クロキシ本店営業中 第13話


ユーフェミアのニュースを見てほしい。
ダールトンからの連絡に、コーネリアは急ぎテレビをつけた。
そこには目に入れても痛くないほど溺愛している妹ユーフェミアが映し出され「ああ、ユフィ。今日のその服もとてもよく似合っているよ」と、シスコン全開でその可憐な姿を堪能していた。

「・・・姫様。よろしいのですか?」

観賞している場合では無いでしょう。
そう言う思いを込め、ギルフォードは口を挟んだ。

「何がだ?」
「ユーフェミア様を、お止めなくてよろしいのかと」

血税を無駄使いしていいると公言したのは拙いのではないかと、言外に指摘する。

「ああ、そうだな。黒の騎士団の店の前にいたら危険だ。それにしてもユフィは優しいな。能力不足の黒の騎士団の手伝いまで買って出るとは。だがブリタニアは弱肉強食。無能な人間の経営する店など、そう長くは無いだろう」

ふん、勝ったな。
そう言いたげにコーネリアは胸を張った。

「いえ、そう言う話ではありません」
「違うのか?」
「税金の使い道の話です」
「別にユフィは間違った事など言っていないだろう」

心底不思議だという顔で言われ、その言葉に、ああ、そう言えばこの人も皇女だった。と、ギルフォードは嘆息した。
考えてみれば、コーネリアは政治的な意見や、会議には出るが、予算関係には一切手を出していないのだ。
そう言えば、グラストンナイツの装備は常に最新鋭だし、KMFに戦闘で傷やへこみが出来ようものならすぐに直されている。それらも当然税金だ。
金銭感覚の違い。
貴族であるギルフォードでさえ血税の重みは解っている。
上に立つ者がこれでは、国民感情は納得しないだろう。今後暴動に注意せねば。
いや、それよりも。
あの店の閉店は決定だな。
ギルフォードは、幸せそうな表情で妹を干渉しているコーネリアを見つめながらそう結論を出した。



この放送は、皇族が出ていることからブリタニア本国並びに各エリアで、ほぼリアルタイムで流された。
当然、一般市民は皇族の感覚に戸惑い、そして怒りを爆発させた。
その時である。

フハハハハハハハハ!

と、まるで「悪の総帥か?」と突っ込みたくなるような笑い声が響き渡った。
ハッとなったユーフェミアは辺りを見回し、「みろ、ゼロだ!」と、周りの者が指さした方へ視線を向けると、そこには黒衣の指導者、ゼロがいた。
その姿に周りは大喝さい。
ゼロ!ゼロ!ゼロ!とゼロコールが起きる始末だ。
ちなみにゼロが居るのは、和食処クロキシの屋根の上である。
非常に不安定な三角屋根の上に立つその姿は、地味に不安を煽るのだが、ゼロはお構いなしだった。
ゼロが手を動かすと、周りはしんと静まり返った。

「ユーフェミア副総督、貴女は税金を何だと思っているのです」
「国民の義務です」

強い視線をゼロに向けユーフェミアは答えた。

「そう、義務。国民が汗水流し働いて得た賃金から、強制的に国が吸い上げるいわば血税。それを貴女は無駄にしていると公言したのだ」
「結果的に無駄となってしまう事もありますが、レストランブリタニアは無駄ではありません。安い価格で食べることのできるレストランですから、皆喜んでいます!」

その言葉に、周りからブーイングが響き渡り、ユーフェミアは何かしらと言いたげに首をかしげた。
ゼロが再びククククク、フハハハハハと、高笑いを上げた事で周りは静かになる。

「安い、ですか。成程、貴女にとってあのレストランの食事は安いのですね」
「ええ。とても安いと思います。しかもランチメニューにはタダ同然のものまで用意されていますから、イレブンの皆さんも食べる事が出来ます」
「タダ同然。それはあの20ブリタニアポンドの料理の事ですね」
「そうです」
「C.C.、そこに居るな?」

ゼロは視線をユーフェミアから外すことなくそう呼ぶと、すぐに返事が返ってきた。

「ああ、居るぞ」
「皇女様に、我が和食処クロキシのメニューをプレゼントしたいのだが?」
「奇遇だな。それは私も考えていた」

既に手に持っていた予備のメニュー表をC.C.はすっと差し出した。ダールトンは警戒を示したが、ユーフェミアはそれを制した。
馬鹿にされていると感じたのか、その顔に怒りを乗せながら、メニューを手に取った。

