夜の住人 第20話


「親衛隊隊長紅月カレン、ただ今より任務に復帰します」

燃えるような赤髪の美少女は、まるでL.L.とC.C.が製作したゲームの世界から飛び出してきたと思うほど、花蓮によく似ていた。話し方もそのままで、L.L.の前に立ち、姿勢正しく敬礼した。彼女が花蓮のモデルとなった人物なのだろう。

「カレン、俺はまだ呼んでいないはずだが?」

何でここにいるんだと、L.L.は眉を寄せた後ロイドを睨んだ。「僕も呼んでませんよぉ!」一緒にいるとは言いましたが!と、全身を使い否定した。L.L.、いやルルーシュに関わる者が動けば、それだけここにいる事を知られる危険がある。だからこそ、L.L.もC.C.もここに拉致・・・いや、保護されてから一度も外に出ていないのだ。
特にシュナイゼルは、ここの警備システムにも介入できる権限と技術を持っている。だからL.L.は大至急警備システムにハッキングし、データを書き換えろとロイドに指示を出した。カレンの性格と所持品から、碌な変装もせず来た事は明白だった。
ばたばたと走り去るロイドの背を見ながら、私は悪くないわよ!とでも言いたげにカレンは口をとがらせた。

「だって、クロ殿下が行方不明になったのよ!?あんたにまた何かあったら、洒落にならないじゃない!私は、あんたの親衛隊隊長なんだからね!!」

先ほどの堅苦しい言葉づかいとは打って変わり、上司というよりは親しい友人に話しかけるような・・・どちらかといえば、彼女の方が上の立場のようないい方で、胸を反らせて言い切った。

「親衛隊、隊長?」

誰の?と聞くほど馬鹿ではない。L.L.に向かい敬礼し、あんたの、と言ったのだからL.L.の親衛隊だろう。本来であればこのブリタニア教団の上層部が平伏しながらもてなす相手がL.L.だと聞いた事があるから、身分は当然高いと知っていたが、まさか親衛隊がいるほどとは思わなかった。
聞き慣れない声が聞こえ、カレンはそちらに視線を向けると、驚きのあまりポカンと大口を開いて数秒かたまった。そしてスザクを指さして、驚きの声をあげた。

「・・・え?は!?うわ、びっくりした!鳳そっくり!誰これ!?」

ゲームに出てくるキャラクターの鳳に似てる!何これ誰よ!気持ち悪い!

「ブリタニア教団の人間で、ロイドの部下の枢木スザクだ」

気持ち悪いは失礼だろう。

「へ?え!?スザク!?スザクって、あのスザク!?あんたのトモダチの!?ええ!?生きてたの!?うわ―はじめまして?って、え!?なんで!?人間でしょ!?なんで生きてるのよ!?」

人間はせいぜい100年程度で寿命は尽きるし、100年たてばおじいちゃんだ。だが、目の前のスザクはまだ未成年。どういうこと!?とカレンは目を白黒させていた。

「落ち着けカレン。スザクは死んだ。枢木は、似ているが同姓同名の別人だ」
「え?そうなの?へー?何その奇跡?まあいいわ、よろしく?」

ゲームの中で散々見ているヴィジュアルだからか、初対面という気はしなかった。強いて言うなら、鳳はもっと顔つきが男らしく、俺様な性格をしているが、こちらのスザクは物腰が柔らかそうに見える。

「よろしく、カレンさん」

声も穏やかで、あー、スザクってこういう声なんだと、別人相手ながらカレンは思った。何せあのゲームに声はついていない。他のメインキャラクターとは面識はあるが、鳳だけは既に亡くなっていたため想像で補うしかなかったのだ。

「カレンでいいわよ。私はスザクって呼んでいいのかしら?それとも枢木?」

L.L.の顔色を確認しながら尋ねてきた。

「呼びやすい方で呼べばいいんじゃないか?俺は、スザクと混同しそうだから呼ばないだけだ。俺のスザクは、あいつだけだからな」

俺の、スザク。
その言葉に、スザクは頭の上に重石がずっしりと乗った感覚がした。
今は亡き彼の親友スザクは、死者でありながら最大の恋敵だ。
L.L.にとってのスザクはあくまでも親友のスザクだけ。今ここにいるスザクは、親友スザクの足元にも及ばない、取るに足らない存在だといわれている気がする。

