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鮮血を流し続けている頭部は間違いなく損傷しており、対吸血鬼用の文様が描かれた対魔具・・・銀の弾丸がその頭部に撃ちこまれたはずだった。 魔力を断つ文様と銀の毒素は、超再生能力を無効化し、撃ち込まれた場所は再生しなくなる。不死とも言われる吸血鬼であってもそれに変わりはなく、対吸血鬼用の紋様が刻まれた武器で脳を損傷すれば間違いなく死に至る。 彼らの目的は最初から吸血鬼である二人の抹殺。 だから刻まれている文様は、間違いなく吸血鬼を封じるものだった。 だが彼女は何事も無く蘇生し、少年の前に立っていた。 その姿を、少年だけではない、銃声を聞きつけここへやってきた教団の人間も目の当たりにしていた。ぽたぽたと滴り落ちる血が命の芽吹きを思わせる鮮やかな新緑の髪と白磁の肌を赤く染め上げる。煌々と燃え上がる森の炎に照らされた彼女の姿は、美しい少女の姿を象っているにもかかわらず、心の奥底から恐怖を駆り立てるほど恐ろしい姿に見えた。 Witch of immortality それは、伝説の中に存在する魔女の呼び名。 自ら魔女を名乗るC.C.は、伝説の存在を真似ているのだと誰もが思っていた。 不老不死に近い魔物は多いが、完全な不老不死は存在しなかった。 存在しないといわれていた。 それは、あくまでも物語の中にだけ登場する不老不死の魔物。 そう、言われていた。 だが、彼女こそが本物の不死の魔女だったのだと、誰もが悟った。 殺しても死なない存在。 自分たちが手に入れた対魔具など、彼女の前では何の意味もなさないのだ。 太陽に焼かれ灰となっても、その灰から再び蘇生するといわれる存在に銃や剣が効く筈がない。もし銃を、剣を向ければ、次に殺されるのは自分たちだ。その思考が、裏切り者の人間達の動きを抑えていた。 恐怖に飲まれ、震える人間を無視し、C.C.は少年の、ルルーシュの腕をつかんだ。 「いくぞ、スザクは・・・無理だ。抱えて逃げる余裕はない」 「・・・っ!い、いやだ!」 「聞き分けろ、スザクの願う平和な世界を諦めるつもりか!」 その言葉に、ルルーシュの体がびくりと震えた。 スザクと二人で、いや三人で思い描いた平和な世界。 人間と魔物が手を取り合い笑いあい、幸せに生きられる世界。 ・・・スザクが残した、最後の思い。 C.C.は、スザクを固く抱きしめている幼い腕を、力任せに引きはがしにかかった。 緊張と恐怖から体が硬直していて、思うように引き剥がせず焦りばかりが募る。 裏切り者の人間は、未知の存在を目の当たりにし恐怖に飲まれているが、それも長くは続かない。いくら不死身とはいえ、これだけ銀の弾丸を受けたのだ。 戦う力など残ってはいない。 今は逃げる以外道はないのだ。 だから、1秒でも早くここをを離れなければ・・・! 「スザクは!お前を護るために死んだんだ。ここでぐずぐずしていれば、お前も死ぬことになる。何のためにスザクは死んだか、よく考えろ!」 小さな子供に言う言葉ではないと解っている。 だが、敏いこの子ならきっと解るはずだ。 その証拠に、絶望に染まっていた瞳に光が戻ってきた。 「・・・死なないっ!絶対に、死ぬものか!ここで僕が死ねば、スザクは無駄死にになる!!スザクの勇気を、優しさを、無駄だなんて言わせない!言わせるものか!」 光が戻った瞳は、次第に苛烈な輝きを増していった。 「そうだ、だから逃げるんだ。スザクの夢を実現するためにも、お前は生きるんだ」 ようやく力が抜けた体を引きずるように立ち上らせ、今生の別れだと眠るように横たわるスザクを見下ろした。 「さようならスザク。君は僕の最初で最後の親友だった」 予想通りというべきか、ルルーシュは自力で走ることが困難だった。 C.C.は10歳の少年の体を抱きかかえると、集まって来た人間たちを無視し、燃え盛る森へ向かった。 炎は、人と変わらないルルーシュを苦しめるが、仕方がない。 この中なら、人間達も簡単には追ってこれないだろう。 正気を取り戻した裏切り者たちが、慌てて銃を手に向かってきたが、もう遅い。 罵声を背に炎の中を駆け続けた。 息苦しいが、吸血鬼にはこの程度何でもない。 炎は熱く足が焼けているのを感じるが、走る邪魔にはならない。 この程度の痛みで足を止めれば、ルルーシュが死んでしまう。 森を抜けるまで全力で駆ければ1分とかからないはずだ。 すでに多くの煙を吸い込み、苦しそうに咳き込んでいる小さな体を抱きしめ走りながら、あの場に残してしまったスザクを思った。 (さようなら、生意気な人の子) 明るくて純粋でまっすぐなお前が嫌いだったよ。 闇に住む私たちには、お前は太陽のように眩しすぎた。 だが、ありがとう。 こいつを守ったお前を、私は忘れない。 お前が守った命、私が必ず守るから安心して眠れ。 |