夜の住人 第21話


カレンがルルーシュと出会ったのは、今から70年ほど前の事だった。
その頃にはもう、ルルーシュは太陽の光を浴びる事の出来ない体となっており、吸血鬼としての能力も手に入れ、出来損ないの吸血鬼と呼ぶ者はいなく、カレンもルルーシュがかつて太陽の下で生きていたなんて、想像もしていなかった。
太陽の光など浴びた事が無さそうな白い肌と、妖艶な美しさを前にして、かつて半妖であったなど誰も思わないだろう。吸血鬼は基本群れる。魔界の奥深くの安全な場所で群れて暮らしているから普通なら手は出せない。群れからはぐれたその吸血鬼を発見しときには、神が人間の勝利を願っているのだと本気で思ったものだ。
暗がりしか知らない妖の皇族なのだから、彼らの知らない光溢れる世界の情報と力を使えば何も問題はないと考え、ミレイをブレインとし、カレンと咲世子が手足となって動き、あらゆる可能性を考え、あらゆるイレギュラーにも備え、何重にも策を練った。
当然、吸血鬼退治のために。
そう、カレンたちは元ブリタニア教団の対魔族部隊に所属していたのだ。
あの頃は今以上にひどい世の中で、表向きブリタニア教団は友好的な魔物との同盟を前提として動いていたが、じつはその中には全ての魔物は駆逐するべきという過激派も存在していた。カレンたちはまさにその過激派だったのだ。
あの時代は酷かった。
教団成立当初の重役たちがその任を終え、元々教団は人間と魔物が共存するための組織だったことも、創設者が魔物だという事も、侵略戦争後の魔物との和解も、話でしかしらない若い世代が台頭し始めた頃だった。
誰が敵で、誰が味方か。それらの情報は今のようなネット環境がないため、気軽に調べることもできず、そもそもそれらの資料は魔物が自分たちの都合のいいように作り出した虚構だとも言われていた。だから、魔物は味方ではなく、人間を懐柔し、あるいは洗脳し、じわじわと人間界で勢力を伸ばしているとあの頃は多くの者が信じていた。30年前に起きた人間と魔物の戦争。その元凶の一人、魔王とまで呼ばれたルルーシュと魔女C.C.が人間界で発見され、討伐隊が組まれた。その部隊の一つがカレンたちだった。白いブルタニア教団の団服に身を包み、先日までのスザクと同じく、魔物を倒すのが正義なのだと、味方の魔物などいないと信じていた。

「どうやって眷族になったか、話だけでも聞かせてくれないかな?」

懐かしくも辛い過去へ思いをはせていたカレンは、スザクの言葉ではっとなった。目の前で真剣な表情を見せている彼は、討伐対象であるルルーシュとC.C.と和解し、彼を護るのは自分なのだと、そのためにも人の寿命では足りないと、眷族にしてほしいと懇願していた頃の自分を見ているようだった。眷族になれたものを目にし、さぞ羨ましく思っているだろう。きっと私が逆の立場だったら、羨ましくて嫉妬したに違いない。 だけど、これは話せる事ではない。

「私は何も言えないわ。聞きたいならあいつに、L.L.に聞くか、C.C.から聞いて」
「いいじゃないか、話しぐらい」
「いったでしょ?私はあいつの親衛隊の隊長なの。あいつが望まない事を言うはずがないでしょ?なにより、あんたは鳳・・・ううん、あいつの親友だったスザクにそっくりだもの、絶対に嫌がるわ」
「そんな事」
「あんたの気持はわかるけど、私はあんたに味方は出来ない」

じゃ、あいつの所に行くから。と言ってカレンはスザクとC.C.を残し部屋を出た。いつもは穏やかなスザクだが、まるでその視線だけで相手を殺せそうなほど瞳に殺気を宿らせ、カレンが出て行った扉を睨みつけており、ほう、これがこいつの本性かもな?普段は猫・・・いや、犬をかぶっているのか?とC.C.は考えた。
C.C.はL.L.ほど眷族に対して拒絶反応は示していないが、スザクは横恋慕してくる邪魔ものだから頼まれたって願い下げだ。だが、ここに一人だけその事に頓着しない吸血鬼が存在する。スザクがどうしても人ではなく、魔となり長く生きるための命を望むのなら、ロイドに頼めば済む事なのだ。
何よりあいつのランスロットの性能を120%引き出せるこいつを手放すのは惜しいと考えているはずだから、頼めば即OKするだろう。生身のパーツ、しかも人間は壊れやすく死にやすいから、その生体構造を作りかえることで、長い寿命と頑丈な体、そして超回復を手に入れ、より理想の部品に近づく。むしろそのうちロイドから「僕の眷族にならない?」と言ってきそうな気もするが・・・”スザク”に手を出せばL.L.の怒りを買う事は目に見えているからやらないか?
吸血鬼の眷族でなくていいのなら、それこそカレンやミレイ達の眷族になれば、まあ、吸血鬼の眷族ほどではないがそれなりの能力向上は見込めるし、寿命も人よりははるかに伸びる。まあ、あいつらもやらないだろうが。となれば後はナナリーか。

「ねえC.C.」
「なんだ?私は忙しいんだが」
「ボーっとしているようにしか見えないけど?」
「表面上はそうでも、頭の中は忙しいんだ」
「カレンが眷族になった理由を教えて」
「冗談だろう?L.L.に殺されたくはないから、おしえないよ」

しつこい男は嫌いだと、C.C.も部屋を後にした。

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