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「なんということだ!ルルーシュ様がシュナイゼルの手にっ!ああ、ルルーシュ様、どうかご無事で!このジェレミア・ゴッドバルト、今すぐ助けに参ります!!」 どこまでも熱い男は、両の拳を握りしめ炎を背負った。 「駄目ですよジェレミアさん、落ち着いてください」 それとは真逆の、穏やかで優しい笑みを浮かべたナナリーが止めると、ジェレミアは即座に騎士の礼を取った。 「はっ、ナナリー様」 こうして大人しくしているのはほんの数分で、主を奪われた怒りからジェレミアは再び騒ぎ出す。それをまたナナリーが止める。もう何度も見ている光景だった。 何だこのコントは。 丁寧に入れられた香り高い紅茶をすすりながらC.C.は目を細めた。 さすが高級茶葉、おそらくはダージリンのファーストフレッシュだろういい香りだ。 だが、やはりあの男が入れた茶のほうが美味いなとおもう。 決して咲世子が下手というわけではないのだが、やはり一味違うのだ。 懐かしい庭園で飲むのなら、やはりあの男の手で入れたものを飲みたかった。 C.C.とカレンは魔女の森に行かずに、別ルートから魔界にあるL.L.の拠点の一つ・・・正確には、L.L.が愛してやまない妹、ナナリーのもとへとやってきていた。 シュナイゼルはC.C.を苦手としている。 それはC.C.の趣味嗜好と合わないこと、L.L.がC.C.を気に入り、幼い頃から行動をともにしていることも理由だが、何より魔女と呼ばれる彼女の底知れぬ能力を恐れているのだ。そんなC.C.を放置しておくとは思えない。だから敵がシュナイゼルであるとわかった時点で魔女の森に罠が張ってあることが確定した。 罠に飛び込む趣味はないので、最も安全な場所、シュナイゼルが絶対に手を出せない・・・いや、出せないナナリーのもとに来たのだ。 シュナイゼルは非常に厄介な相手だが、万能ではない。 この魔界にはもう一人、いや二人シュナイゼルが苦手とする人物がいる。 それは父である皇帝・シャルル。 そしてルルーシュとナナリーの母である皇妃マリアンヌ。 シャルルはシュナイゼルの行動に腹を立て、今すぐに進軍しかねない状況になっていた。現在腹心であるヴァルトシュタインを始めとする者たちがどうにかそれを抑えている状態だ。これはシュナイゼルも読んでいるだろう。マリアンヌは既に故人なので、シュナイゼルは彼女のことは考えていないはずだ。 「あの優等生が、ここまであからさまに動くと思っていなかったわ」 呆れたように言う声は、女性のものだった。 ナナリーの膝の上に座る黒猫、アーサー。 声はその猫から聞こえてきた。 「ロイドとセシルには連絡取れるの?」 「可能だが、盗聴の恐れがある。逆探知され、この場所が知られても困るだろう?」 シュナイゼルが配下を使い手を出してこないとしても、荒くれ者を雇って仕掛けてこないとは言い切れない。その程度の連中どうにでもなるが、わざわざ探し回ってくれているのだから、ここにいると教えてあげる必要はないだろう。 「そう簡単に連絡は出来ない、ということね」 猫は「ホント、面倒な男ね」と心底嫌そうに言った。 連絡を取れればロイドが得ているだろう細かな情報、教団の組織図や各部隊構成、教団の図面を手に入れることが出来るのだが、かくれんぼの鬼に居場所を教えるのはもっと嫌なので連絡は保留だ。 「お母様、お兄様は・・・」 「大丈夫よ、そうかんたんに手篭めにされないわ」 猫は当たり前のように答えた。 この猫、アーサーの中には今は亡きマリアンヌ皇妃の魂が宿っていた。 猫に九生有りということわざにあるように、猫には9個の魂があると言われている。 C.C.の使い魔であるアーサーは、マリアンの死の場面に居合わせた。 正確には、殺害現場に。 マリアンヌは生前、C.C.と契約を交わしていた。 契約で繋がったマリアンヌ、眷属としてつながっているアーサー。 C.C.と接続されているという共通点が奇跡を生み、アーサーの10個目の魂として現世に留まった。そのことを知るのは今ここにいる面々とルルーシュ、ロイド、セシル、そしてシャルルだけ。つまり、シュナイゼルの知らない、シュナイゼルの苦手とする存在。こちらのジョーカーだ。 「手篭めって、ちょっとまって。シュナイゼルってルルーシュのお兄ちゃんでしょ!?」 しかも男同士じゃないの!ナナリーちゃんの前でふざけないで!と、カレンはいったが、ナナリーを始め全員の表情は暗く、何を今更という空気をひしひしと感じた。 