桜桃の君に 第11話


「あー、えーとスザク?その、仲直り、できた?」

カレンは恐る恐る声をかけたが、どんよりとした空気を纏い、不機嫌そうにしているスザクを見れば駄目だった事は明白だった。スザクは明らかに元気が無く、精霊がこの状態なのだから、当然スザクの宿った桜の木も力強さを失っていた。自分たちが軽い気持ちで行なったことが原因だったため、反省し謝罪と共に声をかけても、不愉快な視線を一瞬向けてくるだけだから、カレン達もそれ以上尋ねることが出来なかった。
あの俺様で人に命令してばかりのスザクが足しげく通い、仲良くしていた友達と仲違いさせてしまった。スザクに合わせられる相手なら、どちらかと言えば温和だと思ったのだが、どうやらスザクよりも気難しい性格だったようで、スザクと野次馬の態度に腹を立て、もう二度と顔も見たくないとスザクを拒絶してしまった。
一人で帰ると言った桜桃の君だったが、心配したスザクはこっそり後をつけて無事に桜桃に戻るまで見届けた。スザクの足ならすぐの距離だったが、足の遅さと体力のなさ、そして暗い中無理して歩いたために迷ったため、戻るのに丸一日かかった。ぐったりと疲れきったルルーシュはそのまま眠りにつき、スザクも一度戻って休むと、翌朝にはまた駆けていき謝ったのだが許してもらえず、もう二度と来るなと追い返された。
それでもしつこくスザクは尋ねていったのだが、怒りが静まる気配は無かった。
いや、反対に尋ねれば尋ねるほど、謝れば謝るほど溝は深まった。
そんな状態が10日ほど続いた頃、カグヤがスザクを呼びとめた。
あの日以降殆ど顔も会わせなくなっていたカグヤの呼びかけにスザクは足を止めた。そして不愉快そうに睨みつけた。
最初の頃は、スザクが独占しようとするから悪いとか、心の狭い桜桃だと言っていたカグヤだったが、相手の怒りが深すぎて考えを改めることにした。
そして、もし自分がされたらどう思うかを考えてみた。
突然連れて来られた見知らぬ場所で、意味も解らず追い回され、見知らぬ者達が話をさせろ、あいさつさせろと騒ぎたてる。それを自分が信頼している友人が拒絶するのだから、当然自分も挨拶なんてしたくは無いし、寧ろ友人を追い詰める者たちに苛立ちを覚えるだろう。その後、何故か友人には怒鳴られ、多くの精霊に取り囲まれて見せもの扱いされる。
しかも無理やり連れて来られた理由も特には無いのだ。
間違いなく彼らの態度に怒り狂い、それまでどれほど仲がいい相手だったとしても絶交するだろう。ルルーシュのように、もういらないと切り捨てる結論がでて、カグヤは自分の行動を反省した。
そしてルルーシュの怒りの深さも理解し、ようやくスザクと話をする事にしたのだ。

「スザク、暫くの間彼の君の元へ行くのはおやめなさい」
「はぁ!?なんでそんな事言われなきゃならなんだよ!」
「貴方のためではなく、彼の君の心を落ち着けるためには時間が必要ですわ」
「・・・カグヤにルルーシュの何が解る!」
「スザクと私たちの態度に腹を立て、もう二度と会いたくないと言ったというのに、それを無視して会いに行けば行くほど拗れる事が解りませんの?」

凛とした声音はカグヤが真剣に話をしている時の物だった。だから怒りに任せて否定するのをやめ、カグヤの言葉に耳を傾けることにした。
下らない内容なら無視すればいい。
だが、仲直りするための何かを得られる可能性もある。
スザクが話を聞こうとしている事に気付いたカグヤは、緊張で固くなっていた体の力を抜いた。頑固者のスザクが、こちらを無視をすると決めているのは態度で解っていた。まずはこちらの話を聞く体制を整える事が出来なければ、何も始まらないのだ。

「いま彼の君、ルルーシュ様は貴方さえ拒絶していますわ。それほどの怒りはそう簡単に静まるものではございません。冷静になるためには時間が必要なんですわ」
「時間・・・」
「ええ、そうです。そして、ルルーシュ様をなぜ怒らせたのか、どうすればもう怒らせずに済むかを考え、悪かった点を直す必要がございます」
「そんなの解りきってる。お前たちが追いかけまわすから!」

当然のスザクの怒りを正面から受け取った後、カグヤは頷いた。

「それだけではありませんわ。ルルーシュ様は言っていました。なぜ私たちから逃げなければいけないのか?目的もなく連れてきたのは見世物のためか?貴方の相手は疲れるともおっしゃっていましたわね?」

その言葉に、ずきりと胸が痛んだ。
今までルルーシュはスザクが傷つくような発言は・・・馬鹿とかは言うが、その位しか言わなかった。あそこまではっきりとした拒絶などされた事は無く、それはスザクの胸に深い傷をつけていた。
カグヤは当然気づいており、だからこそ口にしたのだ。

「今回どうにか仲直りしても、同じ事が起きないとは言えませんわ。ですからスザク、貴方はルルーシュ様に会えないこの機会に、己を見つめ直す必要があります」
「・・・なんだ、これを口実に説教か」

自分たちの事を考えていると思ったが、結局それを理由に説教をしようと考えただけかと、スザクは失望したように吐き捨てた。

「いえ、これは私にも言える事ですわ。ルルーシュ様を怒らせた原因は明らかなのですから、反省し、直すべきところは直してから会うべきではありませんか?」

いつもなら声を荒げて否定をする筈のカグヤは、自分の非も認た上でスザクを諭していった。自分より若いカグヤが自分よりもはるかに年上に見え、スザクは少し自分の言動を恥じた。
成程カグヤの言い分も解る。
しつこく行けばそれだけ嫌われる。不満を口にしたのだから、その部分を治さなければまた喧嘩になるし、今回はどうにか仲直りできたとしても、次はきっとないだろう。

「そんな簡単に治るわけないだろ」

言い分は解るが、性格を直せと言われてもそう簡単に治るものではない。

「ええ、時間がかかりますわ。ルルーシュ様の御怒りを鎮める時間と同じぐらい」
「どのぐらいかかるんだ?」
「そもそも、ルルーシュ様の生育に関してもスザクは怒らせていたのですから、そのことも含めて・・・そうですわね、10年はかかりますわね」
「は!?10年!?」

自分たちは桜の精だから数百年の時を生きる。10年は短いといえる時間ではないが、そもそも、ルルーシュの怒りの原因の一つである生育が遅さはスザクのせいだとは限らない。だから10年離れることでルルーシュの納得の行くまで木の手入れをさせ、どれだけ成長に差がでるのかはっきりとさせておくべきだと考えた。なにより10年もあれば流石に頭は冷えるだろうし、長い間一人で居れば間違いなくスザクを受け入れる。だから、ルルーシュには寂しい思いをさせるが、今は離れるべきなのだ。

「そう10年ですわ。今ここで関係を徹底的にこじらせ、これからの長い生を離れて暮らすか、10年我慢してまた仲良く暮らすか、選びなさいスザク」

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