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ルルーシュの桜が見つからないと、血相を変えて戻って来たスザクが、カレンを引っ張ってやってきたその場所は、確かに桜の木など一本も生えていなかった。うっそうと木々が生い茂り、碌に明かりの届かない森の中は薄暗く、カレンは眉を寄せた。 「本当にここなの?」 こんなに陰鬱な場所に? 自分たちのすみかとはあまりにも違った。地面は固く、日は当たらない。暗く寂しく、静かな場所。一人でこんな場所にと、ますます眉がよった。私なら、寂しすぎて気がおかしくなるかもしれない。 光を遮る大木の枝を見上げながら、こんな場所なら成長が遅いのは当たり前だ。 「ここだと思ってたけど、違ったみたいなんだ。近くも探したけど、見つからなくて」 スザクが、ここだと思ってたのにと指差した場所には、何も無かった。 もし枯れてしまったのなら、その痕跡が何かしら残るはずだし、人の手が入ったとしても切株や根などが残るはずだ。綺麗に全部掘り起こすなんて面倒なことはしない。だがその地面は綺麗な物で、木がそこに生えていた痕跡など無かった。 少なくても、桜桃を実らせるほどにまで成長した木があったとは思えない。 7年前は毎日のように通っていたが、久しぶりだからどこかで道を間違えたのだろう。 それ以外に考えられなかった。 「そう言えばあんた、育ててる木があったとかいってなかった?」 種から芽を出し成長した、ルルーシュと同種の木が。 「・・・うん。6本あったんだ」 こっちだよと、スザクが連れて行った場所は、先ほどの場所よりも広々としているせいか日当たりが僅かにいい。それでもやはり薄暗くて、育つには良い環境とは思えなかった。このあたりのはずだといった場所を調べるが、どこを探しても木が生えていたような痕跡は見つからなかった。 「一先ず近くを探してみましょ」 そもそも、小さかったスザクが見つけた場所なのだから、もっと山の麓に近い場所じゃ?と思いながらも、カレンは周辺を捜したが、この時期には必ず花を咲かせていたというルルーシュの桜桃は、見つからなかった。いや、ルルーシュの桜桃だけではなく、こちらの山には桜の木が無い。だから、もし花を咲かせていれば、嫌でも目立つから見落とすとも思えなかった。 夕暮れとなり、視界が効かなくなるからとその日探すのは諦め、翌日は朝から二人で探したが、やはり見つけられなかった。今度はカグヤも一緒に探すというので、三人はスザクが最初に勘違いした、あの薄暗い場所に来ていた。 「僕はもう少し上の方を探してみる」 「じゃあ私は下。絶対あんた登り過ぎてるのよ」 初めてここに来た頃のスザクの外見は人の年で言うなら10歳ほど、ルルーシュと別れたのが15歳ほどだろうか。今はその頃よりも成長して17歳ほどになっている。視点も高くなって足の長さも変わったのだから、距離の感覚がくるっている可能性は十分考えられた。 「では、私はもう一度この周辺を調べてみますわ」 スザクとカレンほどの身体能力を持たないカグヤを残し、二人はこの場を後にした。 にぎやかだった二人がいなくなったその場所に残されたカグヤは、今までの明るい表情を一変させ、真剣なまなざしで辺りを見回した。 二人が言っていたように、この場所に桜桃をも乗らせるほどの木が生えていた痕跡はなかった。だから場所を間違えたのだと二人は言うが、カグヤの考えは違った。 もし、ルルーシュの枝を見ていなければ、ルルーシュ自身を見ていなければ、悪質な精霊やタヌキやキツネに化かされたんだと笑っただろう。 だがルルーシュという桜の精霊と、彼が宿っていた桜桃はあった。 それは間違いない。 スザクから奪った枝を、まだカグヤは持っているのだから。 ではどうして見つからないのだろう。 カグヤは表情を消しスッと目を細めると、ルルーシュがいたと言われている場所を見降ろした。 「上にもいないの?こっちも駄目だったわ。あんた、山を間違えてない?」 「流石にそれは無い・・・と思うけど」 これだけ探して見つからないのだから、実は隣の山だった、っという可能性を否定しきれず、スザクは眉尻を下げた。間もなく夕暮れ時。今日はいったん帰って明日は隣山を探そうという話を二人がしていると、地面に腰をおろし二人のやり取りを見ていたカグヤがコロコロと笑った。 「スザク、貴方ルルーシュ様と会えるからと興奮しすぎですわ。一度頭を落ち着かせた方がいいかもしれませんわね。明日は一日探すのをやめて、明後日また来ましょう」 「でもカグヤ」 「まだ私たちの花は咲いたばかり。数日遅れた所で、美しく咲き誇る私たちを見てもらう事は出来ますわ。それとも、落ち着きを取り戻すためにも後3年、我慢してもらってもよろしいんですのよ」 優等生なスザクに変わったから早めたが、こんなに落ち着きがないなら元の10年に戻すというカグヤの言葉に、スザクが顔をこわばらせ、嫌だと首を振った。ようやく今年会えると思ったのに、ここからさらに3年なんて絶対に嫌だ。 「では決まりですわね。今日は切り上げですわ、お二人とも帰りましょう」 カグヤの決定に従い、三人は自分たちの住処へと戻った。 翌日、朝日が登り始めた頃カレンは物音で目を覚ました。 のそのそと、自分の木から外に出て様子を伺うと、予想通りの人物が予想通りの行動をしていた。 「スーザークー、あんたカグヤ様に今日は駄目って言われたでしょ」 カレンの声にぎくりと肩を震わせたスザクは、ばつの悪そうな顔で振り返った。 「ルルーシュを探しに行くわけじゃないよ。少し散歩をしてこようかと」 「あんたの嘘は解りやすいのよ」 きっぱりと断言したカレンに、スザクは口を閉ざした。 「あんまり根を詰めて探すんじゃないわよ。昼には戻って来なさいよ」 明日、一緒に探しましょう。と言いながら、カレンは大きなあくびをした。 行くなと言えば、不安と苛立ちは募るだろう。とはいえ丸一日行っていいと言えば、確実にカグヤの怒りを買い3年先延ばしになる。だから時間制限をつけて、気晴らしに散歩をしてきたという体をとればいい。 「ありがとうカレン!」 スザクは「絶対に叱られて、行くのは駄目だって言われると思ってた」と、嬉しそうに笑った後、あちらの山に向かって走り出した。 「ほんとに落ち着きないわね、あいつ」 大人しい優等生に変わったと思ったのに。と、カレンが苦笑すると、すぐ近くから笑い声が聞こえハッとなった。 「表面的にいくら変わろうと、スザクはスザクですわ」 「か、カグヤ様!?」 しまった、聞かれていたと、慌てて木から出てカグヤの傍へ行った。 「慌てなくても大丈夫ですわ。スザクが言う事を聞かずに探しに行くことぐらい、予想しておりましたもの」 「え?あ、そうなんですか?」 コロコロと笑いながら言うので、カレンはつい気が抜けたような返事をした。 「ええ。スザクがいないのは好都合。カレン、今日は私に付き合いなさい」 カグヤは笑顔を消し、そう命じた。 |