オオカミの呼ぶ声2

第 16 話


服を色々買って家に帰ってくると、疲れたのかルルーシュの顔色が悪くなっていた。

「ルルーシュくんは中で休んでいなさい」
「いえ、俺の荷物ですから」
「いいから休んでろ!俺が運ぶから!」
「そんなフラフラでいたら邪魔よ。こたつに入って寝てなさい」
「いや、俺は」
「邪魔だって言ってるのよ。スザク!」

カレンが俺を見ながらルルーシュを指差すので、「おう、まかせろ!」とルルーシュの手を引っ張った。たったそれだけでルルーシュの体はバランスを崩し、俺とカレンが慌てて支えた。

「ほらみなさい!病人は大人しくする!」

俺が手を引き、カレンが背中を支え玄関に向かえば、ルルーシュは諦めて大人しく従った・・・わけでもなく。鍵を開けている間もルルーシュはずっと文句を言っていた。

「俺は大丈夫だって言ってるだろ。今のはちょっと足を滑らせただけで」
「膝から崩れたように見えたけど?」
「そんなことはない。大体カレンのいた場所から俺の膝は見えないはずだし、俺はここ最近で一番調子がいいんだ。このあと大掃除だってやるんだから、休んでなどいられるか」
「大掃除ならやったぞ」

雪かきと雪おろしのときに、みんなで掃除は終わらせている。もしまだでも、こんなフラフラなルルーシュにさせるはずがない。昔のように二人で掃除したい気持ちはあるけど、それはルルーシュが元気になってからでいい。

「そうそう、もう終わってるわよ。ってか、こんなふらふらなのに、ここ最近で一番調子いいですって?やっぱり、一回大きな病院で見てもらったほうがいいわ」
「大丈夫だ」
「あんたの大丈夫は信用出来ないのよ」

玄関に入り、上り框に腰掛けたルルーシュの横にカレンは買い物袋を置き、心配そうにルルーシュの顔を覗き込んだ。俺もじっとその顔を確かめたが、それでなくても白いルルーシュの顔が先程より白くなっている気がした。

「いや、本当に大丈夫なんだ」
「ほんとに、病気じゃないのか?人間は病気で死ぬんだぞ?」

人間は簡単に死んでしまう。怪我や病気、寿命。死ぬ理由は様々だが、終わりはかならず来るのだ。ほんの少し前まで会話していたのに、突然死んでしまうことだってある。もう、あんな思いはしたくはない。
あの時の辛く苦しい悲しみを思い出した時、大きくなったルルーシュの手が、頭をなでてきた。ああ、また耳が垂れていたのか。この耳がなければ、感情を気付かれなくていいのに。どうして尻尾のように消せないのだろう。

「疲労が溜まりすぎただけだ」
「そこまでわかってるなら寝てなさい。スザク、見張ってて」
「わかった」

カレンは念を押してから車に戻ろうとしたが、藤堂が両手に荷物をいっぱい持って玄関に入ってきた。

「荷物はこれで全部だ」

さすが藤堂先生だ。あれだけの荷物を一回で運ぶなんて。オトナだから身体が大きいし、力もある。俺も大きければ、ルルーシュに荷物を運ばせず、荷物を全部運べるのに。
ルルーシュが座っている横に藤堂は荷物をおろした。靴を脱ぎ、中に運ぼうと伸ばしたルルーシュの手をカレンがぺしりと叩いた。

「あんたがやることは、こたつに入ること。スザク」
「ほら行くぞ。カレンは怒ると怖いんだからな」
「一言多い!」
「ほらみろ!」
「わかった、わかった。藤堂さん、すみませんが」
「ああ、君は休んでいなさい」
「はい、有難うございます」

ルルーシュの手を引いて居間へ移動し、こたつにスイッチを入れ、早く座れと促した。ストーブも焚いたから、しばらくすれば暖かくなるだろう。

「みんな心配しすぎだ」

怒っているわけではなく、ふてくされているわけでもなく、困ったものだなと言いたげだった。心配しすぎなわけじゃなく、ルルーシュが軽く考えすぎなだけだと言おうとしたが、二人の足音が廊下から聞こえてきたからやめた。

「はい、これで全部!」

居間に入ったカレンは、両手に持っていた荷物をおいた。藤堂も、そのそばに置く。主に衣類、そして食材。読みたかったという小説数冊。足りなかった調理器具。おもったよりも買物の量は多くなっていた。この量、俺なら何回往復しただろう。重くはないが、小さな手で運べる量は限られている。場合によってはカレンの半分も運べない。
いまはルルーシュが弱っているから運べる量は俺のほうが多い。
でも、体力の戻ったルルーシュは、俺より色々運べるかもしれない。
ルルーシュもカレンもあの頃より大きくなったけど、俺は何百年たとうとこれ以上成長はしない。今のままでは成長できない。でも・・・。

「・・・?どうかしたのかスザク?」

すぐ近くに聞こえた声にハッとなれば、目の前にルルーシュの顔があった。心配そうにこっちを見ている。

「なんでもない!」
「本当か?おまえこそ調子が悪いんじゃないか?」
「俺は平気だ!えーと、ルルーシュをどうやったら病院に連れていけるか考えてただけだ!」
「そんなこと、考えなくていい」

微笑みながら、頭をガシガシと撫でてきた。

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