学ビノ園 第13話


「ではルルーシュ、今の部分を訳してみなさい」
「ルルーシュ、この問題は解けるかな?」
「・・・という事になる。ではルルーシュ、今私が話した内容を復唱しなさい」

シュナイゼルの授業は、クラス全員と言うよりも、ルルーシュ一人に対して行っていると言っていい状態になっていた。
とはいえ、それに誰も文句は言わない。
言えない。
相手が皇族だからという意味ではなく、授業を始めてぱらぱらと教科書をめくったシュナイゼルは「こんな幼稚な事を学んでいるのかね?私はこの程度の問題、10歳になる前には覚えたものだが」と言い始め、ルルーシュ以外ついていけないレベルの問題などを即興で出し始めたのだ。
特にシュナイゼルの話しの復唱など、その場で暗号のような内容を全部暗記しろと言っているような物で、全員お手上げ状態だった。
だから、下手にシュナイゼルの気を引いて、ルルーシュのように名指しで呼ばれた場合、答える事が出来ずオロオロするのが目に見えている為・・・自分たちは空気だ。ここにはルルーシュとシュナイゼルしかいないのだと自分に言い聞かせ、全員口を開くことなく、顔を俯かせたまま授業が終わるのを待っているのだ。
その中には当然、全く内容についていけないスザクも混ざっている。
まるでお通夜のような暗い空気の中、席を立ちシュナイゼルの言葉を復唱し終えたルルーシュは、大きな息を吐いた。

「・・・シュナイゼル殿下」
「ルルーシュ、今は先生と呼びなさい」
「シュナイゼル先生。申し訳ありませんが教科書に沿った授業をお願いいたします」

痺れを切らしたルルーシュがとうとう文句を言ったのだ。
幼いころ面識があった(と言う設定)とはいえ、皇子相手に注意をするなど、普通ではあり得ない状況だが、周りの生徒たちはルルーシュに、まるで英雄を見るかのような視線を向けた。勇者だ、勇者が立ち上った!ああ、ルルーシュに後光がさして見える!これでまともな授業が・・・暗号にしか聞こえない授業が終わる!と、皆が期待の眼差しを送る。

「ふむ、だがルルーシュ。教科書にこれだけ解りやすく載っているのだから、読めば理解はできるだろう。これに沿った授業などする必要はないのではないかな?それならば、応用を少しでも覚えたほうが君のためになる」
「シュナイゼル先生、たとえ教科書で解りやすく解説されていたとしても、普通の生徒にはそれだけで理解するのは難しいのです。それを理解させるために教師がさらに解りやすく順を追って解説するのが授業なのです」

あと、俺のためにという個人的な授業は止めてください。

「これの載っている以上に解りやすく教えろと?この内容さえ理解できない者など、教える価値は無いと思うのだが?」

ぱらぱらと、教科書をめくりながらシュナイゼルは呆れたように言った。

「いいえ、皆が皆、シュナイゼル先生のように物覚えがいいわけではなりません。それに、無能な教師か、いい教師かは、物覚えの悪い者にいかに物を覚えさせられるかで決まると言っても過言ではありませんよ」
「・・・私はいい教師ではないと言いたいようだね」

自分は最高の教師だと思っていたのだろう。
シュナイゼルは僅かに眉をあげた。

「ええ、その通りです。私のように教科書を読むだけで理解できる者の相手ではなく・・・スザクのように教科書は暗号にしか見えず、授業にも全くついていけない者を相手にし、ちゃんと授業について行けるようにする教師!それが理想の教師なのです!」

一見もっともらしく聞こえるが、ルルーシュはとにかく自分からシュナイゼルを引き離したくて・・・スザクを生贄に差し出しただけだった。
えええ!?と、スザクは抗議の視線をルルーシュに向けたが、その視線を完全にルルーシュは流した。
目的のためなら手段を選ばないのがルルーシュだ。
そのためなら、親友を馬鹿にするぐらい訳も無い。

「ちなみに、スザクは戦争のため小学校すら卒業していませんので、掛け算、割り算から教え直す必要があるでしょう。元々勉強嫌いでしたから、九九すらおぼえているか怪しいですよ?」

その言葉に、シュナイゼルはごみを見るような目をスザクに向けた。
そこまで馬鹿なのか?
と尋ねるような視線に、スザクはたまらず顔を赤面させ顔を俯かせた。
元々勉強は好きではなかったスザクだ。10歳の頃までに覚えたことなど・・・大半を忘れているに違いない。だから当然、高校の授業になどついて行けないことなどルルーシュにはお見通しだった。
幼いころスザクの宿題を見たこともあるため、九九はともかく掛け算割り算が怪しい事も知っていた。更には日本人だからブリタニア史には当然明るくは無いし、ブリタニア語に関しても話すことと、読む事はどうにかなるが、書くのは未だに苦手だ。
断言してもいい。
スザクはシュナイゼルにとって、未知の生物レベルの馬鹿だ。
この馬鹿に理解させられる授業など、ルルーシュでも難しい。

「・・・つまり、スザクを授業について来れるレベルにできれば・・・いや、スザクにも理解できる授業を行う事が出来れば、私は優秀な教師だと認めてもらえるわけだね」

これはルルーシュからの挑戦状だと受け取ったシュナイゼルは、ロイヤルスマイルを浮かべた。
ただ、シュナイゼルは授業以外でスザクに関わる気はなく、放課後居残りさせて個別授業などしたくは無かったため、あくまでも授業で理解させるつもりらしい。

「そうですね。もしスザクを一般生徒並みの学力にする事が出来れば・・・シュナイゼル先生の優秀さを誰もが認めるでしょう」

上手く乗ってきたなと、ルルーシュもまたロイヤルスマイルで返した。
正直にいえば、7年前にスザクの宿題を見た時でさえ、スザクの馬鹿さ加減と覚えの悪さに舌を巻いたルルーシュなのだ。今後スザクに教えることの手間をあれこれ考えていたが、シュナイゼルに丸投げ出来るならばそれに越したことは無い。

「いいだろう。では、明日からはスザクにも理解できるような完璧な授業を行おう」

知能は10歳レベルと言われたスザクが理解できる授業。
それは、このクラスの誰もが理解できる授業と言う事になる。
やっとまともな授業が受けられると、全員が安堵の息を吐いた。



この話がR18なら

「ではルルーシュ、今の部分を訳してみなさい」
「・・・という事になる。ではルルーシュ、今私が話した内容を復唱しなさい」

で、とんでもない内容の訳&復唱をさせられ、ルルーシュだけではなく、周りもドン引きするんだろうなと一瞬考えてしまいました まる

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