夜の住人 第25話


『スザク君、無理はしちゃ駄目よ』
「わかっています」

上昇するエレベーターに乗りながら、スザクは頷いた。
エリア11が襲撃された時、スザクはL.L.の側にいた。だから即座に彼を抱きかかえ、この第一格納庫へやってきたのだ。ここにはスザクの武器であるランスロットがある。本気で闘うなら、L.L.を守るなら、絶対に必要なものだから。
L.L.がここにあるのコンピューターで状況を把握しようとしていた時、セシルから通信が入り、エレベーターに乗り外へ逃げるようにと言われた。ただし、外にはブリタニア教団の精鋭が待ち構えている。そこを強行突破し、魔女の森へ向かうようにというのはかなり無茶な指示だとおもう。
魔女の森。
あそこはC.C.のテリトリーだ。
いかに教団の人間とはいえ、あの場所で彼女と戦えばただではすまない。
太陽の光という最悪の弱点も、あの森ならさほど大きな問題ではないのだとか。だからL.L.を魔女の森の奥にある魔女の家へ連れて行く。

『ランスロットはガウェインと違って、L.L.様を太陽の光からは守らないわ。幸い今は夜だから大丈夫だけど・・・』
「日が昇る前にかならず」
『L.L.様のこと、頼んだわねスザク君』
「それよりもセシル」
『はい、L.L.様が気にされていることはわかっています。その件はこちらで』
「ああ、任せた」

そこで通信は切れた。

「やはりセシルは優秀だな」

通信が傍受されている可能性がある以上、少ない会話で全てを伝えられる相手というのは貴重だと上機嫌で言うL.L.は、これから敵のど真ん中に行くことに不安を感じていないようだった。吸血鬼としての自信かとも思ったが、戦う力はあまりないという話だから、それだけ自分の実力を認めていると言うことではないだろうか?いや、きっとそうだと考えたスザクもまた上機嫌となった。
エレベーターはもうじき地上につく。
L.L.はスザクの腰に両手を回し、ランスロットにまたがった。そもそも一人乗り用のバイクだから座りにくくて仕方がないようだ。

「L.L.、絶対に離さないでね」

スザクが念を押すと、わかっていると返された。

「ロイドの情報では20人を超える退魔士が待ち構えている」
「なんとかなるよ」
「おまえな」
「大丈夫、僕を信じて?」

緊張感の欠片もないスザクに、地下5階を示す表示を見ながらL.L.は息を吐いた。既に包囲されている以上スザクの化け物じみた能力に賭ける他ない。下手に気負われるよりは、リラックスしているほうが理想的か
それにしても、考えれば考えるほど妙な話だった。相手はこちらを知っていた。対象の1人がC.C.だと知られている以上、対吸血鬼用の武具を持ちそれに合わせた戦術を使うのは当然だが、解せないのはこの時間を狙ったことだ。
太陽がすでに落ちた時間は吸血鬼の領域だ。
なぜ日が昇るのを待たなかった?
地下から引きずり出すことが目的なのはわかっているが、吸血鬼を闇夜に出すリスクを選ぶ理由は何だ?不本意ながら吸血鬼としての身体能力が普通よりも劣っていると言われているらしいが、そんなことは一切ないし、その程度の理由では夜を選んだ理由にはならない。C.C.がいる以上ハイリスクすぎる。
軽く調べた段階では、ロイドだけではなくシュナイゼルの事も知られていない。だが、9割近い魔族が捕縛されていた。どこで情報が漏れた?

「ついたよ、離れないでね。君は、僕が守るから」

スザクは振り返ると笑顔で言った。
眩しいほどの笑顔は、泣きたくなるほど胸を締め付ける。

『大丈夫だルルーシュ、俺から離れるなよ!お前は、俺が守るから!』

あの時の言葉が、姿が、鮮明に脳裏に蘇る。
スザクと同じ顔で、スザクと同じことを言うな。
悲しげに歪んだL.L.の表情が視界に入り、スザクは胸が痛んだ。命を狙う敵のど真ん中に飛び込むのだ、不安なのだろうと、安心させるように笑うと、L.L.は悲しげに眉を寄せ、顔を伏せた。
エレベーターが地上に着いた音が聞こえた。
その瞬間、スザクの表情は穏やかな笑みから戦う男へと一瞬で切り替わり、真っ直ぐに正面を見据えた。そして、エレベーターの扉が開くと同時に、ランスロットはフルスロットルで駆け出した。

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