学ビノ園 第14話


体育。
俺にとって、必要以上に受けるなど無駄でしか無い授業、それが体育。
いつもなら、体育館に移動するクラスメイトに紛れて教室を出て、そのまま屋上かクラブハウス、あるいはこの時間に使用されない教室へ移動するのだが、今の俺にはそれを即行動に移せない理由があった。
だから俺は、教室を出ようとするリヴァルをすぐに捕まえた。

「リヴァル、スザクを体育館まで連れて行ってくれないか」

ニッコリと、大抵の人間を頷かせるさわやかな笑顔(と、ルルーシュだけが思っている)を浮かべて頼んだのだが、残念な事にリヴァルには今まで一度も通じたことはない。

「あー、またサボる気だろルルーシュ!」

今回も予想通り、この笑顔を無視した返答が来る。
あれだけスザクの爽やかな笑顔を想像して練習したが、まだまだ甘いようだ。

「シッ!大きな声を出すな」

スザクに聞こえるだろう!と、ルルーシュは慌ててリヴァルの口をふさいだ。
聞かれていないだろうな?と、後ろで待っているスザクにちらりと視線だけ向けると、体育が楽しみで仕方がない、早く行こうと、キラキラとした笑顔を向けてくるスザクがいた。聞かれなかったことに安堵の息を漏らす。
そんなルルーシュを眺めながら、スザクは無害そうな笑顔で首を傾げた。
なんか、あの二人仲がいいな。ルルーシュにも友達、いるんだな。でもさ、いくら男友達でもさ、ちょっと近すぎないかな?と、思わず殺意が混じった笑みを向けると、こちらを見ていたリヴァルと目があってしまった。彼は何かに気づいたのかびっくりしたような顔をしたが・・・大丈夫だろう。
すぐにいつもの好青年として高い評価を得ている笑顔を浮かべたら、見間違いだと思ってくれたようだ。
危ない危ない。
ルルーシュがこっち見てなくてよかったと、こちらも安堵の息を漏らした。

「ねえ、ルルーシュ。早く行こうよ?」

この二人がどんな関係かはまだよくわからないが、これ以上話をさせるのは問題がありすぎる。ここからだとルルーシュの背中しか見えないのだが、ルルーシュがリヴァルを呼び止めた時、リヴァルの後ろにいた男たちは、ルルーシュの声に反応してこちらを見た瞬間・・・全員顔を赤く染めたあと、足早にこの場を立ち去った。見てはいけない物を目にしてしまったような・・・明らかに普通の反応ではない。
一体どんな顔でリヴァルを呼び止めたんだろうね?と考えれば考えるほど、チリチリと胸の内が痛んだ。

「え、あ、ああ、そうだな。・・・リヴァル」

たのむ、と言おうとしたのだが、リヴァルは楽しげに笑みを浮かべた。

「だーめ。サボりの常習犯であるルルーシュ君は、今日はしっかりと授業に参加して、スザクがはやくクラスに馴染めるようにしなきゃならないんじゃないのかな?」
「この、ば・・・」
「サボる?ルルーシュ、体育サボるの?駄目だよ、サボったら。ほら行こう!リヴァル体育館どこ?」
「こっちこっち。いやースザクがいれば、ルルーシュのサボりが減りそうでよかったよかった」
「そんなにサボってるの!?」
「体育なんてほと・・・」
「リヴァル!!あ、スザク、急がないと着替える時間がなくなってしまう」
「え!?早く行こう!リヴァル急いで!」
「お、おう!」

スザクに腕を引かれながら、今日は抜け出すのは無理だと諦める。
とはいえ、「早く早く」と小さな子供のようにはしゃいでいるスザクを見ていると、仕方がないな、少しは付き合ってやるか。スザクがいれば体育も楽しいかもしれないな。と思ってしまったから、そう悪い気分ではない。
だから今日は真面目に体育に参加したのだが。
その事を今激しく後悔していた。

