学ビノ園 第5話


血を流し意識を無くしたスザクに後ろ髪を引かれながらも、ナナリーの元へと急いだ。体育を見学できないためクラブハウスへ戻ってきているはずのナナリーは、咲世子と共にリビングにいるはずだと、居住区を目指す。だが、辿り着いたその場所はいつもの穏やかさなど欠片も無く、緊迫した空気が流れていた。
リビングの、ルルーシュが立つ扉のすぐ傍には、怯えたナナリーを背にかばう咲世子、さらにその二人を庇うように見知らぬ少女が立っていた。
それは新緑の長い髪と、黄金の瞳を持つ美しい少女だった。
その少女は、侵入者が向けている銃口に怯えることなく、二人を守る盾のように立ち、凪いだ瞳で侵入者を見つめていた。ナナリーを殺害するために来たのだろう侵入者・・・いや、暗殺者は少女に気圧され、引き金を引くことも、その場を立ち去る事も出来ずにいたのだが、ルルーシュがこの場に入ったことで、その均衡が崩れた。
暗殺者は、室内に飛び込んできたルルーシュに迷うことなく銃口を向けた。

「駄目だ!殺すなっ!!」

それまで人形のように感情を見せなかった新緑の髪の少女は、悲痛な声を上げながら素早く反応した駆け出していた。そして、その身を盾にする様にルルーシュの前に立った瞬間、空気を震わせる銃声と共に崩れ落ちた。
目の前に立つ暗殺者の男が持つ銃口から白煙が昇り、ルルーシュの足元には美しい少女が倒れ伏していた。悪夢のような鮮やかな血の色がじゅうたんに広がっていくのを、ただ呆然と眺めていることしか出来ない。突然のことで頭が付いていかなかった。

「・・・お、おい!」

ルルーシュは慌てて少女の傍に膝をついた。
足元に崩れ落ちた少女の額から血が流れ出しており、それは明らかに致命傷で、その瞳は固く閉ざされていた。・・・即死だった。見ず知らずの少女は、ルルーシュの命を救うためにその身を投げ出した事だけは、停止しかけた思考でも悟る事が出来た。

「ちっ、まあいい、次は外さない」

少女が死んだことで調子を取り戻したのか、暗殺者は、銃口を再びルルーシュへと向けた。その動作はまるでスローモーションのようで、ルルーシュは逃げることもできず、少女を腕に抱いたまま、勝者の笑みを浮かべた男の姿をただ見つめていた。

「ルルーシュ様!お逃げください!」

咲世子が叫ぶ。

「お兄様!!」

ナナリーの悲痛な声が聞こえた。

死ぬのか、俺は、こんな所で。
ナナリーを置いて。
いや、俺がここで死ねば次はナナリーだ。
守れないのか、俺は。
たった一人の妹さえ!!




ゆっくりとした動作でルルーシュは抱きかかえていた少女を降ろし、ゆらりと立ち上った。銃を向けられているとは思えないその動きに、暗殺者は訝しんだが、既にその照準はルルーシュの額に向けられていた。この距離なら外さない。

「王の系譜を汚す穢れた血には死を!オールハイルブリタニア!オールハイルシャルル!」

勝者の余裕からか暗殺者は笑顔でそう叫び、引き金に指をかけた時、ルルーシュはゆっくりと顔をあげた。今から殺されるはずの者が浮かべるはずがない・・・不敵な笑みを乗せて。

「どうした?撃たないのか?」

まるで挑発するようにルルーシュは言った。
先ほどの怯えていた者と同一人物とは思えないほどの、威圧感を纏って。

「それとも気付いたか?撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけだと」

暗殺者は、思わずその姿に見入ってしまい、身動き一つ取れなかった。
下賤な血が参った劣等種。
そのような者が皇族であるなどあってはならない。
王の血筋を汚す穢れた血を持つ皇子と皇女は存在してはいけない。
そのはずなのに。
まだ成人も迎えていない目の前の人物から目が離せない。
美しく威厳のある立ち姿、妖艶に笑うその口元も、今まで見たことも無いほど美しいインペリアルパープルの瞳も、劣等種などとは程遠いほどの、王者の気品にあふれていた。耳に届く声でさえ、この心を震わせる。今まで会ったどの皇族も・・・自分の主でさえ、この者の前では霞んでしまうだろう。銃を握る手が震え、照準は定まらない。意識をしっかりと保たなければ、その足元に平伏してしまいそうになる。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」

すっと上げられたその指先からも、目をそらす事が出来なかった。

「今の主人の元を離れ、私たち兄妹に仕えよ!その命、私たちを守るために使え!」
「・・・イエス、ユアハイネス!」

力強く宣言された言葉に、心の底から喜びと共に是と返していた。

4話
6話