オオカミの呼ぶ声2

第 11 話


「カレンが来ていたのか」
「学校行く前にな。多分終わったら来るぞ」

時計を見れば今は昼過ぎ。
もう午後の授業が始まっている時間だった。

「授業が終わる頃に迎えに行こう。走るより車の方が早いだろう。それよりもスザク君、おかわりはいいのかな?」

藤堂先生に言われ、「おかわりする!」と慌てて答えた。みれば俺たちが話している間に藤堂先生は片付けの準備に入っていた。お米も味噌汁もまだあるのに片付けるなんてもったいない。

「急いで食べなくていい、良く噛んで食べなさい」
「はいっ!」

そんな俺たちを見て、ルルーシュはくすくすと笑う。

「すみません藤堂さん、お昼を用意してもらって」
「気にしなくていいルルーシュ君。きみは暫く休んでいなさい」
「いえ、俺はもう大丈夫です」

どこがだと言おうとしたが、先に藤堂先生が叱った。

「すまないが、私には大丈夫には見えない。夜はナオト君が来ると言っていたから、こういうときは周りに甘えることだ」
「そうだぞルルーシュ。お前はしばらく寝てろ」

当たり前のことを当たり前に言ったのに、ルルーシュは俺と藤堂先生を一瞬びっくりしたように見た後、笑った。

「・・・では、お言葉に甘えます。後片付けはスザクがやってくれるようだし」
「おう、まかせろ!」

片付けぐらいなんでも無い!と胸を張ると、藤堂先生まで笑いだした。

「ルルーシュ君、学校はどうするんだ?今からでも通うなら手続きをするが」

今は11月。
卒業までまだある。
ルルーシュと一緒に通いたいが、でもこんなに弱っているルルーシュを連れていくのは嫌だ。疲れているだけだというが、人間はちょっとしたことで死んでしまうから信用できない。でも、規律を重んじる先生は、保健室登校でもいいから行くように言うだろう。それは嫌だな。

「高校からお世話になろうかと思っています。国に帰ってから勉強は出来なかったので、これから学び直しですが」
「そうか、君なら問題ないだろう」

あのノートを作れた時点でルルーシュは中学卒業までの学力がある事は誰でも知っているからか、藤堂はあっさりと頷いた。これがスザクなら、げんこつ一発貰って学校に引きずって行かれるのにと驚き、この後ルルーシュにそう話したら、「藤堂さんは「行くなら通う手続きをする」と、言っていただろう?あれは俺がどうしても行きたいというなら手続きするが、そうじゃないなら休んでいろと言っていたんだよ」と言っていた。

「・・・ルルーシュ、寒いのか?」

洗いものを終えて戻ってきたら、ルルーシュと先生が話をしていた。さっきまでは気づかなかったけれど、なんとなく寒そうに身を縮めている。セーターも着て暖かくしているし、ストーブも焚いて暖かい部屋なのに寒いという事は、やっぱりまだ体調が悪いんだ。

「いや、別に寒くはないぞ?」
「うそつくなよ!」
「無理な我慢をする必要はない。この建物は古い。いくらか手を入れていたとはいえ隙間風が入っているから、それもあるのだろう。よし、少し待っていなさい」

何か思いついたのか、先生は外へ出かけて行った。



「それで、これなわけ?」

荷物をおろしながらカレンが呆れたように言った。

「やっぱり寒かったんだろうって先生は言ってた」
「まあ、それは解るわよ。この家ぼろいもの。こんな風に冬過ごしたの私だって初めてだし」

雪かきや雪おろしのため冬にも氏子は来るが、皆完璧な寒さ対策をし、室内に入るのは休憩や昼食を食べるときだけだ。今のカレンやルルーシュのように部屋着で過ごした事はないから、隙間風でどれだけ寒いか誰も知らなかった。

「私が言いたいのはね。なんで私が来た時いつも寝てるのかって事よ!」

ぷりぷりと怒りながら、カレンは座った。怒っていたのは一瞬で、すぐにぐてっとテーブルの上に身体をのせてだらけ始めた。

「あーもーあったかい!きもちいい!こたつって人間を駄目にする分化よね」

そう、藤堂先生が持ってきたのはコタツ。
誰かから貰ったらしいが、先生は使わないからずっと仕舞っていたらしい。最初は遠慮していたルルーシュだったが、スイッチを入れ暖かくなってしばらくしたら今のカレンのようにテーブルに突っ伏した状態で眠ってしまった。その寝方では身体が痛くなるだろうからと、今は横になって眠っている。

「カレン、それなんだ?」
「んー?ああ、これ?」

顔をあげたカレンは、紙袋に手を伸ばし何やら取り出した。

「蜜柑?」

手渡されたそれは、オレンジ色の小ぶりなミカンだった。

「そ、冬の間にしっかり食べておけば風邪ひかないっていうでしょ?ルルーシュには必要だって母さんに持たされたのよ。あと晩御飯三人分。温めるだけだから、こっちはあとでいいでしょ」

ホントはナオトがあとから来る予定だったが、カレンが自分が行くからと全部持ってきたのだ。

「今年のみかんは甘くて美味しいのよね」

そういいながら、ごろごろっとミカンを袋から出した。
こたつの天板がミカンで覆い尽くされる。
明日にでも箱で買ってくるから全部食べていいわよと笑っていった。

「あんたも食べなさいよ」
「俺は風邪ひかないぞ」
「それでも食べるの。ルルーシュもいい加減おきろー!」

待つのに飽きたカレンは、ミカンをいくつか手に取ると、ルルーシュ目がけて放り投げた。

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