学ビノ園 第2話


いつもテレビで見せる取り繕った笑みとは違う、愛情に満ちた柔らかな笑みに、黄色い悲鳴が小さく上がった。ルルーシュは学園一の美形。そして、シュナイゼルも皇族の中では人気の高い美形だ。その二人が見つめ合う姿に、ちょっとだけ腐ってしまった女子たちは、キラキラとした瞳で成り行きを見守っていた。シャーリーでさえ、非現実のような光景に思わず頬を染めている。
ルルーシュは、そんな周りの反応に気づくこと無くスッと目を細め、シュナイゼルを見た。いや、睨みつけたという言葉が合うほど鋭い視線だった。それは、皇族に向けるべき視線ではないが、注意など誰にも出来なかった。

「おや、返事は無いのかなルルーシュ・ランペルージ。それとも、この名前では返事をしてもらえないのかな?」

それは脅迫だった。
案の定「この名前では」とは何の話だろう?と周りはざわめきだし、最悪だなとルルーシュは立ち上った。それを脅しとして使う以上、よほどの事がない限りその名は呼ばないだろう。少なくても今この場で出自をばらすつもりは無いらしい。つまり強制的に連れていく意思は現段階ではないという事。
ならば教師ごっこに付き合うのが最善。

「失礼いたしました、シュナイゼル殿下。まさか私の名を呼ばれるとは思わず、つい放心してしまいました」

皇族であるシュナイゼルに気押されることなく、凛とした佇まいでそこに立つルルーシュに、周りは驚きの目を向けた。元々その聡明さと美しさのせいで近寄りがたい雰囲気だったルルーシュだが、今はいつも以上に近寄りがたい空気を纏っていた。

「おやおや、それはいけないね。この程度の事で自分を見失うなど、あってはならない事だよ、ルルーシュ」
「申し訳ありません。それで、殿下。私に何か?」

あまりにも自然に、優雅に流れるような礼を取り、皇族相手に臆することのないルルーシュに、周りは一瞬驚いたが、あの会長に散々振り回され、それでも常に冷静に対処する姿を思い出し、その辺の経験がきっと生きているのだろう、流石副会長と、心の中で称賛を贈った。

「今日からこのクラスに担任になったとはいえ、私は何分教師というものは初めてでね。その上ここは庶民も通う学園だ。何かと手伝ってもらえると助かるのだが」

なるほど、それを理由にこちらの動きを封じるつもりか。

「私などがシュナイゼル殿下の手伝いなど、何か不手際があってはと、萎縮してしまいとても勤まるとは思えません。そのような大役は私のような一学生ではなく、当学園の教職員の中から選ぶべきかと存じます」

チラリとルルーシュは担任に視線を向けると、流れ落ちる汗をハンカチで拭きながら、自分には無理だと青ざめた顔で首を振っていた。今にも失神するのではないかと思うほど、挙動不審になっている。開かれたままになっている教室の前の扉を伺うと、教室の外には他の教師達が集まっていて、全員一様に顔を青ざめさせていた。
そのなかにルーベンがいない事に気付き、ルルーシュは目を眇めた。
そうだ。
本来であれば、理事長であるルーベンがここに来てシュナイゼルの紹介をしなければならないのに、それをせず、ここにも姿をあらわさないのはおかしい。よくみると、教師の中に青ざめた顔のミレイが混ざっており、携帯で誰かに連絡を取っていた。ルーベンもミレイも知らされておらず、シュナイゼルは突然この場にやってきたと見るべきか。

「ここの教師たちに私の相手などさせては、心労で倒れてしまいそうだね。やはりこうして私の相手も難なくこなせる君が適任だと思うが、どうかなルルーシュ」

にっこりと笑顔で尋ねる形をとっているが、これは命令だった。
これ以上の拒否は無意味。
ここは是と返し、隙を見てナナリーを・・・。
そう考えた時、廊下がひときわ騒がしくなった。
なんだ?と、全員の視線が教室の前の扉に集中する。
人の走る音、「邪魔だ!どかんか!」と叫ぶ男の声。
なんだ、今度は何があったとルルーシュも扉を見た時、シュナイゼルはやれやれとでも言う様に小さく肩をすくめたのが解った。
騒がしい音と共に教室内に乱入した者。
それは。

「兄上!どういう事ですか!!絶対に何もしないでくださいと、あれほどお願いしたではありませんか!!」

激昂しながらシュナイゼルに詰め寄ったその人物は、このエリア11総督にして神聖ブリタニア帝国第三皇子クロヴィス・ラ・ブリタニアだった。

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