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翌日、朝食の席で寝不足顔のロイドが呻くように言った。 「なーんか、おかしいんですよね」 「何もおかしくないぞ?ツヤツヤのごはんに、出汁の利いた味噌汁には豆腐と小葱と・・・」 「このご飯の話じゃないですよ」 最高の朝食だろう!と熱弁し始めそうなC.C.を制して、頭が痛いとこめかみを押さえながらロイドは言った。 「戦争の話ですよ。ミレイくんとラクシャータの話もクロヴィス殿下と似たり寄ったりだったんですけどね」 なんか釈然としないんですよねぇと言いながらお味噌汁をすすった。 どうやら早朝に連絡を取って確認は済ませていたらしい。 「おかしいと言えば、ラクシャータがクロヴィス殿下と連絡が取れなくなったと言っていましたね」 バトレーと共に教団を離れたのは2時近く。その時に一度クロヴィスからラクシャータに連絡があったが、その後の行方が分からないという。楽観的に考えるなら電波の問題だが、通信手段を複数用意して行動しているクロヴィスとバトレー、そして護衛全員の通信手段が絶たれるなんてあり得ないことだ。 何かあったと考えるべきだろう。 「レストランにクロヴィスの顔を知る上層部の者がいた可能性もあるが、そうなるとなぜ教団内ではなく外で消えたかが問題になる」 建物内で消えたなら、ロイヤル種の協力を得たいと考えている上層部の人間がクロヴィスを教団本部内に留めている・・・いや、監禁しているとも考えられたが、消えたのはあくまでも外。教団の誰かという考えを捨てるわけではないが、別の何かが動いたとも考えられる。 「それって、皇族に手を出した馬鹿がいるってことですよねぇ?」 吸血鬼のロイヤル種は魔族の王と呼ばれる魔族の最上位種で、その中でもハイネス種は皇族とも呼ばれていた。そんな彼らに手を出すということは、魔物に対する宣戦布告に他ならない。 過去に皇族であるルルーシュに手を出したときも、魔物たちは怒りに震え、全面戦争寸前の騒ぎにまで発展した。だがそれは、人間と共存を願うルルーシュの意志とは異なると、怒りを胸に秘めたまま魔物は静まった。それから十数年後、愚かな人間は魔族が与えた対魔具を手に、魔界と呼ばれる世界になだれ込んできた。先導したのは、裏切り者の人間達が幹部となったブリタニア教団だった。 罪を犯す凶暴な魔物から、力のない人間を守るためにと与えた対魔具を当時の魔物は知らず、その対策もままならなかった。結果、人間の侵攻を許し多くの死傷者をだした。特に日本にあった門からの侵攻は、町を一つと村を二つを失うほどだった。 人間の残虐さを目の当たりにし、怒り狂ったケルベロスが人間たちを追い立て、人間界まで追い払うことに成功したことで、魔界侵攻は幕を閉じた。 今度は侵略される側となった人間は、門を越え姿を現した地獄の門番ケルベロスに対し、重傷を負わせるのが精いっぱいで、捕獲することも討伐することも出来なかった。そもそもケルベロス用の対魔具は存在していないため、殺す事は人間には不可能なのだ。それに、地獄の門番と呼ばれるケルベロスは種族の名前であり1体だけの存在ではなく、当然だが最強の魔物というわけでもない。ケルベロスが複数体、あるいはそれを上回る魔物が攻めてきたら人間たちは皆殺しになると、武器を得たことで調子に乗っていた人々の頭の血は一気に下がり、魔界侵略を断念。 停戦を申し入れ、再び人と魔物の共存を探ることになった。 魔物も人も多くの死傷者を出したが、どちらも何も得られるものはない戦争だった。 あの日以降、人と魔物の間で冷戦状態が続いている。 魔物が人に害をなす最大の理由が当時の侵略戦争であり、皇族であるルルーシュの暗殺事件だった。人間という邪悪な種は滅ぶべきだと声高に叫ぶ集団もある。 教団側はそれを重々承知しているからこそ、共存を望む魔物を教団内へ迎え入れ、友好的な魔物の保護や神の保護をしたりという、異種族共存を目指した活動を行っている。これはロイヤル種に対するパフォーマンスでもあった。 「外部の人間の犯行だと思わせる手かもしれない」 と、C.C.は空になった茶碗をL.L.に差し出し、たくあんを噛み締めながら言った。C.C.はあの事件の事もあり、ブリタニア教団に否定的だった。一度やらかしたのだから二度目もあるだろう。いや、教団の人間ならやりかねないと思っているのだ。 「その可能性も、当然考えている」 茶碗を受け取ると、つやつやの白米を山盛りによそった。 「枢木はもういいのか?」 既に空になっている茶碗を見ながら言うと、まだ食べると茶碗を差し出してきた。食欲旺盛な二人がもりもり食べてくれるので、作り過ぎてしまった料理の数々は無事完食できそうだと安堵しながら白米をよそった。 「常に最悪の事態を想定し動くべきだ。敵は教団であり、人間であり、魔物だと」 「それもそうだな」 「僕は敵じゃないよ!」 「それは解っている。お前は俺たちを謀ることはしないさ」 L.L.がにこやかに言うと、信じてくれるんだね!と、スザクは嬉しそうに笑った。何せこの中でスザクは唯一の人間だから、敵だと思われたくないのだ。 長年共にいるC.C.も、L.L.に忠誠を誓っているというロイドとセシルも、絶対に互いを裏切らないという信頼関係があるのは、見ているわけで解る。だから、ここで何かが起きれば、真っ先に疑われるのもスザクだった。 「しない、じゃなく出来ないだろう」 C.C.がからかうように言うので、むっとなり睨みつけたが「それもそうだな」とL.L.は納得顔だし、「ですよね~」「スザク君ですからね」と二人も笑うので、信頼されて喜ぶべきか、馬鹿にされて悲しむべきか複雑な心境になった。 |