オオカミの呼ぶ声 第14話 |
その小学校は、昔の日本では、ありふれていたと言う木造の校舎だった。 カレンの話では、もっとボロい古びた校舎だったらしいが、俺が入学することになり、桐原が金にモノを言わせて1週間で修繕したらしい。 おかげで廊下や教室が歩くたびにギシギシならなくなって、昔開けた穴なんかも塞がれて綺麗になったようだった。、 どうせなら町にあるようなコンクリートで出来た綺麗な校舎にしてくれればよかったのに、とカレンは言うが、俺はあんな冷たい箱よりこっちの方が暖かくて好きだった。 既に隠居生活をしていたと言う桐原が、この村に引っ越してきてこの学校の校長をすることとなった。それはつまり、カグヤの神気に満たされているこいつを目印に、いつでもカグヤがここに遊びに来る、と言う事でもある。 本当は来たくなかったはずなのに、朝も本当に行くのかと渋っていたはずなのに。 にこにこ笑いながら学校の説明をするカレンと、それに相槌を打ちながら、俺に笑いかけてくるルルーシュが居るので、俺も気が付いたら笑っていた。 教室は5つ。手前から小学校の1・2年、3・4年、5・6年、中学校の1・2年、3年。俺たちは4年生なので手前から2番目になる。 「ここよ、ここ」 カレンが先頭を歩き、教室のドアを開ける。 その瞬間上から落ちてきたものに、カレンは素早く反応し、手で払いのけた。 ポンポンと転がったのは、四角く白い粉が付いているもので、後で知ったが黒板消しと言うらしい。 「だれ!?こんな悪戯したの!」 カレンが黒板消しを拾いながら怒鳴ると、部屋の中に居た人間が一瞬驚いてびくりと体を震わせた後、知らないと言いたげに視線を逸らした。 腰に手を当てて部屋の中の人間を睨みつけるカレンを見ながら、俺はルルーシュに質問する。 「なあ、何でカレン怒ってんだ?」 「あの上から落ちてきた黒板消しが頭に当たると、白い粉が付いて髪が真っ白になるんだよ」 「なんでそんなことするんだ?」 「悪戯よ!悪戯に決まってるじゃない!今日あんたたちが来るって聞いて、仕掛けてたのよ」 「ふ~ん、でもそんな怒るなよ?カレンも俺もそんなの引っかからないだろ?」 「そりゃ私は引っかからないけど」 そう言いながら、カレンはルルーシュをちらりと見る。ルルーシュは何で見られたのか解っていないようだった。 ルルーシュが先に入ってたらどうなっただろう。間違いなくあの白い粉をかぶって、この黒い髪が白くなるな。 それを想像して俺は思わず噴き出した。 「大丈夫だろ、ルルーシュには俺がいるし、俺犬神だぜ?万が一引っかかったとしても、誰が仕掛けたかなんて、匂いですぐ解るからな」 その俺の言葉に、部屋の中がざわめいた。匂いを嗅がなくても、この反応だけで誰かは解る。みんなの視線が一瞬泳ぎ、時間差はあれど、全員同じ人間をちらりと見る。人間の子供はホント解りやすいよな。 「知ってるか?神は祟るんだぞ。俺の物に手を出すなよ、人間」 これを仕掛けた人間に、じろりと視線を向ける。 その瞬間、頭と背中に鈍い痛みが走った。 見ると腕を振り上げたルルーシュと、足を振り上げたカレン。 「そういう言い方はやめろ」 「そうよ、喧嘩売ってんの?」 二人に気押されて、思わず俺の頭の耳が垂れさがる。 その瞬間ルルーシュが、俺の頭に手をのせ、わしゃわしゃといつになく乱暴に頭を撫でた。 「痛っやめろよルルーシュ」 何なんだと思って、その手から逃げる様に後ずさると、ルルーシュは苦笑していた。 乱暴に撫でられた事で、反射的に俺の耳がまたピンと立っていた事に気がつく。 理由もなく嫌がる事をする奴じゃないのは解るけど、もう少し優しく出来ないのか? 「ったく、お前、俺にだけ乱暴じゃないか?」 「乱暴者の君には丁度いいだろ?」 その時、部屋のドアががらりと開き、長身の男が入ってきた。 その男は俺の姿を見ると、目を丸くする。 「ほら、何をボサっと突っ立っておる。早く入らんか南!」 「は、はいっ」 南と呼ばれた大柄な男は、後ろにいた桐原に押されるように部屋へと入った。部屋に入った桐原は、俺を見つけると厳つい顔を一変させ、温和な翁の表情になった。 「スザク様、来て下さいましたか」 「ルルーシュが泣くから来てやったんだ、有難く思え」 俺は両腕を組んでふんと胸を逸らせた。 そうしたら、予想通りアイツが顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてきた。 「なっ!いつ僕が泣いた」 「まあまあ、ルルーシュ様、いいじゃないですかそう言う事で」 桐原にそう宥められ、ルルーシュは渋々「解りました」と頷き、一瞬俺と視線が合った後、プイと目を逸らされた。 ルルーシュは泣いてない。なのに泣いた事にされた。俺はただちょっと誂いたかっただけで、そんな顔させたかったわけじゃないのにと、胸がチクリと痛んだ。 「えー、みんな。話は聞いているとは思うが、こちらが枢木スザク様。この土地一帯を守護されている土地神様だ。みんな仲良くするように」 「「「はーい」」」 元気な子供の声が部屋の中に響き渡る。 子供は順応能力が高く、現実と空想の境界が大人よりも曖昧だから、神である俺の事を受け入れやすい。という桐原の言葉通り、物珍しそうな目で俺を見てはいるが、その程度だった。 むしろ、ルルーシュの方を奇異な目で見ている気がする。 神様と言う異質な存在より外国人の方が気になるのだろうか? 「で、こちらがルルーシュ・ランペルージ君。ブリタニアから来た留学生だ。まだ日本の事はよく解らないだろうから、みんなちゃんと教えてあげる様に」 「「「はーい」」」 再び元気な声が響く。 その後は席を決めるためのくじを引いた。 3年生が前、4年生が後ろと決まっているようだが、座る場所はこれで決めるらしい。 「ルルーシュはどこだ?」 「僕は一番後ろの窓際だな。君は、僕の隣か」 「私はルルーシュの前ね」 俺の近くに二人が集まり、あの悪戯をした奴が一番遠くに。 これは運じゃないな。 このくじに僅かな神気を感じる。馴染みのある神気の残り香に、思わず眉根が寄る。 来てるのか、カグヤ。 桐原が妙ににこにこした顔でこちらを見ているのも気になる。嫌な予感しかしない。 今日はこのホームルームと言う物だけで終わりらしく、俺は桐原に捕まる前にルルーシュとカレンを連れて建物を後にした。 |