夜の住人 第14話


「遅かったな枢木、シュナイゼルとのデートは楽しかったか?」

ニヤニヤと笑いながら待っていたのはC.C.だった。
彼女はL.L.が作ったピザを美味しそうに頬張っている。

「デートって、そんなんじゃないよ」

冗談でも言っていい事と悪い事があるよ。
そう言いながら、プレゼントされた大荷物をドサリと床においた。
大量の本が詰め込まれた段ボールはそれなりに重い。
運ぶのは別にいいが、次に会った時に内容を聞かれるかもしれないから読んでおかなければ。・・・子供向けの本でさえ1冊丸々読んだ経験がないのに、シュナイゼルが選ぶような本を読み切る事が出来るのだろうか?対魔具や武器防具、バイクなどの乗り物の本なら読みきる自信はあるが、そうでなければお手上げだなと、ガムテープをはがそうとしたのだが。

「ああ、それは空けるなよ。・・・ロイド」
「調べる必要ないぐらい反応してますよぉ」

パソコンを見ていたロイドはうんざりした顔で言う。
先日の盗聴器類と同じ反応を荷物は示していた。

「堂々と盗聴器をプレゼントとは、相変わらず馬鹿にしているな」
「シュナイゼルはあの方が絡むと手段を選ばなくなるからねぇ。スザク君、そのダンボールをゴミ捨て場に持ってって」
「え?でも、せっかくシュナイゼルさんがくれたのに」
「あの腹黒皇子がお前にプレゼントしたのは盗聴器と監視カメラだよ。空けるのもバカバカしい」

シュナイゼルはスザクに本を贈っても読まない、あるいは読めないと考えている。だから何冊か中をくり抜き、カメラや盗聴器を仕込んだのだ。スザクは律義な所があるから、読まなくても本棚に必ず並べると考えてのプレゼント。恐らく読むとしたら1巻から順番に手を出し挫折するだろうから、その次の巻に仕込んでいる。
そして、本好きのルルーシュが本のことを知り、興味を持ってやってきたら・・・。

「いいから捨ててこい、戻ってきたらこのピザを1切れ食わせてやるよ」

不快な晩餐の口直しにな。と、珍しいことを言ってきた。
C.C.が食べているのはL.L.作至高のピザ。
彼女が拒絶するからなかなか口にできない逸品だ。
ぜひ食べたいとお腹が勝手に返事をした。
それを聞き、C.C.は目を丸くした後くすくすと笑った。

「そうだろう、そうだろう、このピザは絶品だからな。お前の腹の虫は何も間違っていないぞ?いいから早く行ってこい、急がないと冷めるぞ」

とろとろのチーズがカチカチになって味が落ちると警告する。

「すぐ捨ててくるから!僕の分残しておいてよ!」

盗聴器入りの本の山とL.L.のピザ。
迷う必要はないとスザクはゴミ捨て場のある地上へと駆けていった。スザクと荷物がエリア11を出ると、モニターから光は消が、ロイドはやれやれと息を吐いた。

