クロキシ本店営業中 第12話


当然ではあるが、これら一部始終を見ていたルルーシュとナナリーは空いた口が塞がらない状態だった。
ルルーシュはもちろんゼロであるし、賭けチェスや株などで稼ぎ、住む場所と咲世子の賃金はアッシュフォード持ちではあるが、それ以外はすべて自分で賄っていた。
当然ナナリーの分もだ。
ここに世話になった当初の生活費でさえ、倍返し済みだ。
だから金銭感覚は厳しい目を持つ主婦並み。
ナナリーはその辺全てルルーシュが隠している為知らないが、友人たちがお小遣いで何を買うか話をしたり、自分もルルーシュからお小遣いをもらって買い物をするため、ごく一般的な金銭感覚を持っていた。
だから、ユーフェミアの発言に驚くしかないのだ。

「お兄様、皆さんが収めている税金は、無駄遣いしていいものではないはずです」
「そうだね。だが、これがブリタニアの、いや、皇族の感覚なんだよ。その筆頭が父上だ。ブリタニア宮殿には多くの離宮が存在し、そこには数多くの皇妃、そして俺たちの兄弟が暮らしている。皇妃となれなかった・・・いわゆる愛人も多い。皇帝一人の身の回りの世話に100人ほどの従者がいて、さらに警備の者も数多く駐在している。もちろん皇妃や皇子、皇女の身の回りの世話をする従者は一人につき20人はいる。それらも全て国税だ」
「私たちもそうだったのですか?」

アリエスの離宮に居た頃は、まだナナリーは幼く、あまり覚えていないのだろう。

「母さんは庶民出だから、他の離宮より人は少なかったが、それでも警備で20人以上、従者も10人を超えていた。たった3人の世話をするためにね」

身分を隠しているとはいえ、このクラブハウスにいるのはルルーシュとナナリー、そしてナナリーの介助役の咲世子のみ。
警備の面はともかく、生活するだけならそれで十分事足りるのだ。

「10人も、ですか」
「料理人、庭師、清掃員、世話役のメイド、運転手など、専門の者がいたからね」

それらがすべて国税で賄われているのだ。その上、毎日のように夜会が開かれ、湯水のごとく金が浪費されていた。 そんな生活をしている者に、庶民の感覚を知れというのは難しいだろう。そう考えれば、クロヴィスランドや美術館などを手掛けたクロヴィスは、しっかりと計画を立て、運営費は入場料でまかない、尚且つ黒字分は国庫に戻るよう考える事のできる人物だった。
暴言を言うなら、芸術品とは値段で価値が決まる。
芸術家として、どれだけ人を集め、支払わせるかを計算できる人だったのだろう。
そう考えると惜しい人材を殺してしまった。
・・・幽霊となってふらついてはいるが。

「そうだったんですね。知りませんでした」
「・・・ユフィが羨ましいかい?」

本来であれば、ナナリーもまたユーフェミアのように多くの従者に囲まれ、何不自由ない生活が出来たはずなのだ。
だが、ナナリーは首を振り、苦笑した。

「いえ、羨ましくありません。私はお兄様とこうして暮らせるだけで十分ですから」
「ありがとう、ナナリー。俺もお前がいてくれるだけで幸せだよ」

確実に国民は皇族に対し不信を抱くだろう。
これは使える。
ルルーシュは懐から携帯電話を取り出し、再びニュースへと視線を戻した。
画面には庶民の動揺など我関せずと言った顔で笑うユーフェミアが映っていた。


「これって、まずくありませんか?」

スザクは控室のテレビを見ながら眉を寄せた。

「拙いだろうな。とはいえ、私たちではどうにもできまい」

慌ててやって来たダールトンも画面に映り、どうにか場を収めようとしているがもう無理だろう。
国民の血税を使いこのような店を建設した。
まあそれはいい。
だがその店は碌に人が入らず、閑古鳥が鳴いている。
それを改善させようというならいざ知らず、税金で働いている人間を、別の店に貸し出す、あるいはこの店そのものを貸し出すようなことまで言いだしているのだ。
国民が許すはずは無い。
これらのやり取りはもちろん街頭の巨大モニターにも映し出されている為、レストランに行こうなどと言う人はもう見えなかった。

「閉店ですね」
「そうだな」

結論は見えたと、二人はさっさと着替える事にした。



ゼロであるルルーシュは、一つの計画を立てていた。
この奇妙な状況を利用し、ブリタニアに経済的なダメージを与えるというのもだった。
それと同時に日本人の士気を上げる。
その手始めが和食処クロキシだったのだ。
既に失われつつある日本食を扱い、日本人だけではなくブリタニア人の胃袋をも掴み、エリア11ではなく、日本と言う名前を限定された場所ではあるが取り戻す。
これは大成功だった。
日本食の本というタイトルであるにもかかわらず料理の本は飛ぶように売れ、こっそり日本の和の心、日本の文化といった本も刊行したところ、こちらも予想をはるかに超える勢いで売れた上に、名前の規制も入らなかった。
最初はトウキョウだけだった店も、今ではキョウト、オオサカなどにも出店し、連日大盛況。
和食処クロキシの店長は当初ゼロだったが、コーネリアが「ブリタニア人と同じ条件で経営していい」という条件を呑んでいたため、和食処クロキシはこっそり株式会社となり、ゼロは代表取締役社長と言う地位についていた。
名前も経歴も一切不明な男が、総督との約条の力で市民権を得ていたのだ。
株式会社を経営できる。それはつまり株を購入する権利も得たという事。
豊富な資金はテロ資金に大半はあてられていたが、残りを使いゼロは株を買い占め始めた。特にイレブンが多く働く弱小企業を中心に買い占め、じわじわと子会社を増やしていった。
トップがゼロとなったことで正規な労働賃金が支払われるようになり、労働者はやる気を取り戻し、元々部品や精密機器の製造に力のあるイレブンたちは、次々と高性能な部品を作り始めた。もちろん大半はKMFの部品や、テロ用の資材だ。
部品からすべて作ることで、高性能な武器の製造を可能としたのだ。
とはいってもそれはあくまで裏の話。
表向きは携帯の部品や車の部品を手掛けている。
高品質の部品を取引したいと言って来るブリタニアの企業も出始めていた。
株だけではなく、いずれ出店する予定という名目で、各地の土地も買漁り、従業員の住居にする予定だからと古いアパートやマンションを格安で購入し、それまでの間は賃貸で貸し出す形で、家賃収入も得ていた。
表立って経営しているのは和食処クロキシだが、その裏ではじわじわと勢力を伸ばしていったのだ。
信じられないほど順調に進んでいる為、連日ルルーシュはいいのかこれで。
本当に規制されたり、資産を取り上げられたりしないのか?
と、胃が痛い思いをしながら売買を続けている事は誰も知らない。

11話
13話