学ビノ園 第6話


礼を取り、跪いた暗殺者に、ほっと胸をなでおろした。
本来であれば、ナナリーに銃口を向けた段階で万死に値するが、ナナリーがこの場にいる以上血を流すわけにはいかない。盲目のナナリーは聴覚、嗅覚ともに健常者よりも発達している。むせ返るほどの血の臭い、人が死を迎える音を、これ以上ナナリーの心に刻む訳にはいかない。額から血を流し横たわる少女に授けられた力・・・絶対遵守のギアスがどれほど効果があるかは解らないが、今この場を切り抜ける間だけ持ってくれればいい。
警戒を解くことなく、ナナリーをせにかばいながらも、状況を理解できないとこちらを伺う咲世子に、ルルーシュは視線を向けた。

「咲世子さん・・・俺は・・・俺とナナリーは皇族です。この国から名前を奪い、尊厳を奪ったあの皇帝の実子なんです。・・・ただ、7年前、日本が戦争になった時、俺たちはこの国に捨てられましたが」

日本人である咲世子にとって、ルルーシュとナナリーは憎悪の対象であるシャルルの息子と言う事になる。ナナリーは咲世子を気に入っていた。他の人間には見せないほどの信頼を示し、咲世子はそれに応えてくれていた。そんな咲世子相手に、できることならギアスは使いたくはない。だが、ナナリーを守るために必要ならば、咲世子の意志を捻じ曲げる覚悟を持って、ルルーシュは口を開いた。

「ナナリー。クロヴィス兄上と、シュナイゼル兄上に俺たちの所在が知られた。この暗殺者はその結果だ」
「・・・っ!クロヴィスお兄様とシュナイゼルお兄様に・・・」

ブリタニアの宰相と、エリア11総督である皇族を兄と呼んだ二人は真剣そのもので、冗談でも妄言でもないのだと、咲世子はすっと目を細めた。

「スザクが助けに来てくれて、ここまで逃げることは出来たが、スザクはクラブハウスの前で撃たれてしまった。すぐに手当てをしなければならない。ナナリー、スザクを連れて一緒に逃げよう」
「スザクさんが!?・・・はい、お兄様。何処までもついて行きます!」
「・・・怪我人、ですか」

咲世子が尋ねてきたので、ルルーシュは頷いた。

「俺の親友で・・・咲世子さんと同じ日本人です」
「日本人・・・解りました、その方の手当ては私が。ルルーシュ様はナナリー様を」

咲世子は真剣な表情で頷くと、棚を開け救急道具を手にし、部屋を離れようとしたが、扉に手を掛ける前に素早く後ずさった。

「扉の向こうに誰かいます。しかも複数」

救急箱を放り投げ、咲世子はクナイを取り出し戦闘態勢に入った。

「咲世子さん!?」
「ルルーシュ様、今まで黙っておりましたが、私は嘗て日本に存在した隠密、篠崎流当主にございます」
「隠密・・・忍者ですか!?咲世子さんが!?」

あの、おっとりとしたメイドの咲世子が、忍者。予想外の展開が続きすぎて、もしかしたら会長の悪ふざけ、ドッキリ企画なんじゃないかと思い始めたが、クロヴィスとシュナイゼルが来た時点でそれは無いかと、ルルーシュはその手の思考は放棄した。
本当に咲世子が忍者なのだとすれば、これは心強い。

「外にいる者たちは、間違いなく敵でございます。お二人はここでお待ち下さい」

完全に戦う者の表情となった咲世子に、ルルーシュは頷いた。ここには自分の配下に置いた暗殺者がいて、いまはナナリーを守るように立ち、辺りを警戒している。この左目にはギアスもある。スザクのことは心配だが、ここまで二人で逃げてきたことで、スザクはこちらの関係者だと考えるはずだ。取引材料にできると判断し、殺しはしない。大丈夫、何も問題は無いと自分に言い聞かせたその時。

『停戦せよ。全員武器を捨て、降伏せよ。クロヴィス・ラ・ブリタニアの名において命ずる。全員武器を捨て投降せよ。既にお前たちの主はシュナイゼル兄上が押さえている。無駄な抵抗をせず、出てきなさい』

クラブハウスの外から、拡声器を通したクロヴィスの声が響き渡った。
暗殺者は外からの銃撃を警戒し、ナナリーを移動させ、咲世子は音もなく素早い動きで窓辺に移動し、外を伺った。ブリタニア軍と思われる者たちがクラブハウスを包囲しており、いつでも突入できる体制となっていて、辺りは物々しい空気が漂っていた。クロヴィスが乗っている車両から再び音声が聞こえる。

『これだけ言っても解らないのかね?それとも、お前たちに命じた者の名を言った方がいいのかな?』

苛立ちを込めたその声と同時に、クラブハウス内の至る場所から、窓の割れる音や、扉を打ち破る音が聞こえた。

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