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「ルルーシュ、私を愛しなさい」 シュナイゼルは、ルルーシュの目を見つめながら静かに言った。 その右目は赤く輝き、瞳の中に浮かんでいた文様が羽ばたいたような気がした。 「・・・愛?私が貴方をですか?」 冗談じゃないと、ルルーシュは吐き捨てた。 その反応に、シュアにゼルは眉を寄せた。 ギアスは、たとえ同族であっても効果を発揮する。 幾度か実験を行い、どれほど理不尽な命令にも従うことは実証済みだった。 自分がギアス所持者だと知られないため行った検証だけでは数は少なく、どれも下っ端を選び行ったとはいえ、今まで100%成功していたのに、目的の人物であるルルーシュには効果を示さず、シュナイゼルは眉を寄せた。 「もう一度言おう。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。お前はシュナイゼル・エル・ブリタニアを愛しなさい」 「何度言われようとも、お断りします」 これは、どういうことだろうか。 ありえない事態に、シュナイゼルは眉を寄せた。 可能性があるとすればギアスか。 既にギアスがかかっている人物に、自分のギアスをかけたことはない。 だが、誰がギアスを・・・? C.C.か? いや、彼女はギアスを生み出す神の巫女。ギアスを与える力はあっても、使うことは出来ない。ならば誰が?可能性があるとすればナナリーだが、彼女の両目は閉ざされている。それより前にかけていない限りは、彼女である可能性は無いに等しい。 スザクの可能性もある。だからこそ、ルルーシュは未だにあの犬を気にかけているのか。だが、報告を聞く限りでは、ルルーシュがスザクに従順だったとは思えない。 誰だ。誰が、私のルルーシュにキズを残した? その清らかな精神に、心に割り込んできたのは誰だ? ギアスを使用したものが死んでも、その効果は消えないという。 だとしても、その者を生かしておく訳にはいかない。 醜く歪んだ嫉妬を隠そうともしないシュアにゼルに、ルルーシュは怖気だっていた。 昔は、優しい兄だと思っていた。 年も離れ、住んでいる場所も離れていた兄は、暇を見つけては遊びに来て、勉強やチェスを教えてくれた。頭がよく、若くして重要な役割を与えられた自慢の兄。あの兄のようになりたいと、憧れ、慕っていた。あの日までは。 ナナリーはシュナイゼルが嫌いだった。昔から懐かず、シュナイゼルが来ることを泣いて拒むほどだった。シュナイゼルがいる間は、ルルーシュから離れること無く、いつもその背に隠れていた。年の離れた兄はとても大人びていて、人見知りをしているのだと、そう思っていた。幼かった自分の認識の甘さに、警戒心のなさに呆れ果ててしまう。 疲れて眠ってしまったナナリーを残し、ルルーシュは席を外した。シュナイゼルは子供の扱いが上手いから、少しぐらい大丈夫だと思ったのだ。だが、戻ってきたルルーシュは、そのことを後悔した。 叫ぶことが出来ないよう、口をふさがれていたナナリー。 髪を掴み上げられ、その痛みで顔を歪め涙を流し続けていたナナリー。 まだ幼い妹に、冷酷な笑みを浮かべていたシュナイゼル。 「私のルルーシュに近づくなと、あれだけ言ったのにわからないのかな?」 そう言っていたあの姿、自分が知っていた兄とは全く別の誰か。その日から、ルルーシュはシュナイゼルとの接触を絶った。愛するナナリーと離れて暮らしているのは、この男がナナリーに危害を加えるから。 今もあの頃と変わらない。 こんな醜い存在を、他にはしらない。 「兄上、それはギアスですか?」 怒りを抑え、静かに訪ねた。 「・・・ギアスを、知っているのかい?」 「私が、C.C.と共にあることをお忘れですか?」 「あの魔女が、余計な知識を吹き込んだのか」 「余計な?重要な情報でした」 「余計だよ。お前が知る必要のない情報だ」 「私に必要な情報かどうかは、私が決めます」 「その必要はない。お前に何が必要かは私が判断する」 「それこそ必要ありません。私は、私の判断ですべてを決めます」 「強情な子だね。あの魔女のせいで、こんなに聞き分けのない子になしまって」 「彼女は関係ありません。私は、貴方の人形ではありませんから」 「人形などとは思っていないよ。君は私の愛しいルルーシュだ。お前は昔のように、私の側で笑っていればそれでいい」 「それを、人形だと言っているんですよ」 何を言っても無駄だろう。 こちらの考えを理解しようとする気が最初からないのだから。 ランスロットのエナジーは残りはわずか。 ルルーシュの籠城など、長く続かないことをシュナイゼルも知っていた。 だからこそ、この状況を楽しんでいるのだ。 ブレイズルミナスはエナジーの消費が激しい。 無限の防壁ならあらゆる手段を講じ、そこから引きずり出したが、有限の防壁なら焦る必要もない。今までずっと待っていたのだ。ほんの数時間それがのびただけ。 有限の力にしがみつき、毛を逆立てこちらに噛み付いてくる姿も可愛いものだ。 シュナイゼルは、美しい弟の姿を眺めながら、香り高い紅茶で喉を潤した。 |