オオカミの呼ぶ声2

第 19 話


4月。
雪が溶け草花が芽吹く香りがあたりに満ちるこの季節が大好きだ。
死の世界のような白い大地が、どんどん緑色に染まっていく。
命が芽吹き、冬の間静かだった動物たちも動き出す。
そんな風に日々変わっていく風景を見るのが好きだった。
寂し冷たく静かな季節が終わるのが嬉しかった。
とはいえ、今年は雪で閉ざされていた間も楽しくて暖かくて、冬は冬でいいと思えるようになった。特にこたつがいい。ルルーシュが邪魔だからと先日片付けてしまったが、こたつに入ってポカポカ暖まりながらテレビを見たりご飯を食べたり、ゴロゴロしたり。ずっと置いておけばいいのにと俺とカレンは文句を言ったけど、ルルーシュが絶対に片付けると引かなかったから渋々諦めた。
でも、まあいいんだ。だって、今日からは家にいる時間も短くなるし、やることもいっぱい増えるんだから。ルルーシュの体調も安定してるってカレンが言ってたから、家の外で遊ぶことも増えていくだろう。そう考えるだけでワクワクして顔が緩む。

「スザク、用意はできたのか?」

ルルーシュの声に振り向くと、真新しい服を着たルルーシュが立っていた。

「それが高校の制服なのか?」
「ああ」

高校の制服はブレザーというらしい。オトナが着ているスーツと何が違うのかは解らないが、ルルーシュによく似合っていた。俺がじっと見ていると、ルルーシュはソワソワと、自分が着ている制服を見た。

「・・・何か変なところがあるか?」
「ない!すっごく似合ってるぞ!」
「そ、そうか。ならよかった」

ずっと見られていたのは、おかしなところが有るかだと勘違いしたらしい。おかしなところなんて有るはずがない。この制服はルルーシュが着る前提で桐原が用意したものだ。ルルーシュならどんな制服が似合うか。もし戻ってきたときのために。
玄関の鍵が開き、戸が開く音とともに元気な声が聞こえてきた。

「スザクー!ルルーシュー!用意できたー?」
「カレンだ!」
「わざわざ来たのか?」

カレンの家は学校に行く途中にある。「わざわざ逆方向のこの家まで迎えに来るなんて」と、ルルーシュは言うが。その顔は嬉しそうだ。
カバンを持って玄関に行くと、ニコニコ笑顔のカレンがそこに居た。もちろん、高校の制服を着ている。

「あらルルーシュ、似合ってるじゃない」
「カレンも、良く似合っているよ」
「当たり前よ。この制服作るのに何回試着させられたと思ってるのよ。ね、スザク」

この女子の制服はカレンに似合うように作られている。
居なかったルルーシュとは違い、カレンは何度も着せられていたし、俺も何度も見ているのでもう見慣れていたそういえば高校の制服は二人が並んだ時の事も考えて作ったとか言ってた気がする。難しいことはわからないけど、二人によく似合ってるんだからそれでいい。
俺の分も用意すると言われたが、それだけは断固拒否した。俺はこの道着が一番好きだから他の服を毎日なんて着たくない。

「カレンに誂えたような制服なのはそのせいか」
「そーゆーこと。それに可愛いから、女子の評判もいいのよ」

話をしながら外に出て、ルルーシュが施錠をした。

「・・・カレン」
「何よ」
「自転車で行くのか?」

ルルーシュが不思議そうに質問している間に、俺も自転車を出す。ルルーシュを後ろにのせるから、前とは違い大人用だ。音で気づいたルルーシュがこちらを見て、不愉快そうに眉を寄せた。

「そうよ、自転車で行くの」
「小学校の時は歩いてただろう?」

高校の校舎は小学校の側にある。距離はさほど変わらないのだから歩いていけばいいとルルーシュは言うのだが。

「あの頃と今は違うのよ。面倒臭いことにならないためには、自転車が一番楽だし、速いでしょ。まあ、私とスザクなら徒歩でもいいんだけどね」
「俺も徒歩でいいんだが」
「いいから乗れよルルーシュ」
「って、スザクお前が前なのか!?逆だろ!?」
「うるさいわね。だいたいルルーシュ、貴方自転車乗れるの?」
「・・・乗れるに決まってる」
「嘘だな」
「嘘ね」

即答できなかったのは乗れないからだ。だって小さい頃のルルーシュは全然乗れなかった。ここを離れている間、体壊すぐらい忙しかったんだから自転車の練習なんてしてるはずがない!というカレンの予想が当たった。

「自転車ぐらい、普通乗れるものだ」
「乗る練習してたらね。自分で乗りたいなら明日から練習してもいいけど、スザクや私の速度についてこれる?」

全速力で走ったりするんだけど?とカレンが言うと、ルルーシュは俺とカレンを見た後、無理だと悔しそうに言った。

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