「スザク君は、ど~して気付かないのかなぁ」

あのシュナイゼルの嫌味攻撃に。
ロイドは呆れたように言いながら、モニターを教団の防犯カメラの映像に切り替え、スザクの行動を追った。さきほども、こんな時間に宅配という怪しい内容が気になって、こうしてスザクの動きを見ていたら、シュナイゼルが出てきたのだ。これは何かあるとC.C.とL.L.を呼び出し、レストランに設置されているカメラを通し、読唇術を駆使して話の内容もあらかた掴んだ。
その結果気分を悪くしたL.L.は現在キッチンにこもり、明日の朝食の下ごしらえを張り切って行っている。きっと明日は朝から豪華な食事が出てくることだろう。
そうやって手に入れた情報で、シュナイゼルの性格の悪さは相変わらずだと辟易していると、スザクと入れ違いでやってきていたクロヴィスが「兄上にも用事があるから、スザクのことは任せてくれたまえ」と、レストランに向かってくれたのだ。
クロヴィスは教団が探しているロイヤル種の1人で、以前捕まりそうになったこともあるのだが、髪を後ろで縛り、メガネをかけ、白ではなくグレーのスーツを着るだけの軽い変装と、ロイドが用意した入場証を使うことで教団のフロントを難なく超え、関係者しかいないエリア11まで来ていた。
彼を探している教団のものは上層部に固まっていて、下っ端・・・フロントの人間や1階に詰めている警備員、ましてやレストランの従業員などロイヤル種の名前は知っていても顔までは知らない。彼らが閲覧できるデータには、写真は載っていないのだ。
だからまさか堂々と、この程度の変装でロイヤル種がやってくるとは思っていないため、クロヴィスだと気付かれることもないし、防犯カメラはロイドが全て抑えているからこちらも問題ない。クロヴィスは階段の途中で上着をバトレーが持っていた皇族服に替え、髪をほどいて眼鏡を外した。これは万が一の時には、先ほどの変装で逃げるため、わざと目立つ白い服にかえたのだ。
レストランでシュナイゼルと兄弟だという話は聞こえても、シュナイゼル=ロイヤル種という頭がない以上、その弟が探し求めているクロヴィスだとは気付かれることはないし、吸血鬼が堂々とレストランまでやってくるとは考えもしないだろう。
それでもやはり目立つ行動を取るのは危険な賭けだったので、そんな危険を犯してまでレストランに行ってくれたお礼に、今度来た時はクロヴィスが好きな料理を作りもてなそうと考えていた。作るのは当然L.L.だが。

「それより、シュナイゼルはやはり怪しんでいるな。これで諦めるとは思えないし、さて困ったな?」
「偽物の遺体でも用意しますか?」

C.C.によって吸血鬼となった黒髪の青年は、銃で撃たれC.C.を護りながら逃走し死んだという設定だから、騎士種の遺体を用意すれば欺けることは可能だ。・・・そのために黒髪の青年を一人生贄にする必要があるが。

「それはL.L.が嫌がるから却下だ。それにしても、枢木にL.L.の名を教えなかったことが幸いした。まさかこんなにいい結果になるとはな」

教えなかった、じゃないか。
誰かが教えていると思っていた、だ。
まさかこれだけ一緒に居たのに名前を知らないとは思わず、あのやり取りの間、皆は生きた心地がしなかった。クロヴィスも来ていたため、いざとなったらスザクを置いて逃げられるよう準備も始めていたぐらいだ。・・・もちろんスザクはひとまず置いていくのであって、後で回収する予定だった。
スザクは嘘を吐くのが苦手でも下手でもないのだが、恩人であるシュナイゼルには嘘をつくことを無意識に拒絶しているように思えた。だが、嘘を使わず切り抜けられるほどスザクは弁舌に長けてはいない。もし彼が名前を知っていれば、全てバレただろう。だが、反対に知らなかったことで、シュナイゼルはルルーシュはここに居ないと判断した可能性が高い。
高いだけで、確定するまで何か仕掛けてくるだろうが。

「まあいい、クロヴィスが持ってきた件でシュナイゼルはしばらく動けなくなるだろう。それだけ時間があれば、私達も動けるようになる」

灯台下暗し。まさか自分の足元に探し人がいるとは思うまい・・・と思って、いまだ治癒の終わらないL.L.と共にここに居たが、もうここも安全とは言い難い。
元々吸血鬼の中でも傷の治りが遅いロイヤル種、その中でもさらに遅いハイネス種。吸血鬼用対魔文字入り銀の弾丸が使われていたから余計に治りが遅い。
摘出後、魔力が正常値に戻るまでかかった時間が痛い。

「でも、あの話本当なのかなぁ?」

流石に信じられないですよ。

「クロヴィスが冗談をいうために、自らここに来るとでも?しかも目の前に最愛の弟がいるのに、この件を優先させたんだから相当だぞ?」
「そうですね、ミレイさんやジェレミア卿も動かれているのでしたら、こちらもそのように動いたほうがいいかと思います」
「まったく、最悪だな。人と魔の戦争など愚かな話だ。一体誰が裏にいるんだか」
「その最悪が現実にならないようにするおつもりでしょう?」
「まあ、あいつはそうだろうな。スザクとナナリーが願った平和な世界。そのためになら自分を駒にして戦う男だよ」

だから、私も戦わなければな。
C.C.は冷めはじめたピザをぱくりと食べた。

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