オオカミの呼ぶ声2

第 23 話


「あーはいはい、玉城あとでシメる」

バカ玉城。まーた余計なことを教えて。と、カレンはプンプンという擬音が似合うほど怒っていた。何があったのか聞いてもスザクとカレン二人だけの秘密だと言うのだからそれ以上深くは聞けなかった。玉城が原因なら大したことではないだろう。こういう所はあの頃と変わっていないなと微笑ましく思う。
内容によってはカレンはナオトに相談するから問題もない。
ただ、仲間はずれにされたようでいい気分ではないな。
・・・まあいい。今優先すべきは食事だ。

「夕食ができたから、テーブルの上片付けてくれないか?」
「はーい。ほら、片づけるわよ」
「おう!」

二人は慌ててテーブルの上から教科書などを除け、カレンはテーブルを拭き、スザクは料理を運ぶ手伝いをしてくれた。
夕食は貰ったたけのこを使った料理だ。
たけのこご飯と、たけのこと鶏肉の煮物。
スザクが久しぶりにジャガイモ入りの卵焼きが食べたいとうるさかったので、スパニッシュオムレツも焼いた。
後は豆腐の味噌汁とカレンが持ってきた紅月家自家製のぬか漬け。
レタスときゅうり、プチトマトのサラダもつけた。
スザクは狼だから犬科にとって毒となる物は極力控えるべきでは?と周りから言われたものだが、桐原の話では、神様になった時点で食べ物で中毒になったり、死んだりという事はないらしい。最初の頃は犬にとって毒になる食べ物のことなど知らずに過ごしていたから、犬の飼い方の本を見た時慌てたものだ。
カレンに言わせれば、何も食べなくても餓死できないのが神様なら、多少の毒を食べたからって死ぬはずがないという。かなりの暴論だが、そのぐらい大雑把でいいと桐原とカグヤにも言われたのを思い出す。餓死はしなくても衰弱はするし、衰弱したときに毒を食べればお腹を壊すようだが、いまのところスザクがお腹を壊した姿は見たことがない。

「うわ、いい匂い」

行儀悪くカレンはくんくんとたけのこご飯の香りを嗅いだ。

「ほら、手を洗ってこい」
「はーい、いこっスザク」
「おう!」

パタパタと駆けていく姿は、幼いころと変わらない。
我先に手を洗おうとするほほえましい姿に癒される。ああ、でも自分もあまり変わっていないのかもしれない。ここに戻ってきたら、何もかもあの頃に戻ったように錯覚してしまう。
国に戻されたあの日々が夢だったのではと。
パタパタと忙しく戻ってきた二人は席につき、いただきますと手を合わせた。

「うん、おいしい!」
「うまい!」

にこにこと笑いながら頬張るふたりは本当においしそうに食べる。作った甲斐もあるというものだ。いつかここに、ナナリーも。二人ならきっとナナリーとも仲良くなれるだろう。そうなったら理想的だなと思う。
それにはまだ、いくつかの問題が残っていて、どう乗り越えるべきか・・・どうすれば自分たち兄妹をこの土地の人に理解してもらえるか考える。今と同じように受け入れてもらえるのか不安もある。

「どうしたんだ?腹でも痛いのか?」

物思いにふけて箸を止めていたら、スザクが心配そうに顔を覗きこんできた。カレンは「まさか調子悪いのに無理してるんじゃないでしょうね?」と、訝しげに様子を伺ってくる。

「はじめて作った割には上手くできてほっとしただけだ」

それらしい嘘を重ねると、スザクは安心したように笑い食事を再開したが、カレンは嘘だと気付き、不愉快そうに眉を寄せていた。

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