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教団本部からどうにか脱出はしたものの、状況は好転したとは言い難かった。だがスザクは、ハンドルが壊れていようと、リヤが歪んでいようと気にすること無くバイクを走らせた。普通であれば真っ直ぐに走れない損傷なのに、腕力で強引にタイヤを真っ直ぐ前に向け、ブレそうになるのも全て腕と足と、それ以外の全ての筋肉で無理やり修正しているのだ。人外である自分の常識の中でも、こんな芸当出来る者はいない。こいつは化物か!?と、化物と呼ばれる側の魔族の自分が思ってしまうほど、ありえない事をスザクは平然と行っていた。 この男の身体能力に関しては、考えるだけ無駄なのだろう。 集中して走っているのを邪魔する訳にはいかないと、ふと空を見上げた。このヘルメットのシールドは遮光性が高く暗い色だから、空の色はくすんで見える。だが、雲の形から、きっと空は澄み渡るような青空なのだろうと考えた。昔は当たり前のように太陽の光を浴びていた。陽の光に当たれないC.C.達の世話をするため、1人朝日の中時間動き回っていたものだ。 「あー、やっぱりついてくるよな、まあ当然か」 面倒くさそうな物言いに振り返ると、なるほど、教団の精鋭たちが追いかけてきていた。真っ直ぐどうにか走れるだけの壊れたバイクと彼らの乗り物で勝負になるはずがない。当然、あっという間に追いつかれてしまう。 だが、彼らはすぐには手を出してこなかった。じわりじわりとこちらとの距離を狭め、こちらの行動を制限しようとしてくる。 「いいな、二人とも生け捕りにする。これだけの人数差があれば問題なく捕らえられる。吸血鬼の方は今は無力だが油断はするな」 「イエス、マイロード」 この吸血鬼は、重要な人物だということで、傷つけること無く丁重に扱うようにと言われていた。魔物を丁重になどありえないことだが、シュナイゼルの命令では仕方がない。追いついた以上、あとはこのバイクを囲み、こちらの都合がいい場所へと移動し、捕獲するだけだった。 そう、あとそれだけでこの任務は終わるはずだったのだが。 「邪魔よ!!!」 大きなエンジン音と共に女性の怒鳴る声が聞こえ、慌てて振り返ると、真っ赤なバイクに跨った赤髪の女性が、ものすごい速さでこちらに近づいてきていた。 「あなた達!そいつからから離れなさいよね!!」 赤髪の女性は信じられないほど華麗なバイクテクニックで、追いかけてきた教団の車を次々と破壊していった。その動きはまさに鬼神のごとく。「うわ、何だあの女。こわっ!」と、スザクが言うほどだった。 追跡者の車の上にバイクごと乗り上げる。大きさからわかっていたことだが、その重さでフロントガラスは一瞬でひび割れ、前を見ることも出来ない状態となった。車から車へ飛び乗り、バイク相手にはケリを入れ、うわ、あれ死ぬんじゃないか!?と思うような攻撃をためらうこと無く彼女はやってのけた。ガラスにひび割れぐらいでは、一瞬動きを止めるのが精々だ。ひび割れた窓ガラスを砕き、彼らは再び迫ってくる。バイクの方も倒れる直前に上手く受け身を取ったのか、しばらくするとまた追いかけてきた。 さすがは退魔部隊。 この程度の攻撃では障害にならないらしい。 「あーもー!うっとおしいわね!!」 「カレン!輻射波動だ!左から2番目の白い車をねらえ!」 「了解です、ゼロ!」 赤髪の女性、カレンはそう言うと、何やらバイクから取り出した。 「え?なにするんだ!?」 「輻射波動だ、枢木、衝撃に備えろ!」 「砕け散れ!!!」 「え!?うわっ!!」 急反転したカレンのバイクの後方が赤く光ったと思ったら、突如巨大な力が破裂し、周辺の空気を振動させた。これは不味いと、慌ててランスロットを停車させ、L.L.を背後にかばった。 視界に入ったのは、バイクを停め追跡者たちと対峙する形で、見慣れない兵器を手にしたカレンだった。その兵器は赤く輝く光を正面に向けて放っており、その光を受けた白い車が、まるで高熱に晒されたかのように歪み、溶けていった。そして、その熱量に耐えきれずに爆散し、車体は燃え上がった。そのエネルギーの余波を受けた周りの車も変形し、乗っていたものたちは慌てて車を乗り捨て逃げていく。 やがて赤い光は小さくなり、波動の反動を一身に受けていたカレンは一度息を吐くとすぐにバイクを発進させ、スザクの隣まで移動した。 「なにやってんのよ!逃げるわよ!」 「え!?今の武器で全滅させればいいだろ!?」 「あんな高出力、連射できるわけ無いでしょ!ほら、行くわよ!!」 まだ無事な乗り物で、彼らは追ってくるだろう。 後続部隊だって、これから増えるのだ。 スザクは慌ててバイクを動かし、先導するカレンを追った。 |