学ビノ園 第16話


*

枢木スザク、C.C.、篠崎咲世子の3名は連れて行きます。
探さないでください。

ルルーシュ・ランペルージ
ナナリー・ランペルージ

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そんな書置きを残して二人が姿を消したのは、当然の結果と言えるだろう。
政治がどうの、若者の意見がどうのと理由はつけていたが、傍から見ていれば皇族が学園にやって来ていた理由はルルーシュに会うため以外に考えられなかった。
それも一人二人ではない。
今日は9人もの皇族がこの学園に教やってきたため、学園内外の警備は物々しく、生徒たちが学べる環境ではなくなっていた。
これだけの皇族が、テロが活発なこのエリア11にある学園に集まるのだから、テロを警戒し厳重な警備体制を敷くのは当然だった。だが、そこまでしてせっかく皇族たちが教師として入ったというのに、目的であるルルーシュがとうとう姿を消してしまった。
そのため皇族は全員意気消沈し、一応学園に未だいるのだが授業などできる状況ではなく、ほぼ全授業が自習となった。

暇ができれば噂話は捗るもの。
どうして皇族がルルーシュに会いに来るのか。
皆の興味は当然そこに集中した。
ルルーシュ達が否定しているから学園の皆もルルーシュ・ランペルージとナナリー・ランペルージは幼いころ皇族と交流があった・・・という事にしていたが、あれだけ騒ぎになれば過去の記事や事件が明るみになるのは当然の流れで、二人がエリア11の戦争前に留学という名目でこの国にやってきた皇族で、既に死んでいることになっていることは、実はその日のうちに学園中に知れ渡っていた。
育ちがいいとか品がいいというのは何となく皆わかっていたし、学園の王子様、お姫様と呼ばれていた二人が皇族と言うのは、驚きはしたが納得もした。
そんな二人が死を偽装し、一般人として学園に居たのはきっと深い理由があるからに違いない。だから誰もそこには触れず、皇族の方たちが何を目的にしているのか、ルルーシュ達がどう行動するのか傍観することにしていたのだ。
口出しできる状況じゃなかったともいえるのだが。

「でも、本当に逃げちゃうとはなぁ」

気持ちは解るが、あれだけの警備網の中、誰にも気付かれること無くルルーシュ達は姿を消していた。軍人のスザクがいるとしても、素人集団が逃げ出せるのだから、プロの暗殺者なら潜り込めたという事だ。
母親を暗殺されているルルーシュとナナリーからすれば、あれだけの警備も安心できないザル警備だったという事か。
電話をしても電源を落としているらしく繋がらない。
友人として助けたいと思うが、それさえできない状況にため息しか出なかった。
それは生徒会室に集まった者たちも同じだろう。

「生存している事が知られた以上、ルルーシュ様もナナリー様もここで暫くは様子を見ると思っていたけど・・・まさかこんなに早く逃げるとは、流石のミレイさんも予想できなかったわよ」

シュナイゼルとクロヴィスが来たのが6日前。
休校が5日前。
ルルーシュがシュナイゼル殿下の授業を受けたのは4日前。
コーネリアが来て、他の皇族が来て・・・。
昨日笑って別れたのに、今朝には行方知れず。
その行動の早さに驚かされた。
大喜びでルルーシュに会いに来た皇族たちは、いなくなったという事実に意気消沈し、現在は抜けがらのようになっており、皇族の従者たちはというと、まさかこの警戒網の中ルルーシュ達が姿を消すと思わなかったため、大慌てでその行方を追っていた。

「でも会長、ルル・・・ルルーシュ殿下何処にいっちゃ・・・えーと、いかれたんでしょうね」

シャーリーが躓きながらしゃべるので、ミレイとリヴァルは噴き出した。

「無理しないでいいのよシャーリー。ルルちゃんはルルちゃんなんだから、いつも通りでいいの。私はともかく、貴方達にまでに皇族扱いされたら、ルルちゃん悲しむわよ」
「そ、そうなの?」

不敬罪にならないのかなと、シャーリーは不安そうに言った。

「ルルちゃんもナナちゃんも、皇族が嫌いだから大丈夫よ」
「そうなんですか?」

今までおとなしく話を聞いていたカレンは、その言葉にピクリと反応をした。

「そうよ。まあこれはここだけの話だけどね、ルルちゃんとナナちゃんが日本に来た理由って、ルルちゃんが皇帝陛下に、マリアンヌ様の葬儀に出られないのはともかく、ナナちゃんの御見舞いに、一目会うだけでもいいから行って欲しいって言ったのが原因なのよね」
「「「ええ!?」」」

ナナリーの足と目は、母親の暗殺に巻き込まれたのが原因だと知っている。当時は間違いなく入院し、手術もしていただろう。母を無くした子が父を頼り、せめて一目でもと願うのはおかしなことではないはずだ。

「御見舞いに行く必要は無いって言われてね、・・・母親っていう最強の後ろ盾を失っても、皇子と皇女ならいい取引材料になるって、日本にきたの」
「酷い・・・」

カレンは眉を寄せ、ポツリとつぶやいた。
ルルーシュとナナリーが皇族だと知った時、怒りで我を忘れそうになった。
こんな近くにいい取引材料がいたのにと、過去の記事を調べなかった事を後悔した。
きっと皇族だから我儘でも言って一般人にまぎれて暮らしていたのだと考えていたが、その考えが間違いだった事を知った。
ブリタニアの皇帝は弱者であれば自分の子供でもあっさりと捨てるのだ。
二人は皇帝に捨てられ、身を隠して生きていく他なかったのだろう。

「陛下がそんな事を!?ルルとナナちゃん、お母さん亡くしたばかりなのに?」

お葬式にも?ナナちゃん、歩けなくなるほどの怪我なのに?と、愛情いっぱい注がれて育ったシャーリーは信じられないと首を振った。
確かに皇帝なのだから政務で忙しいだろうが、我が子の大事なら一目見に行こうとか、優しい言葉を掛けるとかするはずなのに。

「なんだよそれ・・・えーと、留学、なんですよね?取引材料って・・・なんですか?」

どういうこと?とリヴァルは困惑した顔で尋ねてきた。

「表向きは留学だけど、お二人は人質だったの。険悪な空気になっていた日本に送られた、人質。だから取引材料なのよ」
「え?待ってください会長。でもルルーシュ君とナナリーちゃんがブリタニアからの人質なら、どうしてブリタニアは戦争を!?」

当時険悪な空気にあった日本へ送った人質なのだから、その関係を改善させるための物だったはずだ。だがブリタニアの宣戦布告で戦争は始まった。
戦争を回避するための人質では無かったのだ。
では、何のために送られた人質だったのか。

「ルルーシュ様とナナリー様へ何も連絡をせず、迎えも無く、突然開戦したのよ。うちの人間が迎えに行った時、お二人とスザク君の傍には、大人は誰も居なかった。三人で戦場を逃げ回り、生き延びたのよ。・・・皇帝陛下は、お二人を人質として送ることで日本を油断させたんでしょうね」

それは人質ではなく生贄。
敵を油断させるために与えた餌。
これらの情報は、ルルーシュ側にいた人間
ルルーシュ、ナナリー、スザク、そしてアッシュフォードだけが知る情報だった。
ブリタニアにいた者たちは、ルルーシュ達を開戦前に保護するよう皇帝が動いていたと思っている。だが、何かしらの手違いで開戦に迎えが間に合わず、戦争で死んだのだと信じて疑わないのだ。
ミレイの言葉に生徒会室内は静まり返った。
それとは対照的に、生徒会室の外では慌ただしい足音と何人もの声が響いていた。

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