夜の住人 第7話


ブリタニア教団地下施設。
地下1階から11階まであるそこは、全て対魔物部隊が使用していた。
それは対魔具に使われる一部の部品には、太陽の光に弱い物があり、地下でなければ手入れもままならないからだと言われている。だから地上にある豪華絢爛な純白の建物は、魔物と関わらない部署の者たちが使用している。
地下はエリアと呼ばれ、各階には専用の格納庫と地上に直結したエレベーターが用意されていた。その出口は地上にある共用格納庫で、太陽光を受けても問題の無い対魔具や移動用の車両関係が保管されている。だが、エリア11・特派の地上格納庫スペースには特派が所有する対魔具や車両は一つも無く、現在は全て地下格納庫に収められていた。
その理由は差別。ブリタニア教団に所属するものたちは選民意識が強く、異国の人間が属する特派をよく思っていなかった。たとえそれが教団でカリスマ的な存在であるシュナイゼルの直属でも・・いや、直属だからこそ嫉妬も絡み、余計に疎まれていた。
だからこんなに人が行き交う共有された場所、誰が何をするかわからない環境で、大事な機材を置いておくことなど出来なかった。
それが解っているからか、あるいはこれも嫌がらせの一環か、特派の所有スペースは、他の部隊が無断で使用していた。
特派にとって不愉快な空気の漂う地上格納庫は、出来れば避けて通りたい場所なのだが、使用を避けられない時もある。今日もそんな日で、エリア11へと続くエレベーターの起動をロイドに電話で頼みながら、周りからの冷たい視線に何度目か解らないため息を吐いた。普段は徒歩あるいは公共の交通機関を使うため正面玄関から出入りしている。そこは対魔部隊以外の者が多く、このような視線を向けられる事はないのだが、人数が増えた事で入用な物も増え、手で持ち歩くには重かったため今日は車を使ったが、これからは宅配を頼んだ方がいいかもしれないと本気で考えていた。

「セシル、 珍しいなこんな所で」

かけられた声に振り向くと、そこには別の対魔部隊に所属している女性が立っていた。
純血派と呼ばれる部隊のヴィレッタ・ヌゥだった。

「おはようございます、ヴィレッタさん」
「買い物にでも行ってきたのか?」
「ええ、そうなの。いつの間にか非常食も保存食も尽きていて。今日は特売日だったのでたくさん買ってきたんですよ」

ヴィレッタは車の中を覗き込んだ。車の中には買い物袋が沢山詰め込まれていいて、男性用の衣類らしきものも見えるから、上司の服も買ってきたのかもしれない。

「買い物など、あの日本人にさせればいいだろう」

教団内には純血派と呼ばれる派閥がある。異国の人間を教団に入れる事を良しとしない者たちの集まりで、そこに属する彼女もまたスザクを嫌う一人だった。だから従者のようにこき使えという意味で言ったのだが、セシルには通じなかった。

「そうね、スザク君にお願いしようかしら?」

腕力も体力もあるから、この程度の荷物は苦も無く運ぶだろう。セシルが笑いながら言うと、そうだろう、そうだろう、お前もあんな男と同じ所属で嫌な思いをしているんだなという態度をヴィレッタは取った。

「ああ、だめだわ。スザク君に任せたら、カップ麺ばかりになってしまうもの。それでは体を壊してしまうわ。野菜やお肉も買って、ちゃんとした食事を二人にはさせたいの。それなら、自分の目で見て買ってきた方がいいでしょう?」

料理をしないスザクにそれらを買って来いというのも難しい。何より、自分で行けば新しい料理のレシピを思いつき、その場で材料を買う事が出来る。

「たしかに、ロイドも枢木も料理はしないだろうな」
「そうなの。だからこれは私の仕事なのよ。ありがとうヴィレッタさん心配してくれて」
「いや、余計な事を言ったな。・・・ところで」

ここからが本題かしら?とセシルが首を傾げた時、丁度エリア11のエレベーターが到着した。

「ヴィレッタさん、私はこれで。朝食の用意がまだなの」

にっこり笑顔で言われてしまえば、ヴィレッタもそれ以上踏み込めなかった。

「そうか、大変だな。あー・・・そうだ、今度暇な時にでも一緒にお茶でもどうだ?」
「ふふ、そうね。今度一緒に行きましょう。美味しいコーヒーのお店を見つけたの」

セシルがエレベーターに車を移動させると、扉はすぐに閉まり降下が始まった。

「ヴィレッタさん、何を聞きたかったのかしら?」

あの魔女の森の屋敷の事だろうか。
一般人だと発表したがそれはあくまでも表向きで、屋敷にいた魔女C.C.が特派に保護されているのではと噂されていることぐらいセシルも知っていた。
魔女はこの教団の創設にも関わったとされている特別な魔物だ。
教団内での反応は主に二つ。
C.C.に取り入る事で、教団の上層部への足がかりにしたいと思う者。
魔物の存在は味方であれ認められないと排除しようとする者。
さて、どちらかしら?
下降していたエレベーターが止まり、扉が開かれると見慣れた特派の格納庫に出た。

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