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「僕は二度と君の顔は見たくないと言ったはずだが?」 黒髪の少年は、怒りを抑えながら尋ねた。 すると、栗色の髪の少年は、それはそれは晴れやかな笑みを浮かべた。 「この桜桃は俺が最初に見つけたんだから、俺にはこの実を食べる権利がある!」 胸を張って言われた言葉に、思わず聞き間違いかと目を瞬かせた。 確かにこの木に宿ったのは、この少年が見つけた後ではあるが、既に精霊が宿った霊木なのだから、自分の物だと主張するのはおかしいのだ。 自分勝手なその権利に、黒髪の少年の堪忍袋の緒は音を立てて切れた。 「この木は今の僕の体だと言ったはずだ。僕が嫌だと言っている以上、君にそんな権利は無い!って話を聞け!木に登るな!」 信じられないほどの素早さで、するするするっと木の上に登ってしまった栗色の髪の少年に、降りろと文句を言うのだが、相手は降りることなく実を手にして食べ始めた。 あんな美味しくない実を食べに来るなんて、よっぽど飢えているのか?と一瞬思ったが、相手は自分と同じ精霊で、食事はあくまでも嗜好品。 食べなくても死ぬことも空腹を感じることも無い・・・はずだ。 この国の精霊は違うのかもしれないが。 「いいじゃんべつに。減るもんじゃないんだし」 「減ってるだろう!どう考えても!」 そう言っている間にも、スザクはパクパクと実を口にし、種を木の下へと飛ばしていた。その事も、黒髪の少年は気に入らない。このあたりに散乱していた種をようやく片付終わった所なのに、また散らかしている。 動物たちが散らかしたのならまだ許せるが、相手は自分と同じ人型に変化できる精霊だ。そんな相手に自分の周りを汚されているのだから腹が立たない方がおかしい。 「俺はスザクだ、お前の名前は?」 ぎゃんぎゃんと怒鳴る黒髪の少年の怒りなどどこ吹く風。 栗色の髪の少年スザクは木の上から見下ろしながら名前を尋ねてきて、何処まで失礼な奴なんだと黒髪の少年は眉を寄せた。 「君に名乗る名前なんてない。いいから降りて帰れ!」 「なんだ、名前ないのかお前」 大きな瞳を瞬かせて、小首を傾げキョトンとした表情で聞いてくるので、一瞬怒りが消えて、こいつ馬鹿か?と呆れてしまったのは仕方がないだろう。 「あるに決まってるだろう。君に名乗りたくないと言っているんだ。話を聞いてないのか?」 「そうだ、俺がつけてやろうか」 いい事思いついたと、得意げな笑顔で言った。 何がいいかな?と本気で考えているようで、黒髪の少年は慌てた。 「だから!人の話を聞いたらどうなんだ!僕には母さんがつけてくれた名前がある!」 「無いくせに無理するなって。えーと、桜桃だから・・・赤い実・・・あか・・」 桜桃から連想される名前を考え始めたらしく、スザクは腕を組み空を見上げた。 「ルルーシュだ!」 このままでは変な呼び名をつけられると、黒髪の少年ルルーシュは名乗った。 「ルルーシュ?」 「そうだ」 「へえ、ルルーシュか」 そう言いながらパクリと実を口にする。 「・・・なんだ?」 文句があるのか?とぎろりと睨んだのだが、スザクはにこにこと笑うだけだった。 「いい名前だな。よろしくなルルーシュ」 強引なスザクに押され、結局名乗るはめになったルルーシュは、スザクを追い返すのは至難の業だと早くも悟っていた。 友好的とは言い難い出会いのはずなのに何故かスザクはルルーシュになついてしまい、連日遠くの山からやって来ては日が落ちるまでずっとここにいて、ルルーシュが桜桃の手入れをするのを手伝ったり、一緒に遊ぼうと山の中を連れまわした。 どちらかと言えば静かにゆっくりとした時間を過ごしたいルルーシュとしては、なんでこんな目にと思うのだが、元気で明るいスザクに連れまわされているうちに、自然と笑顔を浮かべるようになっていた。 日が昇ってから落ちるまで、天気のいい日は二人で過ごすのが当たり前の日常となるのはそう時間はかからなかった。 |