「ルルーシュ!この程度の運動で音をあげるとは、男として恥ずかしいと思え!」

そう檄を飛ばしているのは、本来ここに居ないはずの女性で。
更に言うならば腹違いの姉だった。
世間的な言い方をするならば。
ブリタニアの皇女殿下だ。
神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアが何故かここで片手に竹刀を持ちジャージを着て待機していたのだ。
何なんだこれは。
体育の教師は脂汗をかきながら平伏しており、体育館に集まったクラスメイト達も当然呆然とするしかなかった。
シュナイゼルに続いてコーネリアまで・・・何故か教師としてやってきたのだ。夢なら覚めてくれ。何でこのクラスばかり。みんなそう思ったのだが、口には出せなかった。
コーネリアは軍人でもあるため、軍人用のプログラムをこなせと無理難題を突き付けてきた。それに元気よく答え、軍人らしくこなしていくスザクとは対照的に、クラスメイト・・・特にルルーシュは速攻で音をあげた。

「立てルルーシュ!だらしがないぞ!枢木を見ろ、この程度難なくこなしているではないか!」

同じ年だろう!

「・・・はあ、はあ、お言葉ですが、コーネリア皇女殿下・・・はあ、はあ」
「今の私は先生だルルーシュ」
「コーネリア先生。このプログラムについて行けるのはスザクだけに見えますが」

スザクについて行ける男子は残念ながら一人もいない。体力自慢の運動部でさえ、ふらふらの足取りで今にも倒れそうになっていた。

「脆弱にして軟弱。情けないな」

口ではひどい事を言っているが、死んでいたと思っていた弟との触れあいに、コーネリアはものすごく楽しげな笑顔を浮かべていた。慈愛が滲む美しい笑顔、健康美あふれる豊満な肉体を持つ美女を前に、胸をときめかした男子生徒は多いのだが、スパルタな授業で体力を根こそぎ奪われたと同時にときめきも根こそぎ奪われていた。
何よりコーネリアに色目を使った男子には、鬼のような形相のギルフォードが追加プログラムを与えていたため、全員虫の息だ。

「はあはあ、軍人と一般人を同列に考えないでいただきたい」
「いい訳か?見苦しいぞ、それでもブリタニアの皇族か!」

コーネリアは平然と禁句を口にしたが、幸い既にスザクと早々にリタイアしていたルルーシュ以外全員グロッキー状態で、体育館は悲惨な状況となっていた。だからこの会話をまともに聞いている者などいなかった。
スザクはと言えば、ダールトンと楽しげに走り回っている。もちろん全力で。
まるで、散歩に連れ出してもらえてテンションが上がりすぎて、ハイテンションで走り回っている子犬のような可愛さが有り、つい目がスザクを追ってしまう。

「私は一般市民です皇女殿下。ですが、この量をブリタニアの皇族ならばこなせるのであれば、あちらで見学されているシュナイゼル殿下と、あちらでスケッチをされているクロヴィス殿下にも是非参加していただきたいのですが」

このままではクラス全員潰されてしまう。何よりもうこれ以上動きたくは無いと、ルルーシュは生贄を差し出した。
ストーカーのごとくカメラを手に見学をしているシュナイゼルと、ルルーシュの絵を描くのだと意気込んで、美術教師として潜り込んできたクロヴィスを目にし、コーネリアは頷いた。

「ふむ、確かに兄上とクロヴィスは常々運動不足だと思っていた所だ。いい機会だから二人にも参加してもらおう」

その後ルルーシュ並みの貧弱さを見せた二人に対し「兄上、クロヴィス!こんなことで力尽きるなど情けない!」と、そちらに意識が向いた隙に、全員その場から逃げだした。動きつかれたルルーシュはスザクに背負われ「姫様はルルーシュ様が生きておられた事を知り、はめを外されてしまったようで」と謝っていたダールトンにとりあえず手を振った。



ルルーシュ、その笑顔全然爽やかじゃない。
フェロモン駄々漏れのおねだり顔だ!
上目遣いで頬を染めるのは反則だろ!
って、いい加減突っ込んであげてリヴァルさん。
(勇者リヴァルに対する男たちの心の声)

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