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シュナイゼルの指揮の元、次々と数を増す退魔部隊から逃げ続け、魔女の森とは別のルートで魔界の門を目指していたスザクとカレン、そしてL.L.だったが、壊れたランスロットを予備のエナジーフィラー1つだけで動かすには限界があり、とうとうランスロットはその動きを止めた。 目的地はまだ先。 ここが街中なら建物に逃げるても使えたが、残念ながら見晴らしのいい一本道で隠れる場所など何処にもない。 こんなところで、と思う気持ちが無いとは言わないが、それだけ破損していたにもかかわらず、よくここまで保ったものだという気持ちの方が強かった。切断された操作パネル、ハンドル部分も片側は半分以上切り取られており、タイヤは防塵対策された物だったためパンクこそしていないが、強い力が加わったことで歪んでいた。 こんな状態でまっすぐ走らせていたスザクの腕は相当なものだった。 あとは、夜になるまでの間、二人でこの退魔士たちを相手しなければならない。 なにせ、L.L.は頭は周るが戦闘に関しては全然駄目だから。 カレンがL.L.を後ろに乗せ、スザクを残してここを走り抜ける手はあった。だが、カレンは何も言わず紅蓮から降りた。L.L.もその手は考えている。でも何も言わない。つまり、スザクを残して逃げる選択は無いのだ。まあ、そんな選択をしたらカレンが一発殴っていたが。 「あんた、しくじらないでよね」 「こっちのセリフだ」 L.L.を背に、二人は軽くストレッチをしながら退魔部隊が近づいてくるのを待った。たった二人で何が出来ると、笑いながら取り囲む屈強な男たち。普段は魔物相手に戦う戦闘のエキスパートだ。ひょろっとした人間と変わらない姿の子供二人、殺さない程度に甚振ってやろう。そんな甘い考えからか、にやにやと嫌な笑顔で近付てきたのだが、この二人は規格外に強かった。 二人は吸血鬼の眷属。体力切れはないのかもしれないが、人数は遥かに多いのだから人海戦術で・・・と、シュナイゼルでさえ思っていたのだが、二人の体術の前に退魔部隊の戦士たちは次々と地面に崩れ落ちた。 絶望的な戦力差ではあったが、これならいける。 3人はそう確信した。 暗くなれば、C.C.もジェレミアも動けるようになる。 彼女たちがいる場所まではもうすぐだし、カレンの持つ発信機で、先に脱出していたロイドたちはこちらの居場所を把握している。だから、夜の帳が下り、夜の住人達が動き出すその時まで彼らを退け続ければ勝ち目はある。 つまり、日が落ちるまでにブリタニア教団本部まで連れ戻せなければシュナイゼルの負けが確定するということだ。 だからこそ、シュナイゼルは全力で指示を飛ばしてきた。 だが、どれほど綿密な策も、規格外の二人の戦術にかかれば意味をなさない。 そして、実際にこの場にいてその目で状況を把握しているものの指揮に、通信の情報だけで判断している者の指揮で勝てるはずもない。 「カレン!前に出すぎだ!2時方向、油断するな!スザク!左はいい!右の大男を先にやれ!足を狙うんだ!右足に古傷がある!」 「了解!」 「わかった!」 誰をどう倒せば効率がいいか、囲まれないためにはどうすべきか。それらを瞬時に判断できる指揮官であり、更にはヒマつぶしにと退魔士全員の情報に目を通していた男は、遠慮なく弱点は狙えと命じた。 ヘルメットの男は吸血鬼だから無傷で捉えろと命じられたが、枢木スザクは教団でも有名な人間だし、赤髪の少女ももしかしたら人間かもしれない。後ろの魔物に操られているだけの人間の子供が二人。その迷いもまた、敵の刃を鈍らせている。 だが、有利な状態はいつまでも続くものではない。 多勢に無勢。敵は次々と増えている。そして時間の経過とともに敵は冷静になり、油断は消え、連携した攻撃を始めた。 