呆れた様子で、閑散とした店内を一瞥した。 人が大量に押し掛け、人手が足りなくなるだろうからと、若い軍人がヘルプにかりだされたのだが、はっきり言ってやる事は全くなかった。 当然だと思う。 こんな価格設定では、人も入らないだろう。 特にイレブンには無理だ。 「枢木、思っていてもそれは口に出してはいけない」 ヴィレッタが、眉を寄せてそう言った。 メニューを見て愕然したのは皆同じだった。 まさか、あの庶民派レストランに対抗するために建てられたこの店が高級レストランだったとは誰も思うまい。 一番高いメニューだと、スザクの1カ月分の給料でも足りないのだ。 一番安くて20ブリタニアポンド。 そこに水の料金に席料まで加わるから結局20じゃ済まない。 何だろうこれ。 僕なら絶対入らないなと思いながら、スザクは暇つぶしにメニューを流し見た。 「総督はこの値段設定、知っているんですよね?」 「・・・当然だ。庶民向けの設定にしたとおっしゃっていたからな」 庶民向け。 皇族や貴族の感覚では、この値段が庶民なのだろうか。 やはり感覚が違いすぎる。 「総督は、クロキシのメニューを見ていないんですね」 それを知っていれば、どの価格帯で戦うべきか解るはずなのだ。 「おそらくな」 その上ドレスコード付き。 まあ、皇族や貴族なら普段着でも十分問題無いレベルではあるが、一般市民の普段着ではまず無理だ。 このレストランに相応しくない客は不要というなら、その事もちゃんとCMで言うべきだ。 知らずに来店し、門前払いされた客が次々にクロキシに流れて行くため、あちらは土日並みの混雑となっている。 とはいえ全員が入れないわけではなく、条件を満たし中に入れる客もいる。 そして目にした値段に驚き、比較的安いランチを注文し食べているのだが、女性はともかく男性は信じられないぐらいゆっくりと食事をしていた。 その理由は女性スタッフの制服にあった。 僕はちらりと隣にいるヴィレッタを視界に収める。 しっかし凄い格好だよね。 あちらの看板娘に対抗するため、若い女性スタッフは全員ミニスカ。 まあそれはいいんだが、夜会のような高級感のあるドレスで、胸元が大きくあいているうえに、ひらひらとした生地のミニスカなので、ちょっとした風でめくれ上がるし、屈めば見える。 それを見て男たちは喜んでいるし、僕も嬉しいけど、豪華絢爛な店内、一流のシェフが作る料理、そこにこの衣装はちょっと違うんじゃないかと思ってしまう。 どうしても水商売にしか見えないのだ。 スタッフは当然そんな仕事の人たちじゃないから、この制服には戸惑っているし、ヴィレッタなど、裾を気にして常に押さえている状態だ。 まあ、男としてはそう言う恥じらう姿も嬉しいんだけどね。 看板娘の話が出たのは一昨日。 総督が、ならば人目を引く衣装をと言ったのが昨日。 だからまあ、これが精いっぱいだったんだろうし、着て見るまでこうなるなんて思わなかったんだろうな。 まあ、ある意味リピーターは期待できるけど・・・。 「品位に欠ける衣装だと言わざるをえないね」 聞き覚えのある声がし、振り向くと幽霊クロヴィスが不愉快そうな顔でそこにいた。 「殿下・・・」 まだ成仏してないんですか。 「この建物もそうだ。まったくもって下品としか言えない」 どうやらご立腹のようで、僕はヴィレッタに視線を向けると、どうやら理由を知っているらしく嘆息した。 「クロヴィス殿下が設計したレストランも、衣装も総督は破棄されたのだ」 「え?」 芸術面で名を馳せているクロヴィスのデザインを? 僕は思わず目を見開いた。 「そうなのだよ。私の設計通り作れば時間がかかるという理由でね」 ああ、成程と頷いた。 それにしても、みんな平然と幽霊を受け入れすぎじゃないだろうか。 その時、店内がざわめきだしたので、視線を向けると。 「・・・あ、あの、僕裏に行きますね」 これはまずいと僕はそう告げた。 「・・・ああ、その方がいいだろう」 また何かあったら困るからな。 躓いて何かを壊すとかな。 「苦労をかけるね。枢木」 クロヴィスにまでそう言われ、僕はそそくさとその場を後にした。 テレビクルーをひきつれた僕の主。 ユーフェミアが笑顔で入店してきたのだ。 |