学ビノ園 第10話


「不老不死とか、御伽話みたいだよね」

ぱくぱくと、白米を口に運びながらスザクは言った。
7年ぶりに一緒に食事をするが、美味しい美味しいと言いながら沢山食べる姿は昔と変わっていない。スザクの食べっぷりは見ていて気持ちがいいものだ。

「そうだな、普通であれば信じられない話ばかりだ。・・・スザク、お味噌汁のおかわりはいるか?」
「うん!ごはんもまだある?」

ワゴンに置かれていた鍋に入っていたお味噌汁を並々と注ぎ、サイドテーブルに置くと、茶碗をよこせと手を差し出した。

「ああ、まだある。ほら、漬物も分けてやる。煮物も食べるか?」

ルルーシュは自分の漬物と煮物をスザクの前に置いた。

「え?いいよ、ルルーシュが食べなよ。半分も食べてないじゃないか」
「お腹が一杯なんだよ。残すのも悪いから、食べてくれないか」

精神的にもいっぱいいっぱいだしな。
スザクが日本人だからと、わざわざ和食を用意してくれた咲世子には悪いが、これ以上は喉を通らない。

「相変わらず食が細いんだね。じゃあ貰おうかな」

にこにこ笑顔でスザクはお茶碗を受け取ると、漬物をパリパリと噛んだ。重傷ではないにせよ、銃で撃たれ意識不明になっていた上に、不老不死を含め正気を疑うような話をしたというのに「へー、そうなんだ」とあっさり流し、その上食欲旺盛なスザクを見て、その神経の太さを分けてほしいと心の底から思った。
あの後、ルルーシュは兄二人をさっさと追い返した。二人の私兵がクラブハウス周辺を警備するのも拒否したかったが、既に一度暗殺者が来た以上追い返すのも難しい。
仕方ないから私兵はそのままにし、ナナリーには咲世子とC.C.を護衛につけた。
C.C.は出会った当初からナナリーを守る様に立っていたし(超高ポイント)何より不老不死とはいえ、その身を盾にしてルルーシュを守った(高ポイント)さらにはギアスと言う異能を与えてくれた(高ポイント)から、敵とは考えにくく、ルルーシュから高ポイントを獲得する貴重な人材をクロヴィスの実験体などにさせるには惜しいため、こちらで引き取ることにしたのだ。
スザクの方はクロヴィスの元に戻すなど考えられなかったし、何より怪我人だ。
ルルーシュとナナリーの関係者と知られた時点で何をされるか解らないからと、当然引き取った。今はルルーシュの部屋のベッドで安静にしているが、怪我をしているとはいえスザクと二人なら出来ない事は無いと思っているので、こちらも特に問題は無い。

「で、結局どうするのさ?」

ルルーシュが残した煮物に箸をつけながらスザクは尋ねた。

「シュナイゼルはクロヴィスの説得も虚しく教師として居座る気満々だ。お前も動けるなら明日から通学するようにと言っていたが、無理はするな。俺たちの事や今回の件は、シュナイゼルが上手く誤魔化すと請け負ったから、まずはお手並み拝見という所だな」
「・・・そっか、どうにかなるといいね」

アレをどうやってうまくごまかすのだろう。
スザクは眉を寄せ一瞬考えはしたが、とりあえず頷くことにした。ルルーシュがそれで同意したのなら、自分が口を出す事ではない。

「それと、シュナイゼルがお前に、自分の直属である研究機関、特別派遣教導技術部のKMFのパイロットになるようにと言っていた。何でもお前はシミュレーターで最高値を叩きだしたとか・・・」
「シミュレーター・・・ああ、この前乗ったやつかな?」
「今回のお詫びだと言っていたが、どこまで本気なんだか。だが、貰っておいて損は無いだろう」

本来イレブンであるスザクは騎士にはれない。
だが、シュナイゼルから申し出てきたのだからうまくやるだろうし、軍属である以上何かあればスザクは戦場に駆り出されてしまう。碌な装備も無く下手な戦場に出すぐらいなら、最高のKMFをスザクに与えたい。その方が間違いなく生存率も上がるだろう。

「・・・貰ってって・・・そんな簡単な話なのかな?」

KMFに乗るという事は騎士候の地位を得るという事。
つまりは一代限りとはいえ貴族の仲間入りをするという事だ。
名誉であるスザクには本来あり得ない話なのに、いいのだろうか。
話がうますぎると、思わず眉を寄せた。

「お前が死にかけた詫びなんだから、安いぐらいだ」

寧ろまだ足りないと言いながら、不機嫌そうにお茶をすするルルーシュをみて、スザクは目を瞬かせた。

「う~ん、世界で唯一の第7世代なんだから、とんでもない価値があると思うんだけど、ルルーシュは僕にはそれ以上の価値があるって思ってくれてるってことかな?」

と、真っ直ぐで無垢な瞳で見つめられて、ルルーシュは思わずお茶を噴き出しかけた。
ランスロットにつぎ込まれている資金は膨大だ。それでなくても捨て石扱いされる名誉の命と釣り合うようなものではない。
だが、それでも足りないというのだから、ルルーシュの中のスザクがどれほど重要な位置にいるかは聞かなくても解る事だった。

「・・・っ!・・・あ、当たり前だ。お前は俺の親友なんだからな!」

明らかに動揺し、顔を真っ赤にして怒鳴るルルーシュに、スザクはにこにこと嬉しそうに「うん、僕たち親友だよね。ありがとうルルーシュ!」と返してくるからますます居心地が悪くなり、ルルーシュは立ち上った。

「た、食べ終わったなら、片付けるか」

いつになく乱暴にガチャガチャと食器を鳴らしながら、二人分の食器を乗せたワゴンを押し、ルルーシュはいそいそと扉へ向かった。

「走ると転ぶよ」
「うるさい、大丈夫だ!怪我人は大人しく寝ていろ!」

そう言い捨て、慌てて部屋を後にした。
ひとりきりになり、しんと静まり返った部屋でスザクは堪え切れずに笑いだした。

「あははは、顔を真っ赤にしちゃって、可愛いなぁ」

そんなに照れる事じゃないのに。
笑いながら、冷めてしまったお茶をすすった。
久しぶりに会ったルルーシュは、7年も会っていなかったのにいまだに親友と言ってくれる。その事も嬉しいし、まだ幼さは残るが美しく成長したその姿も喜ばしい物だ。
相変わらずナナリーの事が行動の指針になっている様子からも、恋人や好きな相手がいるとは思えない。もし気になる人がいたとしても、今なら余裕で勝てるだろう。
うんうん、理想的な状態で再会を果たせたわけだ。
とはいえ、今回の再開は別の不安も呼ぶ。

「シュナイゼル殿下は危険だな。絶対、狙ってるよね・・・」

相手は皇族、どうしたものかな。
片親だけとはいえ兄弟なんだし、馬鹿な事をしないでくれればいいんだけど。
・・・既にこれだけの事をしているから、何をしてくるかは予想できない。
シュナイゼルからルルーシュをどう守ればいいか考えてみた。
どう考えてもナナリーには興味なさそうだが、万が一ナナリーに興味を持った所でルルーシュが警戒し、危険だと解れば間違いなく攻撃を仕掛けるから、その辺の判断はルルーシュに任せて大丈夫。
だから自分が気にすべきはルルーシュだけ。
となると・・・・今と変わらないな。
まあ、何かあってもルルーシュは僕が守るからいいか。
悩むだけ無駄だな、スザクはさっさと思考を放棄した。

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