一騎当千とはいえ、二人では統制の取れた数で押されてしまえばどうにもならない。 それに、こちらは。 「枢木!!」 「え!?ちょ、どうしたのよ急に!やられたの!?」 突然動きが鈍ったと思ったら、スザクはそのまま地面に倒れ伏した。 対魔部隊の攻撃が当たったわけではない。 なにか、あるのか!?まさか、魔族に寄生されているのでは!?と、最悪の事態に備え、退魔部隊はスザクと一定の距離を取った。寄生型の魔族の場合、宿主が死ねば近くの人間に取り憑こうとする。最悪の場合、自分の体が乗っ取られるのだから、近づきたくなど無いし、タイプによっては銃弾や刃による傷で分裂し、対処しきれなくなる。寄生型を相手にする場合は、それがどのようなタイプなのか見極めなければ、死につながるのだ。 退魔部隊の反応でそれに気がついたL.L.は、カレンと共に駆け寄った。 スザクの顔は蒼白で、既に意識を無くしているようだった。 「なに!?なんなの!?ちょっと、起きなさいよスザク」 「・・・枢木は昨日シュナイゼルに撃たれた。恐らく、傷が開いたんだ」 「は!?え!?そんな体で!?馬鹿じゃないの!?」 口では悪態をついたカレンダが、意識を無くすまでL.L.を護ろうとしたのだから、親衛隊長としては賞賛すべき事で、よくやったと褒めてあげるから、絶対に死ぬんじゃないわよ。と、苦しげに歪むスザクを見つめた。 寄生型ではなく別の理由だ気づいた退魔師達は、徐々に距離を詰めていた。 ここまでかと、L.L.はため息を吐いた。 スザクとカレンがいたからこそ持ちこたえていたが、もう限界だ。太陽が落ちるまでまだ時間がある。こうなったら、カレンとスザクだけでも逃がさなければ。 L.L.は立ち上ると、対魔部隊を見回し、そして、ここのトップだと目をつけた人物を目指し、足を進めた。 「ちょっと!待ちなさいよ!」 長い付き合いだ。意図に気付いたカレンは、L.L.の腕をつかんだ。 「これが最良だ」 「いえ、最悪よ」 「三人が捕まるより一人の方がいい」 「あんた一人を行かせるぐらいなら、一緒に捕まった方がましよ」 真逆の意見はぶつかりあった所で平行線だ。 彼女の力は強く、腕を振り払えず、L.L.はヘルメットの下で呻いた。 その時、気付いた。 雷雲だろうか、周辺が急激に暗くなっている。 L.L.の反応でカレンも気づき、辺りを見回した後空を見上げた。 その二人に習う様に、退魔部隊も空を見上げ、悲鳴を、上げた。 「な!なんだあれは!!」 「魔物だ!魔物が攻めてきたんだ!!」 周辺から光が失われたのは、雲のせいではなかった。 空一面に広がり、太陽光を遮っているのは、紛れもなく生物で。 大小様々な、いや、数多くの種族が空を埋め尽くしていた。 数は増え続け、周囲はますます暗くなり、夜だと誤認した外灯が、周辺を明るく照らし出す。空を覆っていた生物たちは、こちらに気付いたのか徐々に高度を下げ、それに伴い闇が濃くなっていった。 --- 見つけた 私の 辺りに、声が響いた。 それは、聞きなれた女性の声。 同時に、上空の魔物の一部が急降下をはじめた。異様な光景に、退魔師達は恐れ慄き、L.L.と距離を取った。降りてきたそれは無数の蝙蝠で、退治することは容易だったが、上空に待機している魔物の数が多すぎる。 攻撃を仕掛ければ、空を闇に染める大群が襲いかかってくる。 たった3人を多くの仲間と共に狩るはずが、万を超える魔物との戦いに替わったのだ。 一瞬で立場は逆転し、人間に勝ち目はなくなった。 降りてきた蝙蝠は一ヶ所に集り、人の形を模った後飛び去った。 残ったのは一人の女性。 手品のような光景に、思わず息をのむ。 「来たか、C.C.」 「ああ、待たせたな。数を集めるのに手間取った」 たしかに吸血鬼は太陽に弱い。 だが、魔物は吸血鬼だけではないのだ。 倒れ伏したスザクを一瞥した後、魔女は退魔師たちを見つめた。 |