「え?ちょ、ええ!?」 「カレンさんは、シュナイゼルお兄様と面識はないのですね」 「無いわね、話には聞いているけど」 接点もないし、カレンが眷属となったのはルルーシュが人間界をさまよっている間だ。ルルーシュがシュナイゼルと接点があったのはそれより前、親友のスザクが死ぬよりも前なので、今回初めて噂のシュナイゼルとの接点が出来たのだ。 「シュナイゼルは、ルルーシュを弟の一人として愛しているわけではない。恋愛とは違う気もするが、シュナイゼルはルルーシュに気色が悪いほど執着し、そのすべてを自分のものにしたいんだよ。身も、心も全てな」 ルルーシュとナナリーの関係もかなり微妙なラインだが、シュナイゼルの場合は微妙なんてレベルじゃなく、あからさまに弟であるルルーシュに劣情を抱いているし、それを隠そうともしない。今までは、いや、100年前まではまだ幼かったから無理強いすることは無かったが、ルルーシュはもう成長してしまった。それも美しく、妖艶に。 「問題は、ロイドとセシルがシュナイゼルの手の中だということだが」 人質を取られているのだ。あの二人を守るため、自分を捨てかねないのもルルーシュだ。他の者とは違い、共にいたC.C.はそれを痛いほど知っていた。 「馬鹿ね、C.C.。ロイドとセシルはルルーシュを守るために大人しくしてるのよ?自分たちのせいでルルーシュが傷つくとわかったなら、本気になるわ」 いつもはのらりくらりとしていて、真面目になるのはランスロットに絡んだことだけ。 そんなロイドも、日和見主義なセシルも、本気で闘う道を選んだ時は、恐ろしいほど冷酷になる。普段おとなしい人物ほど怒らせたら怖い、の典型だ。セシルはああ見えても身体能力が高く、頭も回るから甘く見ていたら致命傷を負うだろう。 あの二人は、秘密裏に教団内に盗聴器と隠しカメラを仕込むほど強かだ。味方である教団を信じていたわけではなく、監視し見張ることで安全を確保していた。 だから今も、ルルーシュのことを見ているだろう。 「あの二人が行動を起こさない限りルルーシュの貞操は無事よ。問題は、どう救い出すか。私達がどう動くか。最悪の場合、人間と全面戦争になるわね」 それは避けなければならない。 だが、教団と争うなら、最終的にはそうなってしまうだろう。 シュナイゼルはそれを狙っている。 戦争が起きれば、シュナイゼルの策略は人類存亡の要となる。 だから、シュナイゼルを守る壁は強固なものとなる。 「いい?軽率な行動だけはしちゃ駄目よ」 「それはシャルルにいえ」 「そうね、あの人シュナイゼルのこと処分するタイミング狙ってたものね」 「・・・どういうことだ?」 「あら?言ってなかったかしら?私の暗殺、首謀者はV.V.だけど、私を殺したのはシュナイゼルよ?」 「なに!?」 「ルルーシュを手に入れるには、母親の私とナナリーが邪魔だったのね」 まだ10才のルルーシュは母に守られ、妹と過ごしていた。ルルーシュの愛情は、この二人に向けられており、シュナイゼルはそれが妬ましかった。 だから、それらを奪ったのだ。 家族を失い1人になったなら、自分の手元に保護できるから。 「でも、あの子はナナリーを治そうと人間界に来てしまった。あなたと二人で」 「そして、スザクと出会った。ルルーシュの愛情を受ける新たな存在だな」 あとから来て愛情を注がれる存在をどう見たのだろう。 「シュナイゼルが教団を知ったのは、スザクくんの死後よ。だからあの襲撃はシュナイゼルの策ではないわ。でも、スザクくんのことは憎んでいたでしょうね」 だから、今回枢木スザクをルルーシュの前で殺せたこと、凄く喜んでいるでしょうね。 「・・・ああいやだ、私は、あの男が嫌いだ」 「私も・・・だめ。殴りたい」 「私も大っ嫌いよ、あの優等生」 「私も、嫌いです。お兄様は渡しません」 「ルルーシュ様を誘拐しただけではなく、マリアンヌ様のお命を奪い、ナナリー様の足を傷つけていたとは!!許せん!許せんぞ!シュナイゼル!!」 「ジェレミア、落ち着きなさい」 「はっ、マリアンヌ様、失礼いたしました」 こいつの暴走が心配だな、機械部分が怒りで煙を噴いているしと、C.C.は少し心配になった。冷却装置、壊れてないか?爆発しないだろうな?そんな事を考えていると、カレンがあ!と声を上げた。 「そうだ、忘れてたわ。ロイドさんからの電話で、シュナイゼルのギアスに注意してって言ってたけど、意味わかる?」 カレンの言葉に、周りの空気が固まった。 |