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「追って、来ないだと?」 C.C.は車を走らせながら眉を寄せた。 いや、先程まではしつこく追ってきていた。 だが、突然その追跡が止んだのだ。 L.L.と同じルートで動く訳にはいかないため、遠回りになる道から魔女の森を目指していたが、もしかしたら相手は魔女の森に先回りし、こちらが来るのを待ち構えているのかもしれない。さてどうする?進むべきか、引くべきか。一度ジェレミアと連絡を取り、こちらの体制を整えるべきか。どちらにせよ、L.L.と連絡を取らなければ。 聞き慣れたコール音に反応し、カレンが電話に出た。 「・・・はい、無事です。・・・え!?スザクが撃たれた!?るる、L.L.はどうしたの!?えええ!?ちょ、それどういうことですか!?」 「叫んでないで内容を教えろバカ娘!!」 スザクが撃たれたことと、カレンの悲鳴しかわからず、C.C.は苛立ち叫んだ。 「あいつ、シュナイゼルに捕まったって!」 「は!?なぜここでシュナイゼルが・・・っ、そういうことか」 「え?なに?なんなのよ!?」 「ロイド!シュナイゼルはどこだ!」 電話口に向かい、C.C.は怒鳴った。 「今調べてるって」 「教団を調べろ!あいつのために動くのは私達魔族だ。その魔族を追い払うのに教団を使わないはずがない」 そう、おかしな話だったのだ。ロイドとセシル、そしてシュナイゼルは今回の件を免れている。ロイドとセシルは、シュナイゼルの腹心として、シュナイゼルが呼び寄せた人物だ。彼らを魔物と告発すれば自分の足元を掬われかねない。何よりあの二人には利用価値がある。L.L.を押さえてしまえば、その従者である二人はL.L.のためにシュナイゼルに仕え続けるだろう。永遠に。 スザクは、L.L.を取り戻すために牙を剥く可能性があるから、処分したのだろう。 そして、C.C.とカレンも邪魔者だ。 だから教団内から追い出し、外から攻め込むしかない状況を作り上げたのだ。 シュナイゼルはブリタニア教団の中核に位置し、全てを掌握している。 吸血鬼でありながら教団の上層部に居座るという狂気じみた事を平然と行える精神と頭脳の持ち主は、戦争となれば迷わず退魔部隊を指揮するだろう。 そのシュナイゼルに対抗できる男がシュナイゼルの手に堕ちた。 「最悪だな」 ここまでやられてから答えが出るなんて。 「ねえ、どういうことよ!?」 電話を切ったカレンが、困惑顔で訪ねてきた。 「人間と魔物の戦争を煽っていたのはシュナイゼルで、全てはこのための下準備だったということだ」 L.L.を、いや、最愛の弟ルルーシュを手に入れるために。 ルルーシュが囚われたと知れば、教団内の魔族も取り戻そうと動いただろう。 彼らもまた、ルルーシュがどのような存在か知っているから。 だから、排除した。 教団本部に居るのは、シュナイゼルの意のままに操れる人間兵。ルルーシュのために手も足も出ないロイドとセシル。あとはシュナイゼルに忠誠を誓った魔物達。完璧な布陣が出来上がっている。 人間と魔物が戦争をするという噂を流したのは、魔族がルルーシュ奪還で動けば、やはり魔物が攻めてきたとして迎え撃つため。 シュナイゼルも魔物だと教えても、嘘偽りだと言われて終わりだ。魔物の甘言に惑わされてはならない、人間の結束を内部から崩すのが目的だ、とでも言えば疑惑は消え去り、なんて卑怯な手を使うんだと、魔物に対する敵対心が更に増すだろう。 「な、最悪だろう?」 淡々と語るC.C.だが、その内容は最悪なんて言葉で片付けられるものではなく、カレンは青ざめた顔でロイドに電話をした。 「君は、随分と強情になったものだね」 呆れたように言ったのは、腹違いの兄だった。 白を基調とした豪奢な部屋のソファーに座り、優雅に紅茶を口にしていた。 苛立ちを隠すこと無く、その兄を睨みつけていると「そんな顔よりも、笑顔の方がずっと君に似合っているよ」と、平然とした口調で言ってくる。 たった今、スザクを殺しておきながら、だ。 重機を使い、地面ごとランスロットを回収した後、この建物・・・距離と方角から、おそらくは教団本部に移動した。そのままトラックの荷台から降りずにいたら、今度はトラックを分解し、荷台の床板と共にこの部屋へと運ばれた。 白を貴重とした部屋に、同じく白を貴重とした美しい車体のランスロット、そしてそれにまたがる黒髪の美少年というのは実に絵になる光景だが、その足元にある土塊が、今の状況がどれほど異常な光景かを物語っていた。時折剣を振り下ろしてくるのはシュナイゼルの副官カノン。ルルーシュを守っている防壁、ブレイズルミナスが健在かどうかを確認しているのだ。できるだけこの状態を維持するためにも、防壁をピンポイントで張り続けるしかない。気を抜けば、その剣はランスロットを破壊するだろう。こんな面倒をかけず、全方位攻撃を仕掛ければそれだけエナジーが尽きるのも早いと言うのに、ネズミをいたぶる猫のようなやり口に腹立たしさしか感じなかった。 「貴方と話すことはただ一つだけ、なぜ彼を、枢木スザクを撃った」 「不要となったペットをいつまでも飼っている趣味はないからね」 「ペット、だと?」 内容が、スザクの事というのは腹立たしくても、弟との会話を優先することにしたシュナイゼルは、饒舌に話し始めた。 「以前、魔物に襲撃された村で見つけた子供でね。彼はその村の唯一の生存者だった。そのときの恐怖からか、数年分の記憶を無くしていたから、しばらく飼ってみることにしたのだよ」 「・・・っ、なぜですか?」 「彼は、似ていただろう?君の、昔飼っていた犬に」 「スザクは、犬ではない!」 飼っていたわけでもない。 スザクは、初めての友達で、親友だった。 人と魔物が共存できる可能性を示してくれた、大切な人だった。 「似たようなものだろう?お前は昔から犬が好きだったから、きっとまた飼いたがると思っていた。でも、飼い主に噛みつきかねない犬なら、殺処分は当然だろう?」 「何を馬鹿な!」 飼い主、つまりシュナイゼルに危害を加えかねないから殺したと? あれほど従順に従っていたスザクをか!? そんな理由で殺されたのか!? 俺を守ろうとしたスザクを、目の前でまた!! 「そんなに犬がほしいなら、ちゃんとした血統書付きを買ってあげよう」 今度はちゃんとした犬を、ね。 何も知らずに見るならば、愛情に満ちた笑みだろう。 だが、その笑みは酷く醜悪で、恐ろしいものにしか見えなかった。 |