夜の住人 第10話


「はい、あ、そうなんですか?ええ、解りました。はい、すぐに」

内線を切ったスザクに、セシルは何の電話だったの?と尋ねた。

「特派あての荷物が届いているから取りに来てほしいって・・・セシルさん何か買いましたか?」

この階全てが特派の所有となった事で、広い居住エリアを確保できた。だから地上へつながる方とは逆の扉の向こうには、スザク達の生活空間が広がっている。元々ここに住み着いていたロイドとは違い、以前は別の場所に部屋を借りていたスザクとセシルも、今はこの地下空間で生活していた。
だから、セシルとロイドの荷物が教団に届いても何もおかしくはないのだが。

「いえ、私は・・・ロイドさんは?」
「僕は前に買ったコーヒーだけだよ~C.C.じゃないの?」

あるいはL.L.か。
あの二人はよく通販をしていたというから、可能性はある。
だが、もしそうなら事前に一言言ってきそうなものだが・・・。

「でもおかしいよね、もう22時まわってるよぉ?」

こんな時間に宅配?普通午前中か、遅くても17時頃でしょ?こんなに遅い時間は指定しない限り配達しないんじゃないの?

「ですよね・・・お二人に聞いて来ましょうか?」

セシルも困惑しながら頬に手を当てた。
自分たちだけで生活しているならともかく、今はスザク達がいるのだからこの時間に配達を頼む意味はない。もしかして以前の配達設定のまま直していないのか。

「あ、今日は映画の日なので、もう部屋にこもっているはずです」

吸血鬼の癖に大の吸血鬼マニアのC.C.は、吸血鬼映画を見るために外部情報を遮断しL.L.と二人で部屋にこもる事が多々あった。一度スザクも参加したのだが三流映画は面白くなく、途中で飽きてしまい、二人に話しかけたり、こっそりL.L.の手を握ったり、腰を抱いたり、じっと彼の横顔を見つめていた結果「お前はうるさい!折角の映画が台無しだ!映画を見る気が無いなら入ってくるな!!」とC.C.がブチ切れ、もう二度とお前とは見ないと入室禁止となった。
L.L.もそれに同意を示したし、ロイドとセシルは、あんな映画の何が楽しいのかさっぱり分からず眠ってしまうため、こちらも追い出された。
三流鬼映画を見て、いかに駄目な映画だったのかを語り合う二人の間には、どうあがいても入れないスザクである。

「ちょっと取りに行ってきますね」

確認するより取りに行くほうが早いだろう。
何より、鑑賞を邪魔するとものすごく怒られる。
L.L.に嫌われる事はできるだけ避けたい。

「お願いね、スザク君」

スザクは軽快な足取りで扉の向こうに消えていった。
エリア11の入口には、階段とは別にエレベーターが2基用意されている。このエレベーターは格納庫とは違い、1階とエリア9、10、11に止まるものだった。だからエレベーターに乗ると、時間によっては他の部隊の人間と鉢合わせてしまうため、肩身の狭い異国人であるスザクは鍛錬も兼ねて階段を使用していた。
3段飛ばしで駆けあがると、5分もかからずに1階にでる。11階分駆け上がったにもかかわらず息を乱していないため、誰も掛け登って来たとは思わないだろう。
スザクは巨大な廊下を横断し、フロントへ向かった。
この建物は白を基調としたつくりで、自然光が沢山入るように設計されている。日中は眩しいほどの太陽の光が室内を照らしているが、既に日が落ちた今は人工の明かりが煌々と照らしていた。自然光が入る作りは、太陽が苦手な魔物が侵入しないようにと聞かされていたが、今思えばそんな話あるはずが無かった。
太陽が出ている時間だけ建物内が光に満たされていても意味はない。
太陽を苦手とする種はそもそもそんな時間に出歩かないからだ。
出歩くのは、太陽が沈んでから。
そう、今のような時間に、堂々とこの教団施設内を歩き回るのだ。
・・・彼のように。

「やあスザク君、元気そうだね」

フロント前にいたシュナイゼルは、笑顔でそう言った。

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