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ブリタニア教団幹部・シュナイゼル 若くしてこの教団の上層部まで上り詰めたエリート 教団を運営するにあたり必要な運営資金、その多くを握っている人物でもある。 ブリタニア教団は魔物と戦う組織だが、それは組織内の一部に過ぎず、教団という名前が示す通り宗教的な意味合いの活動や、警察組織では扱えない犯罪も扱っている。 それらを統括しているのも、今スザクの目の前にいるシュナイゼルだった。 輝くような金色の髪の美丈夫で、知性と気品に溢れた立ち振舞いと、その若さからは考えられないほどの権力を持っていることから、多くの女性職員を虜にしていることは、教団内でも有名だった。 そのシュナイゼルが唯一直属として持っている対魔部隊が特派。 つまり彼はロイド、セシル、スザクの上司にあたる。 「久しぶりだね、スザク君。元気そうで何よりだ」 ロイヤルスマイルを浮かべながらシュナイゼルは頷いた。 「はい、シュナイゼルさんも」 「ところで、その手にあるものは何かな?」 スザクの言葉を遮るように、シュナイゼルは尋ねた。 「あ、これはインスタントコーヒーです」 「ああ、たしかコーヒー豆の抽出液を乾燥させて粉末状に加工したものだったね。お湯を注ぐだけで簡単にコーヒーができるとか。実物を見るのは初めてだ」 確かに、この人にインスタントコーヒーは似合わない。 コーヒーサーバーで入れたものでさえ違和感を感じる。 その道のプロが1杯1杯丁寧にドリップしたコーヒー以外飲んだ事はないだろう。 興味深々に、インスタトコーヒーが入った瓶を手にし、成分などを確認していたので「飲みますか?」と尋ねてみたが「いや、結構だよ」と即答された。興味はあっても、こんなよく解らない上に味もそこそこな物を口にする気はないのだろう。 冷めては困るので後片付けをした後、ロイドと自分のカップを持った。 「ロイドさんに用事ですか?今、奥にいますよ」 そもそもなぜここにいるのだろう。 向かいの扉が特派の部屋なのだから、そちらに行けばいいものを。 「いや、ロイドに用事で来たわけでは無いんだよ」 「そうなんですか?あ、セシルさんは今買い物に出ています」 「セシル女史にも今は用事はない」 ロイドでもセシルでもない? 「では、僕ですか?」 「違うよスザク君。このエリアに今、客人が来ているね?」 相変わらずのロイヤルスマイルだが、目が笑っていなかった。 こちらが情報を隠しても、全て見抜いてあげよう。そんな目だった。 客人。 それは魔族であるL.L.とC.C.のことだ。 そしてこの時、スザクはロイドたちに注意されていた事をようやく思い出した。 ---シュナイゼルはL.L.を溺愛している。絶対に教えるな。 L.L.を隠しているロイドとセシル、C.C.が情報を漏らしたとは思えない。 スザクも誰にも話していない。 それなのに、シュナイゼルはここに客がいると断言したのだ。 背筋に僅かに悪寒が走った。 「客、ですか」 ---C.C.はシュナイゼルの天敵。 「そう、客だ。女性では無く、男性の客が来ているはずだよ」 C.C.の事かと尋ねる前に、性別の指定をされてしまった。 C.C.は女だから、ここで名前を上げてはおかしくなる。 「何処にいるか、教えてくれないかな?スザク君」 「あの、」 「君はとても正直な子だ。私に嘘などつかないだろう?」 にっこりと、幼い子供に言い聞かせるようにシュナイゼルは言った。 L.L.を守るために言うべき言葉はNO。 それはわかっているのだが。 今から2年ほど前の事だ。 極東の地に、魔物が大量発生した。 人間に対し敵意を、殺意を抱いている魔物が、自力で門を作り人間界に攻め込んできた。対魔部隊が総力を挙げこれを撃退、人間界は事なきを得たのだが、この周辺地域は大打撃を受けた。特に近くにあった村には大量の魔物が押し寄せた事で、たった一人を残し全員死亡した。 それがこのスザクで、対魔物部隊が到着するまでの間、たった一人で生き抜いたのだ。保護されたスザクは身体能力の高さからシュナイゼルが引き取った。 だからあの日、全てを無くしたスザクにとって、シュナイゼルは恩人だ。 そんな人物に嘘をつくなど。 「シュナイゼル、うちのスザク君に何の用かなぁ?」 聞こえた声にハッとなり顔を向けると、そこには不機嫌な顔をしたロイドがいた。 「コーヒーが遅いから取りに来たんだけどね、まさか貴方が来ているとは思いませんでしたよぉ」 「たまには、皆の顔を見ようかと思ってね。元気そうで何よりだ」 「僕もスザク君も見ての通り元気いっぱいですよぉ。セシル君は現在外出中でいませんけど、彼女も元気そのものですから」 な~んも心配ありませんよ。 「そうか。・・・ああ、いけないね。こうこんな時間だ。私はこれから会議があるので、名残惜しいが失礼しよう」 そう言い残し立ち去ろうとしたシュナイゼルをロイドは引きとめた。 「帰る時には、忘れ物はしないで下さいよ?」 「忘れ物?一体何のことかな?」 「とぼけないで下さいよぉ。そんな事をするなら、僕達ここから手を引きますよ?ああ、スザク君は貴重な素材ですからね、僕の方で引き取りますけど構いませんよね?」 何の話だろう?と、目をぱちくりと瞬かせながら見ていたが、二人共口元に笑みを浮かべているが目は笑っていなかった。目の前で繰り広げられる無言の攻防戦に冷や汗が流れる。 「・・・仕方がないね」 「後でチェックしますからね。1個でも残っていたら、ホントに消えますよ?」 「それは困るな。この教団にはロイドが必要だからね」 「そう思うなら、馬鹿なことしないでくださいよ。スザク君、コーヒーは?」 突然振られて、あ、そう言えばと手に収まっているマグカップを見た。当然もう冷めてしまっている。ロイドもそれに気づいているだろうに、自分の分のマグカップをひょいっとスザクの手から取ると、「じゃあ戻ろうかスザク君」とスザクの背を押し給湯室を出た。 「あ、あの、僕のこと、気にかけて下さりありがとうございます!」 せっかく来てくれたのに、碌にあいさつも出来なかったからと、せめてそう口にしたが、シュナイゼルは先ほどの笑みを崩さず「私は君の保護者だから当然だよ。仕事、頑張りなさい」といってくれた。 そんなシュナイゼルがいる給湯室の扉が音を立てて閉ざされる。 閉めたのは、ロイド。 「ロイドさん!」 失礼ですよ!と叱りつけても、ロイドは悪びれることなく手を振った。 「いいんだよスザク君、監視カメラと盗聴器設置して歩く奴相手にしなくていいんだよ。さ、仕事に戻ろうかぁ」 「え?は?監視カメラと盗聴器!?」 予想外の言葉に、驚きの声を上げる事しかできなかった。 |