「そう?枢木って言いにくいから、私はスザクって呼ぶわね?」
「うん、宜しくカレン」

固く手を握り合った二人だが、手を合わせた途端カレンは何か奇妙な物を見るような目つきでスザクを見た。

「貴方、人間よね?」
「え?うん。どうして?」
「ううん、ならいいの。人間にしては強そうね」
「僕、強いよ?」

まるで人間だから弱いといわれている気がして、作り笑顔でそう返した。
すると、察したのかカレンは苦笑した。

「言い方が悪かったわね、気を悪くしたなら謝るわ。私も元人間だから、今みたいな言い方されたらカチンとくるのは解るわ」

まるで、魔物より下に見ているようないい方だったわね。ごめんね。

「え?人間!?」
「そ、ルルーシュの眷族になった、元人間よ」

とはいっても、吸血鬼ではないけどねとカレンは笑った。
吸血鬼になれば、それだけで強い力が手に入るけれど、それだと太陽の光から彼を護れない。だから人の性質と能力のまま彼と契約をし、時を止めた。だから眷族ではあるが、カレンは吸血鬼ではない。

「ちょっとまって!L.L.は眷族作らないんじゃなかったの!?」

僕、断固拒否されてるんだけど!?

「カレン、こいつをルルーシュと呼ぶな。今はL.L.と名乗っている」

いつの間にかやって来たC.C.が大きな欠伸をしながら言った。
L.L.のシャツを着ただけのだらしない姿に、カレンが呆れたように息を吐いた。

「あらそうなの?でもL.L.って、なんだかあなたみたいな名前で凄く嫌なんだけど。別の名前ないの?」
「ない。それにこの名前にも意味がある」
「意味って何よ」
「色々と問題があるから言えないな」
「あんたねえ。まったく、秘密主義は相変わらずのようね。まあいいわ。L.L.は眷族作るのを嫌がるんだけどね、まあ、色々あって私とミレイさんとさよこさんは眷族になったのよ」
「色々って!?」

前のめり気味に尋ねると、カレンは驚いて身を引いた。
あの親友スザクでさえなれなかった眷族に彼女はなった。
その条件を満たしさえすれば自分もなれるのだと、両目をキラキラさせて聞いてくるので、うわ、こいつ子犬みたいとカレンは内心思った。

「なによ!?あんたまさか、L.L.の眷族になりたいの?」
「うん!」
「諦めなさい、彼は眷族を増やさないから」
「でも、君はなったんだろ?」

カレンは少し考えた後周りを見渡した。先ほどまでここにいたはずのL.L.の姿が無く、あれ?という顔をしていると、C.C.が口を開いた。

「ロイドの所へ行ったよ。お前が持ってきた資料の解析を始めるそうだ」

私はL.L.を呼びに来たんだ、気付かなかったのか?とC.C.は言った。表にある特派の部屋ではなく、奥にある本当のロイドの部屋に行ったため、ここでの会話はL.L.の耳には届かない。
今ここにいるのはカレンとスザク、そしてC.C.だけだ。
そうでなければこんな話、L.L.はとっくに止めていた。
だから、好きなだけ話せばいいと、C.C.は言った。
下手に隠してスザクが直接L.L.に尋ねるリスクを考えれば、カレンの口から今説明した方がいい。

「・・・理由があったのよ、どうにもならない理由がね。私は後悔してないけど、あいつは後悔している。私たちを魔物に変えた事をずっとね。あんた、あいつの親友の話を聞いてるみたいだから言うけど、そのスザクだって眷族に、ううん、同族になりたがったけど、あいつは頑なに拒んだの。あんたがいくら望んでも、まず無理よ」
「その話は聞いてるけど、現に眷族になった君がいるんだから、可能性はあるだろ?」
「無いわよ。あいつがこれ以上後悔するような事、私がさせる訳ないでしょ」
「彼が後悔するかどうかはどうでもいい。今のままだと置いて行かれるから」
「置いていく、でしょ?」

真剣な表情のスザクに、カレンは言った。
スザクは人間だから100年と経たずにその命を終える。
残されるのはL.L.だ。
だから置いていくが正解。

「解るわよ、貴方の気持ち。私もそうだったから」

彼の眷族になりたいと、何度も懇願したから。

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