クロキシ本店営業中 第11話 |
「早速、クロキシに行って黒の騎士団に話しをしましょう!」 思い立ったら即行動のユーフェミアは、その足で和食処クロキシへ向かった。 予定外の行動に慌てたテレビ局の人間は、機材をどうにか担ぎながらユーフェミアを追いかけ、人だかりの出来た店舗前にやってきた。 陰で見ていたスザクも、ヴィレッタも、こうなってはもう止まらない事は熟知していたため追いかける事は無かった。 その代わり控室へと移動し、テレビのチャンネルをつけ、何が起きるのかは見届ける事にした。 大盛況のクロキシを背に、笑顔を振りまくユーフェミアがテレビ画面には映された。 「見てください。やはり人の手が間に合っていないようです」 突然やってきた副総督に客も団員も全員驚きそちらへ視線を向けた。 その上その発言は、まるで黒の騎士団の団員の手が遅いのが原因で混雑しているかのようで、団員は皆不愉快そうに顔を歪める。 「なんだ。レストランが閑古鳥だからと、こちらにイチャモンでも付けに来たのか?」 不敵な笑みを浮かべ、売店からそう尋ねたのは当然C.C.。 ユーフェミアは振り向きC.C.に視線を向けると、売店前に集まっていた人たちは二人の間を開けるように移動した。 「違います!このお店が大変そうなので、レストランブリタニアの者達が手伝えるよう、この地区をレストラン特区とし、黒の騎士団とブリタニアが協力できる環境を整えます」 レストランブリタニアは、従業員が皆プロですから素早く動けるため、お客を待たせないだけです。 「・・・お前、自分が何を言っているか解ってるのか?」 言っている意味が私にはさっぱり理解できないんだが。 思わず半眼になり、睨むというよりも、正気かこいつ。という視線を向けながらC.C.は言った。 もちろん周りにいる全員が同じ気持ちである。 「もちろんです!」 即答され、C.C.は、駄目だこいつ早くどうにかしないと。と、思い口を開いた。 「そんな特区も条約も必要無い。余計な事をしないでもらおうか」 「失礼な。余計なことではありません。貴方は今、どれだけの人を待たせているか解っているのですか?」 その流れを分断しているお前に言われたくない。と言いたいが、そこはあえて無視をした。 「お前こそ、このような行列がどれほど宣伝効果があるか解っているのか?ああ、解るわけ無いよな?私たちは忙しいからさっさと消えてくれないか。無知なお姫様」 行列のある場所に人は並びたくなる。 だからある程度列ができる様にしているのだ。そうでなければ、もっと団員を呼び寄せ、人海戦術で捌く。 「なっ!訂正しなさい!私は無知ではありません!」 「無知だよ。姉妹そろって無知すぎて、国民は内心笑っているぞ?ほら、これをくれてやる。それをお前の姉に見せて、自分たちがどれほど馬鹿な事をし、どれだけ無駄な税金を使ったか考えろ」 C.C.が差し出したのはこの店のメニュー。 だが、馬鹿にされたと受け取ったユーフェミアは手を出さなかった。 その時。 一瞬の静寂があたりを包みこむ。 その後ざわざわと人々は驚きの声を上げながらざわめき出した。 税金。 その言葉に、周りは騒然となっていた。 「まってC.C.、税金って!?」 騒ぎを聞きつけ、店内から出てきたカレンはそう口にした。 流石にこれらの資金はコーネリアの懐、あるいはリ家やその後援貴族が出していると誰もが思っているのだ。 いや、そうでなければならない。 国税を使うような内容では無いからだ。 「私も最初信じられなかったが、税金なんだよ。このレストランを作る費用も、宣伝広告費も、人件費も全て税金だ。しかも軍人まで借り出している時点で完全に公私混同。ああ、公私混同はブリタニア皇族はよくやるから今更か。国民の血税が湯水のごとく消えているため、ゲットー復興計画は一時中断。クロヴィスランド建設も中断。税金も上がるんじゃないかとゼロは言っていた」 周囲から驚きの声が上がるが、ユーフェミアは首を傾げただけだった。 「いいじゃないですか税金を使っても。税金は時間と共に政庁に集まるのですから、いくら使っても問題はありません。ああ、でもゲットー復興が遅れるのは問題ですね」 イレブンの皆さんが過ごしやすい環境を早く作りたいですし。 ざわめきは益々大きくなった。 