夜の住人 第8話


「つまり、これがロイドの対魔具か」
「そーです、これが僕のZ-01ランスロット。どうです?かっこいいでしょう!」

あの屋敷でも目にしていたが、じっくりと見たり触ったりする事は出来なかった。
こうして見ると、とてもこの変態科学者ロイドの手で生み出されたとは思えないほど、その乗り物は気品にあふれている。白と金を基調とした洗練されたフォルムは、一つの芸術品と言っていい。
対魔具には所有者とそれに準じる者以外が触れた場合に反応する警報装置が大抵つけられている。敵ではないとアピールするためにも、興味が無い様な態度をとっていたが・・・実はL.L.はこの手のものが大好きだった。
バイクだけではなく車などの乗物全般、そして銃や剣などは大好物だと言っていい。自分が使うかどうかは別として。

「いいセンスだ。だが何故バイクなんだ?大体これでどう戦うというんだ?」

対魔具はその名の通り魔物に対する道具で、主に武器をそう呼んでいる。
だから、弾丸や刃物、鈍器や薬品など、直接魔物に害を与えるもののイメージが強いが、特派の対魔具はバイクなのだという。小回りは利くし、瘴気の濃い大地でも問題なく走れるだろうが、それはあくまでも移動手段であって攻撃手段ではない。
ならなんだ?このバイクで轢くのか?あるいはアクロバチックな動きでもして、車体で魔物に体当たりでも仕掛けるか?枢木は確か腕力が人並み外れていたはずだから、これを鈍器のように振り回すのか・・・?いやそれはさすがに・・・

「ぶっぶー!全部はずれですよL.L.様」
「何!?ロイド、お前いつから読心術が使えるようになった!?」

俺は何も言っていないぞ!?

「そのお顔を見ていれば、おかしな方向に考えていることぐらい丸わかりですよ」

難しい顔をしたと思ったら、困惑し始めたんですから。絶対、変な使い方考えてましたよねぇ?

「俺の表情を読んだというのか?」

人の感情に興味の無い、あのロイドが?

「そう言う事になりますかねぇ」

ばれっばれの表情でしたから簡単ですし。
L.L.様の美しいお顔はずっと見てても飽きませんからいつも見てますしね。

「・・・それで?何がどう違うんだ?」
「バイクはバイク、これ自体は乗りものですよ」
「・・・対魔具なんだろう?」
「正確には、対魔具を搭載したバイクです。一見すると解りませんが」

そう言うと、ロイドはバイク・・・ランスロットの向きを変えた。その先にある壁には、射的の的のようなものが描かれていた。

「これをこうするとですね」

バイクにまたがったロイドが何やら操作すると、ランスロットの正面にある射出口からワイヤーで繋がれた何かが飛び出し、10m以上離れた場所にある的にっさった。

「これはスラッシュハーケンといって、金属部、ワイヤー共に1tまで耐えられます。移動に使う事も出来ますし、当然対魔具ですから武器にもなります。この先端の鉤状の金属部分に、対魔の文様を埋め込み、ロープにも複数の文様を刻みましたから、見た目以上に強力な武器なんですよ」

巻きとり、戻ってきた鉤をみると、見慣れた文様が描かれていた。
これは一般的な対魔の文様で、魔物に対して決定的なダメージを与える力はないが、どの魔物にも一定のダメージを与える事が出来るものだ。

「そしてこちら、ここをこう操作するとですね」

カシャンという音と共に、フロントフォーク部分の装甲が開き、そこから柄のようなものが飛び出した。ロイドはバイクにまたがったまま、その柄を握るとそのまま引き抜いた。それは、紛れも無く剣だった。ロイドが手元のスイッチを押すと、二つに割れていた刀身が合わさり、赤く発光する。今まで見たことの無い形状に、L.L.は目を輝かせた。

「これはメーザーバイブレーションソード。その試作品です。対魔の紋章無しでも魔物相手に大ダメージを与えることが可能です。まあ、とどめを刺すには向きませんがね。危ないのでちょっと退いてくださいね」

一度剣の装置を切りバイクから降りたロイドに促され、L.L.は体を引いた。ロイドが向かった先には、3m四方の金属の塊が置かれており、まさかとL.L.は目を見開いた。

「あ、こんな所にいた!L.L.、探したんだよ・・・って、ロイドさん何してるんですか?」

突然掛けられた声に振り向くと、そこには楽しそうに笑うスザクがいた。

「あ、スザク君丁度良かった。君、ちょっとこれ切ってくれる?」
「この鉄ですか?」
「そ、L.L.様にランスロットの説明してた所なんだよね」

ああ成程、とスザクはロイドから剣を受け取った。
スイッチが入れられ、二つに割れていた刀身が再び合わさり、赤く発光する。スザクはその剣を両手で持つと、姿勢を正し、流れるような美しい動作で剣を振り下ろした。 本来であれば、金属音が鳴り響き、切断など出来ないはずの鉄の塊は、音も無くその刀身を呑みこみ、切り落とされた破片は重力に従い地面に落ちた。ゴトリとそれが間違いなく鉄塊なのだと解るほど大きな音が辺りに響く。

「高周波振動を用いました。これの難点は、使用時間が短い事ですね」
「どのぐらいだ?」
「今のところ、30分が限界です」

これほどの性能、30分も使えれば十分。恐ろしいものを作ったものだ。この二人はわかっていないようだが、この剣一振りあれば戦況は大きく変わるだろう。

「スザク君、それランスロットに戻してくれる?で、次ヴァリスを出してね」
「まだあるのか!?」

そのバイクにどれだけ詰め込んだんだ、お前は!

「当然ですよぉ。近接攻撃用が剣なら、遠距離攻撃用として銃が必要ですよね」

まだまだありますよ~!僕の大事なランスロットは凄いんですからね!と、ロイドは嬉々として説明を続けた。

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