クロキシ本店営業中 第10話 |
今日は来るな。これ以上客はいらない。 そう言われてしまい、ヘルプに行くのを諦めたルルーシュは、ナナリーと久々にのんびりとお茶を楽しんでいた。 付けているテレビはニュース。 最近各地で起きている事件や事故に関する内容ではあったが、それらを話題にしながら、いろいろと話をし、二人にとっては至福のひと時を過ごしていた。 『え?』 突然驚くようなキャスターの声が聞こえ、ルルーシュはそちらに視線を向けた。 何やらカンペのようなものをスタッフが急ぎ渡していた。 「何かあったんですか?」 「何だろうね?どうやら急ぎのニュースらしいけど」 予定を変更するのだからよほどの内容だろう。 ルルーシュとナナリーは真剣な表情で画面を見つめた。 『予定を変更し、レストランブリタニアの開店情報をお知らせいたします』 「え?」 「・・・」 ナナリーの驚きの声が上がったが、ルルーシュは建築中の現場にユーフェミアが来たのを目撃していた。 だから、ああ、ユフィがまたやらかしたかと、思わず頭を抱えた。 そして予想に違わず出てきたのはユーフェミア。 「ユフィ姉様、楽しそうですね」 くすくすと、好意的な意見を言うナナリーに、お前は本当に優しい子だ。俺のように悪い思いを抱いたりしないんだなと、密かに感動をしながら、そうだね。と答えた。 今朝からのレストラン特集はどれも店の外を映した物だったが、さすがユーフェミア。 アポなしでもどんどん店舗内へ入っていった。 ・・・可哀そうに。スタッフが慌てている姿が滑稽だった。 だが、そうやって映し出された店内に、ルルーシュは驚きの声を上げた。 「なんだ、客が随分と少ないな」 「そうなんですか?」 開店日だというのに、席の半分以上が空席なのだ。 価格帯とドレスコードのせいで来店できない事は予想していたが、ここまでとは。 ちらちらと画面の端に映る和食処クロキシ本店は、反対に黒山の人だかりで、それが余計にレストランブリタニア内の寂しさを強調していた。 『あら?その洋服、少しスカートが短くありませんか?』 ユーフェミアのその言葉に、店内からスタッフの方へとカメラが向いた。 そこには、その生地のドレスなのにどうしてそんなに短いんだ!?と、思わず頭の中で突っ込みを入れてしまうほど、短いスカートを身に纏った女性従業員の姿が映し出された。 「どんな制服なんですか?」 「ふんわりとした生地なのにスカートが短すぎるんだ。あれでは少し屈んだだけで下着が見えてしまうだろうな」 豪華な制服なのになぜかミニスカ。 水商売というか、男向けの衣装にしか見えない。 確かにクロキシもミニスカだが、上は和服で胸元など見えないし、売店に固定のC.C.以外全員足はニーハイソックス+編みあげブーツだから絶対領域以外肌は見えない。 スカートの下はフリル付きのペチコート。 しかも実はパンツタイプなので間違っても下着が露出する事は無い。 当然その事も計算ずくでの長さにしている。 女性従業員が安心して走り回れる親切設計なのだ! だが、レストランブリタニアの衣装は短すぎてペチコートなど履けないし、あの下にショート丈のペチパンツを履いたら間抜けになる。 誰だあの衣装用意したの。 従業員が皆困っているじゃないか。 速攻首にしろと言いたい。 きょろきょろとあたりを見回しながら店内を説明するユーフェミア。 そう言えばスザクが居ないなと思いながら見ていると、ユーフェミアが爆弾を唐突に落としてくれた。 『黒の騎士団のお店は凄く人が多いのですね。見てください、お客がなかなか品物を買えずに困っています』 確かにそうだが、それをテレビで流していいものだろうか。 敵の店が人気で、自分の店が閑古鳥だと言っているようなものだ。 「クロキシは大盛況のようですね」 ナナリーは思わず苦笑した。 「そのようだね。カレンの話では、レストランに入れなかった人が買いに来て大変らしいよ?」 「では本来であればレストランに入るお客様なのですね?ならば、そのお客様に入ってもらえるように改善すれば、きっと席も埋まります」 お前はその事に気づいてくれるか。さすがナナリーだ。 「そうだね。ドレスコードを廃止すれば、それだけで席は埋まると思うよ」 何せ今も来店しようとした私服の客が、入り口で追い返されているのだ。 彼らが普通に来店すれば、席は余裕で埋まるだろう。 「ドレスコードがあるのですか?」 意外だという様に、ナナリーは口にした。 「少なくても俺たちの私服では無理だろうね。映像に映っている人たちは全員スーツを着ているよ」 きっと仕事でスーツを着ている人たちだろうね。 その言葉に、ナナリーは驚き、なら庶民にはなかなか入れませんね。と困ったように笑った。 ぶらりと租界を歩き、お腹がすいたからと気軽に入れる店では無いことがナナリーにも解ったのだろう。 「和食処クロキシの向かいに建てたので、てっきり同じようなお店だと思っていました」 それは皆思っている事だった。 どう考えても黒の騎士団に対抗するために用意したとしか思えないから、クロキシを知る客は、同じ感覚でレストランに入ろうとして追い出されているのだ。 だが、爆弾はここからが本番だった。 『きっと、クロキシの店員はまだ慣れていなくて手が遅いのですね。ならば、レストランブリタニアも協力するべきです。こちらにはプロの従業員がたくさんいて、見ての通り余裕がありますから』 さらりと失礼な事を口にしながら、にこやかにユーフェミアがそう告げた。 その言葉に、流石のナナリーも絶句し、眉を寄せこちらを見た。 「お兄様?協力とは一体・・・」 聞き間違いでしょうか? 「客層も何もかも違うから、協力などできないと思うけどね」 聞き間違いじゃないよ。 『そうです。クロキシで調理したお弁当もこちらで売ればいいのです。そうすればあんなに列を作らなくてもいいのですから』 いい考えだと言わんばかりの笑みでそう口にするため、レストランの従業員も皆困惑顔だ。 「・・・意味が解りません」 相手の店よりまず自分の店では? 「俺もだよ、ナナリー」 幻聴じゃないよな? 聞いている者は皆そう思ったという。 「大体なぜそれをブリタニアがやるんでしょうか。必要ならクロキシが売店を増やすなり、従業員を増やすなり、8号店を租界に出すなりすればいい話ですよね」 「そうだね。行列に関してもクロキシの問題であって、ユフィが口出す事ではないよ。ユフィがすべきことは、客の入らないレストランブリタニアをどうすべきか、だからね」 「・・・そうですよね」 そして、最後の大型爆弾がさく裂する。 『私、ユーフェミア・リ・ブリタニアはレストランブリタニア、そして食事処クロキシが協力できるよう、ここの場所にレストラン特区を設立する事を宣言します』 この言葉に、突っ込みを入れる気力のある者は誰も居なかった。 |