「何言ってるの?私たちの税金が無駄に使われているのよ!?」 「無駄ですか?でも大した金額ではありませんし、そう怒る事では無いじゃないですか。あれだけの料理を安く食べられるのですし」 十分還元しています。 「安い!?あんな馬鹿高い料金取っておいて、それでも安いって、本気で言ってるの!?」 確かにランチメニューに20ブリタニアポンド(2000円)の物はあったが、それは本当にお試し料理的な位置づけで、それ以外はすべて桁が一つ違うのだ。 その発言に、流石のC.C.も思わず頭を抱えた。 「カレン、金銭感覚が違うんだ。皇族であるユーフェミアの衣服を見ろ、全て一流デザイナーによるオーダーメイドで1着数千ブリタニアポンド(数十万円)はする。身に着けているペンダントや靴はそれ以上だろう。彼女の私服でさえ私たちとは違うんだ」 腕時計は数万だろうな。 「数千!?」 この服が!? そんな高価に見えないわよ!? 「あら。皆さんもそのぐらいしているでしょう?」 コトリと首を傾げながら言うが、その姿を可愛いと思える人はここには居なかった。 自分たちとは完全に感覚の違う存在。 異物を見るような視線を向けられても、ユーフェミアは気づかないようだった。 「そもそも皇族など、だたの金食い虫なんだ。碌に公務にもつかずに山ほど従者を雇い入れ、食事だって一流のコックが最高の素材を使い作っている。みろ、私たちの制服はゼロ手製だから見た目は派手だが、ブーツは別としても1着40ブリタニアポンド(4000円)程度しか掛かっていない」 どうしても着物地で作りたいと拘ったため、予想より高くついたと喚いていたがな。 ゼロの手製!? 辺りは別の意味でざわめき「あーそうなんだ。ホント器用よねゼロは」と、カレンが平然と答えたため、真実なのだと皆理解した。 テロリストのトップが洋裁。 皆あの仮面と黒衣のゼロがミシンをカタカタと動かす姿を想像し、思わず吹き出した。 だが、庶民感覚のゼロだからこそ、この店の料理のボリューム、そして値段設定なのだと理解する。 「40!?そんな安く作れるのですか?ちゃんと布を使っているんですよね?」 変な素材じゃないんですか?ごみで捨てられた布とか。と、嫌な者を見るような目でユーフェミアはカレンの衣装を見た。 「変って、あんたね。私たちの時給いくらか解ってんの?1時間10ブリタニアポンド(千円)よ!1日8時間で80。1ヵ月22日働いて1760よ!数千なんて、何カ月分のお給料なのよ!」 こんな激務をこなしているのだから、正直もう少し欲しい所だが、何せここはテロリストの経営する店。 本来ならその資金は全てテロ資金になってもおかしくは無い。 だから給料が出るだけでも凄い事なのだ。 ちなみにカレンは学生だから10だが、他の者はもう少し貰っているし、今日の臨時ボーナスは一人300出るそうだ。 おかげでみんなやる気を出し、カレンもこうして放課後から働いていた。 「そんなに安いんですか!?そんなに少ないなら何も買えないじゃないですか。ゼロはどこですか?ちゃんとお給料を支払うよう私が交渉してあげます!」 いくらなんでも酷すぎます! 「はあ?あんた正気!?」 日本人から見ればここはかなり時給高いのよ!? イレブンの最低賃金は6ブリタニアポンド程度なのに10なのよ! 「・・・ちなみに1時間いくらで交渉する気だ?」 いつの間にか売店から出てきたC.C.がそう尋ねた。 「1時間最低でも100ブリタニアポンド(1万円)です!」 「「「「ふざけんな!」」」」 流石に周りにいた客も全員皇女の発言に突っ込みを入れた。 10年以上前の年金か保険関係のニュースで、ヤラセかもしれませんが、建物から出てきた職員に「国民から集めたお金を無駄遣いしている」みたいな質問を投げかけたところ、職員が「毎月増える資金なんだから、使ってもいいじゃないか」というような発言をしたのが妙に印象的でした。 国民からの血税も、彼らからしたら毎月勝手に入ってくる膨大な資金で、使わなければ損。という感覚だったのかなと。まあ、ヤラセかもしれませんが。 寧ろヤラセであって欲しい。 確かそのお金で何か投資していて、それが赤字になっているとか、そんな話だった気がします。 このユーフェミアはそんな職員がモデル。 |