「・・・え!?」

そして当然驚きの声を上げる。
ぱらぱらとメニューをめくる指が僅かに震えている。
あまりの驚きに目を大きく見開いていた。

「皇女殿下。それがごく一般的な料金です」

ゼロは静かに告げた。

「ありえませんこんな価格など!使われている肉は鳥や豚と書かれていますが、本当にそうなのですか?まさか廃棄される肉を使っているのでは!?」

なにせボリュームのある料理がレストランの半額以下なのだ。
材料に問題があると、ユーフェミアは非難するような声を上げた。

「いえ、産地より直接仕入れた新鮮な肉を使用しています。魚もその日の朝に魚河岸で仕入れてきたものを使用し、在庫が残った場合は、翌日以降の日替わりメニューの揚げ物に使われています」

賞味期限切れ食材など使用する事はありません。
ちなみに日替わりメニューは、価格の割にボリューム満点のため一番人気だ。
もちろん、ミミズやネズミの肉など使用するはずもない。

「これが、庶民が外食する際に支払う金額。皇族である貴女方の金銭感覚は我々とは違いすぎるのです」

クロキシは値段をある程度抑え、ボリュームもあるため、一般的とは言い難い気もするが、レストランブリタニアに比べればごくごく普通のレベルだ。
だから皆大きく頷いた。
納得顔で頷く国民の姿に、ユーフェミアは顔を曇らせ、ユーフェミアの手からメニューを受け取り中を確認していたダールトンは、この価格設定なら納得だと頷いた。
軍務にも携わるダールトンは、軍人が使っている食堂もたまに利用する。1食辺りいくら給料から天引きされているかも知っている為、飲食物の金銭感覚は人並みなのだ。
ちなみに軍部内に居る名誉ブリタニア人の食事は1食2ブリタニアポンドもかからない。
ダールトンもきっと驚くと思っていたユーフェミアだったが、反応が真逆だったため、酷く動揺していた。

「どうしてですか!?どうしてそんなに違いが!?」

本当にこれが普通なのですか!?

「解りませんか?貴女方が口にする豚肉は最高級の品種。その中でも最高級の部位。つまりごく一部の者にしか食す事の出来ない物ですが、我々が口にするのはごく一般的な豚。それだけでも価格に大きな差が生まれます」

同じ部位でも桁が一つ二つ変わるんですよ。

「やはり物が悪いのですね」
「あなた達が無駄に高価な物を口にしているだけです」
「つまりそれだけ味が劣るという事ですね」
「いえ、そうでもありませんよ。C.C.」
「わかった。では皇女殿下、店内へ。ここの料理を口にしてから文句を言うんだな」

そう言うと、ほら入れと言わんばかりに店を指差した。

「毒でも盛るつもりですか?まさか麻薬を!?」

だから皆、こんな粗悪な品を食べて文句を言わないのですね。

「そんなもの必要無いさ。この店は素朴で美味しい家庭料理が売りだ。お前にその美味しさを味わってもらおう」

カレンが扉を開け、中へ促した。
この騒ぎがあり、食事を終え、料金を支払った客は順次店の外に出たため、現在店内は誰も居ない。既に片付けも終え綺麗な物だ。
だが、ユーフェミアは頑なに入店を拒んだ。
その時である。

「いけませんユーフェミア様!ゼロ、何を考えている!!」

そう大声をあげ、目の前の店から走り込んでくる影が一つ。

あ。

皆がそう思った時にはもう遅かった。
その驚異的な身体能力を生かし、屋根の上に駆け上ると、その影は迷うことなくゼロに攻撃を仕掛けた。
当然、こんな状況で空気も読まずに攻撃を仕掛ける男など一人だけ。
体力は無いが、反射神経は人並みにあるおかげで、くるくるキックをどうにか腕で受け止めたが、そこは元々バランスの悪い三角屋根の上。
当然の結果として、ゼロは足を滑らせた。

「ほわあぁぁぁぁ!?」

ゼロには似つかわしくない素っ頓狂な悲鳴を上げ、屋根から地面へと落ちていった。




クラブハウスでのんびりニュースを見ている時ではないと、ルルーシュは必死になってここまでやって来ました。
きっと声は平静を装っていますが、全身汗だくです。

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