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聞き慣れた通信音が耳に届き、C.C.は走りながら電話に出た。 『無事ですかぁ?ああ、返事はしなくていいですよぉ、そのまま直進して第三格納庫まで進んでくださいねぇ』 電話の向こうから聞こえたのは、ロイドの間の抜けた声だった。カレンの話では、C.C.が彼らの目を引きつけている間に、ロイドとセシルは机の下に用意していたという抜け穴から、こっそりあの場を抜け出したらしい。そう言えば、逃げるときに姿が見えなかったなと思い至る。カレンもそのスキに消火器を手にすることが出来たとか。 さすが私と思うが、逃げの一手しか選べない状況に苛立ちも感じた。 「ちっ、戦えれば簡単だというのに!」 『駄目ですよぉ。魔女の森ならいざしらず、ここで本気出されたら建物壊れちゃいますよ』 「いいだろう壊れても!」 『L.L.様に怒られてもいいならお好きにどうぞ』 それを言われると何も言えない。 吸血鬼は、人よりも優れた身体能力を持っている。吸血鬼として、魔女として闘うことができれば、あの程度の人間相手に遅れを取ることはない。だが、優れすぎた身体能力は、周りの環境も破壊してしまう。今回の場合はこの建物だ。侵入者だって壁を壊すのに重機を使ったわけではない。あくまでも人が持ち運べる道具で壊したのだ。そんな壁はC.C.とカレンが本気を出せば壊れてしまうし、ここは地下11階。下手すれば生き埋めだ。人を装うことを諦め闘う道を選ぶなら、せめて外に出なければ。 いや、L.L.の安全を確保してからでなければ駄目か。 L.L.は異端の吸血鬼だ。吸血鬼としての身体能力をほぼ持っていない。簡単に言えば弱い。ロイドよりも、セシルよりも遥かに弱い。それを補って余りある頭脳を持ってはいるが、このような状況でその身を守れるかといえば疑問だ。主の安全を確保した状況でなければ気が散ってカレンもろくに戦えないだろう。 「ついたぞ!」 格納庫に入ってすぐに、扉をロックした。この扉は他よりずっと頑丈にできている。銃声が聞こえ、扉にあたる音も聞こえてくるが、しばらく時間稼ぎは出来るだろう。脱出方法を見つけなければ、本当に袋のネズミだ。 『格納庫の右奥にダンボールの山がありますよね?』 「あるな」 言われたダンボールの山に駆け寄る。有名なコーヒーのメーカーのロゴが入っているダンボールで、そう言えばスザクが以前沢山のドリップコーヒーを買ったと言っていたから、きっとこの箱の山がそうだろう。 『その下にある乗り物で逃げてください。地上に通じるエレベーターの主導権は僕にあるので、地上に送ることはできます。出口には精鋭部隊が待ち構えてますから、どうにかしてくださいね』 僕達は、ここに残りますから。と、ロイドは言った。 あそこでの会話も聞いていたのだろう。自分たちは対象外だから、C.C.達が逃げれば彼らは追ってここを出て行く。それを待つほうが安全なのだ。 「いい性格をしているな」 悪態をついた後、C.C.は携帯をポケットにねじ込み、ダンボールを乱暴に下ろした。カレンもそれを見て、同じくダンボールを下ろしていく。 「これは・・・・?」 箱の下からは、磨き上げられた美しい車体が姿を表した。 漆黒の、スポーツカー。 「なるほどこれが、ガウェインか」 「対魔具の?これが?」 「枢木の対魔具、ランスロットはバイクだった。それを思えばガウェインが車であることは何もおかしくないだろう。私が運転する」 そういって、C.C.は運転席に座った。 「運転なら、私のほうがうまいわよ!」 カレンがそこをどけと言ったが、C.C.は馬鹿かと目を細めた。 「お前のほうが戦闘向きだろう。私が運転するから、お前は戦え。対魔具なら武器が用意されているはずだ。急いで乗れ!」 C.C.は携帯を操作しながら命令した。 扉を破壊しようとする音がだんだん大きくなってきている。 カレンはわかったわよと、助手席に体を滑り込ませ、C.C.は車を発信させた。そしてエレベーターに乗り込むと同時に扉が爆破され、爆風が室内をかき回した。 「ロイド!」 『わかってますよ』 ロイドは、エレベーターを操作した。逃すまいと鳴り響く銃声に、ロイドは慌てて指示を出した。言われたとおりに操作すると、車の周りに光の盾が現れ、銃弾を跳ね返し、エレベーターの扉が開いた。 『ブレイズルミナスです。エナジーの消費が激しいので無駄遣いはしないでくださいよ。今のうちに装備の説明をしますね』 電話の向こうの科学者は、自慢のおもちゃの説明ができると楽しげに言った。 |