オオカミの呼ぶ声2

第 7 話


「全っ然起きないわね、こいつ」

若干呆れながら私はサンドイッチを頬張った。
なにせ今はお昼。
昨日の夜起こしても起きず、朝も起きず、現在に至る。
今朝、話を聞いた桐原が医者を連れて飛んできた。
カグヤにばれたとスザクは不機嫌になったが、ルルーシュの為だからと諦めたらしい。まあ、カグヤはああ見えてしっかり分別をわきまえているから、桐原とその医者が許可するまでここには来ないだろう。
医者の見立てでは、過労と栄養失調だろうと言う事なので、今は寝て食事を取る事、仰向けに寝ないよう注意するよう言われた。寝ている間に吐いて喉を詰まらせて窒息する事もあるからだ。普通なら目を覚ますが、此処まで爆睡していれば何があっても起きない可能性がある。
でもまあ、その辺は大丈夫。なにせスザクがくっついてる。同じ向きで寝るのは駄目だってスザクも知っているから、時々左右入れ替わっている。器用だなと眺めながら、もちろんその姿は動画と写真に収めている。
少し離れたら?と言っても、ルルーシュが離さないからしかたないんだ!と言われたが、夜中に何回か抜け出してたのを知ってるし、その隙にルルーシュだけの写真も私は撮っている。まー、いままで寂しかった分離れたくないのだろう。私もくっついて寝てたから気持ちはわかる。
まあそれはいいとして。
食べていないからか、細すぎるからか。

「腹減らないのかな」

俺なら腹が減ったら目が覚めるのに。と言うスザクに同意した。

「まあ、一日二日食べなくても大丈夫でしょ」

食事よりも問題なのは水分だが、1本打っていってくれた。今日目を覚まさないようなら明日の朝も点滴をすると言っていたから、まあこちらも大丈夫だろう。時々吸い飲みで口を湿らせてるから、そこまで深刻に考えてはいない。
寒くないようストーブを焚き、加湿器もしゅんしゅんと音をたて湿度をあげていると言うのに、ルルーシュの体温は少し低くてひんやりしていた。
体温が低すぎる気がする。
だから、温めるという理由をつけて、お昼を完食した私も布団の中に戻る。ひと組の布団に三人も寝るのはやはり狭いので、今はもうひと組隣に敷いていた。
寝転がった私は、枕元に積み上げられたDVDを手に取った。
寝ているだけでは暇すぎるので、二人で映画観賞会をしているのだ。
そのためにわざわざ氏子さん達がいろんなDVDを貸してくれた。
置かれているテレビも氏子さん達がお金を出し合い、大きなものを買ってくれた。スピーカーもいいものらしい。ルルーシュは起きないし、近くに民家も無いので、遠慮なく大音量で楽しんでいる。見るのはアニメや特撮ばかりだが。

「・・・そのうち起きるだろ?」

DVDを選びながら、ちらりとこちらに視線を向け、不安そうに尋ねるので、いじわるも出来ない。

「そりゃ起きるわよ。あっちでこき使われて疲れてたんでしょ。飛行機乗って電車にバスと乗り継いできたわけだし。ここ、ど田舎だから」

そのうえこの雪だ。
移動だけでも疲れたはずだ。

「なら、起きるまで寝かせておこう」
「そうそう、好きなだけ寝かせときましょ」

桐原が毎日医者をよこすと言っていたから、判断は専門家に任せるが、あまり長引くなら入院することになる。病院は隣町だから、スザクは見舞いにもいけないのだ。まあ、可能性の一つにすぎないから、スザクには内緒だ。

「それよりスザク、明日学校どうするの?」

今日は祝日だったからこうしてごろごろしているが、明日は平日だ。

「休む!」
「でしょうね。あー、私も休みたい!」

でも、スザクと違い私はあまり休むと叱られる。
スザク絡みだし成績もいいから大目に見られているけれど、休みは休みとしてカウントされてる。今はまだ中学だし、進学するのはここの高校だからいいじゃないかと思うのだが、家族にも桐原にも授業をさぼってまでスザクの遊びに付き合うのはもうすこし控えろと言われている。
だから昨日に続いて明日もサボるのは拙い。
そこまで考えて、はたと気づいた。

「あ、ということはルルーシュも高校に通うのよね」

もし、向こうで学校に行けなかったとしても、ルルーシュの頭ならすぐに追いついてくる。だから難なく高校に進学できるし、もし無理でも特別枠が必ず用意されるから、進学は確定だ。

「あっ」
「すーざーくー、高校進学おめでと~う!」

ルルーシュが行くならスザクも行く。
小学校に通った理由がそれなんだから、間違いなく。

「あー・・・」

見る見るうちに垂れさがる獣の耳に、スザクの心情が嫌でも解った。勉強嫌いだもんねあんたは。と笑いながら私はその頭を撫でる。
高校にはいかないと我儘を言っていた神様はとうとう観念した。

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