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冬将軍が通り過ぎ、命の息吹が山を駆け巡る頃、緑生い茂った山の奥深く、人が足を踏み入れないその場所では、明るく鮮やかな花弁を惜しげもなく開花させた花々が辺り一面で咲き乱れた。 一年で一番この場所が美しくなる時期が来たのだ。 その中でも最も美しく咲き誇る満開の桜を見て、よし、と頷いた。 「あらスザク、まだいたの?」 背後から楽しげな声が聞こえて来て、スザクは振り返った。 「酷いなカレン。いたら駄目なのかな」 「そんなことないわよ。あんたの事だから日が昇ったらすぐに行くんだと思ってた」 だから、まだいることに驚いたのよと、カレンは笑った。 「そんなに早く行っても仕方ないだろ?」 「それもそうね」 そう言うと、カレンはスザクの横に並び、美しく咲き誇る桜を見上げた。一陣の風が辺りを駆け抜け、桜の花びらが舞い踊り、それが更にこの場所を美しく見せていた。 スザクの傍に咲くカレンの桜は、他に比べて赤みが強く、この中で一番色鮮やかに咲いていた。誰もが目を奪われる美しさなのだが、スザクの桜が持つ雄大さと力強さには負けると毎年悔しがっている。この地で咲く桜に順位をつけるなら、スザクとカグヤ達、六花と呼ばれる品種が上位を占めていた。 綺麗で自慢な自分の桜が、雄大さと迫力でスザクに負けている。 それがくやしい。 でも、今年こそスザクに勝って見せる!とカレンは意気込んでいたのだが、結果は今年もスザクの勝ちだった。 「じゃあ、そろそろ行くね」 「はいはい、行ってらっしゃい。・・・頑張りなさいよ」 「うん、ありがとう」 穏やかに笑ったスザクは、静かにその場を離れた。 その背中を見て、嬉しいやら寂しいやら悲しいやら。過去の後悔も相まってカレンは複雑な表情をした。 「ようやく行きましたわね」 スザクの姿が見えなくなった時、木陰からカグヤが姿を現した。 「ええ、ようやく。まったく、春になってからソワソワして落ち着かなかったくせに、何で今日はあんなに落ち着いてるのよ」 「それは簡単な話ですわ。興奮しすぎて失敗しないよう自制しているのです」 くすくすと笑うカグヤに、ああ成程とカレンは頷いた。 カグヤに説得されたスザクはルルーシュの所へ行くのをやめた。 今回の件を引き起こしたスザクの性格、それを改める必要があると言われ反省し、別人かと思うほど大人しくなった。 なってしまった。 乱暴者のガキ大将から穏やかな優等生に。 それが良かったのか悪かったのかは解らないが、これだけ性格を変えてしまうほど、自分たちがスザクを傷つけた事は解っている。 10年待ちなさい。 ルルーシュの怒りを沈める時間として。 ルルーシュが成長するための時間として。 そのカグヤの言葉に従い、ルルーシュの元へ様子を見に行くこともしなかった。 初めて出来た親友。 仲直りをしたい。 謝りたい。 、また、一緒に過ごしたい。 その思いを胸の内に隠している姿に耐えかねたのはこちら側。 10年より早い7年目の今年、カグヤはスザクにもう十分だと許可を出したのだ。早まると思っていなかったスザクは喜び、その日から今日までずっと心ここにあらずな状態だった。楽しげなスザクの姿に、それだけ仲が良かった二人を引き裂いたのは自分たちなのだと、罪悪感が胸を占めた。 「仲直り、できるかしら?」 もし仲直りできたなら、スザクは今日ここに桜桃の君を連れてくるだろう。 美しく咲き誇るこの桜を見せるために。 それまで待つしなかない。 スザクの足なら片道1時間、ルルーシュを連れていても往復3時間もかからないだろう。日が真上にくる前には来るはずだと思い、皆は静かに待っていたのだが、一向にスザクは戻ってこなかった。 「・・・まさか、また怒らせたのかしら?」 嫌な予感がして、カレンは頭を押さえた。 まずは謝ること。 自分が反省した事を言葉にして話す事。 ルルーシュが全く成長していなくても、あの頃より成長したと褒めること。 他にも色々と皆はスザクにアドバイスをしている。 まさか久々に会えたことに舞い上がって、それらを忘れてまた怒らせたのでは。 表面上変わっていても、本質まで変わったとは言わない。 だから、無い話ではないのだ。 「・・・見てこようかしら」 「おやめなさい。スザクは犬並みに嗅覚が発達していますから、カレンが近づいた事が解れば、それはもう烈火のごとく怒り狂いますわよ」 独占欲も、無くなったとは思えない。 もしかしたら、久しぶりに会えたルルーシュを独占したくて、ここに来るのをやめたのかもしれない。あるいは、もうここに来たくないと、ルルーシュが言った可能性もある。 不安を抱えながら、スザクはまだ戻ってこないと話し、時間を潰していると、日が傾きかけた頃ようやくスザクが戻ってきた。 「スザク、遅いわよ!・・・って、どうしたのあんた」 戻ってきたスザクは全身汗だくで、息を切らしながらカレンの元に駆けて来た。 どう見てもスザク一人で、ルルーシュは一緒ではなかった。 近寄ってきたその顔には焦りが見え、カレンは嫌な予感がした。 「はあ、はあ、カレン来て、手伝って!」 「手伝う?何を?」 「見つからないんだ!」 泣きそうな顔で言われ、背筋に冷たい汗が流れた。 「・・・何が見つからないの?」 念のため、確認をする。 「決まってるだろ、ルルーシュだよ!居ないんだ!何処にも!ルルーシュの木も見つからないんだ!」 泣きそうな顔で、スザクは叫んだ。 きっと自分の記憶違いで、見つけられないだけなんだ。 だから、手伝って! スザクは戸惑うカレンの腕を引いて、走り出した。 幼なじみで幼少期に別れ、7年後に・・・は大事な要素だと思うので強引に。 そういえば、冬将軍って擬人化だよね。 フランスの擬人化は自由の女神マリアンヌ イギリスの擬人化はブリタニア マリアンヌ后妃の名前は自由の女神から来てるのかな |