夜の住人 第12話


なにがどうなって、こんな事になったのだろう。
超が付きそうな高級レストランに、Tシャツとジーンズという場違いな服装をした自分が、このブリタニア教団の権力者の一人と食事をしているのだ。教団内唯一の外国人として知られているスザクは、それでなくても好奇の的なのに、今はいつも以上に周りの視線がきつい。いや、これはスザクだからというよりも、ドレスコードがあるような店に、こんな格好で来る常識知らずを見る非難の眼差しだろう。 まるで自分は動物園の動物で、与えられた餌を来場者に見られているような感覚に、居心地の悪さしか感じなかった。スーツは無理としても、ブリタニア教団の制服を着ていれば問題ないのだから、着替えてきたのにと思ってしまう。だが、シュナイゼルはそんなことを一切気にせずに食事を進めていた。シュナイゼルは、その辺りには寛容な人間なのだろう。
シュナイゼルにこれ以上恥を欠かせない為に、テーブルマナーで失敗するわけにはいかない。日本では名家と言われる家に生まれたことを、この時ばかりは感謝し、緊張しながら手と口を動かした。

「ところでスザク君、最近変わった事はないかな?」
「変わった事、ですか?」
「最近、君の周りに大きな変化があったはずだね?」

何の話だろう?と思ったが、ああ、そうかと思い至った。

「そうですね、エリア11が全て特派のスペースになり、仕事部屋が広くなりました。格納庫も増えたので、ロイドさんが新しいランスロットをそちらで作っています」

エリア11は元々4つの部隊で使用していた。だが彼らがいなくなった事で、格納庫が4つ全て使えるようになったのだ。そのことにもロイドは大喜びで、各格納庫の移動を楽にするために直通の通路を作り、立ち乗りの自動二輪車に乗って移動していた。
部屋と通路が増えたということは、その分外部から侵入者も入りやすくなる。
格納庫から繋がる地上へのエレベーターを除き、使用する全ての部屋は特派の仕事部屋を通らなければ移動できないよう改築した。壁を増やし、不要な扉を封鎖したりと、なかなか大変だった。
その後は不要な部屋を活用し、侵入者用に無駄に長い通路を作ったり、罠を仕掛けたりとロイドとL.L.がが楽しんでいたのを思い出す。それらの工事はロイドとセシルの関係者(恐らくロイドの眷属)が短期間で終わらせてくれた。スザクはというと、その間届いた資材を運んだり、重い荷物を移動したり、コンクリートをこねてたり、ロイドとC.C.にこき使われていた覚えしか無い。

「新しいランスロットを?それは楽しみだね。そういえば、以前作っていたガウェインの方は完成したのかな?」
「ガウェイン、ですか?」

何の話だろう?そんな名前の対魔具あっただろうか?

「ああ、君は知らないのかな?ロイドは白いバイクにランスロット、黒い車にガウェインと名づけていてね」
「黒い車ですか・・・いえ、しらないです」

あの格納庫に、そんなものあっただろうか?

「そうか、ではまだ乗り手が見つかっていないのかな?それで、他には何か変わったことはなかったかな?」

ランスロットには興味を持ったようだが、すぐに別の話題を求めてきた。
後はL.L.とC.C.の事だが、あの二人のことを話す訳にはいかない。
彼らの話では、シュナイゼルはL.L.を溺愛しており、L.L.本人の意志を無視した愛情を向け続けたことで本人に盛大に嫌われているらしい。一体何をしたのかは誰も教えてくれなかったから、最悪の想像もしてしまった。
あんなことが本当に起きたら・・・いくら恩人でも---してしまうかもしれない。

「他にですか?」

そんな思いを隠し、スザクは困ったような顔で首を傾げた。
だが、そんな付け焼き刃のポーカーフェイスなどシュナイゼルにはお見通しで、僅かに目を細めた後、やれやれと言いたげに口を開いた。

「スザク君、ルルーシュは元気にしているかな?」

今までのロイヤルスマイルとは違う、愛情のこもった笑みを浮かべ、シュナイゼルはその名を口にした。

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