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「ゼロは、食べないのですか?」 ディアナが一人離れた場所で本を開いていたゼロに声をかけた。口元が開くよう仮面に細工はしてあるが、そこにスザクがいる以上これを使い食べるのは危険だ。勘のいいスザクは口元だけでゼロが誰か気づいてしまいかねない。 だから同席は辞退した。 「私の事は気になさらず、食事を始めてください」 味見もしているから、そんなにお腹は空いていない。 それよりも、ディアナから借りたこの本の方が気になって仕方がないのだ。 読めないが、彼らの一般的な言語なのだから解読は可能なはず。 今後に備え、この世界の事を少しでも知っておかねば。 ・・・おおかたそんなところだろうC.C.は予想した。 だから本を読み始めたゼロの言う通り、みなは食事を始める事にした。スザクがいる以上仮面を外すわけにもいかないから、あとで他の部屋で食べるか、既に食べたのだろうか心配するだけ無駄だと、あらためて料理を見る。 「これは、何という料理ですか?」 ディアナにはなじみのない料理だったらしい。この世界にないのか、あるいは王女だから、高級な料理ばかりでこういうものを食べた事が無いのか。 「これはハンバーグだよ」 スザクが嬉しそうに言った。 「ハンバーグ、ですか」 「うん、おいしいよ。しかもデミグラスソースだ」 この世界の材料でよく作ったなと、その喜び方はまるで子供のようだ。 あまりにも嬉しそうに言うので、思わずディアナの口も弧を描く。 「スザクはハンバーグ好きなの?」 「うん」 C.C.はパンをちぎり口に運ぼうとして、はたと手を止めた。 「もしかして、このデミグラスソースのハンバーグが好きなのか?」 「うん。僕の大好物。いただきます」 「大好物・・・」 ディアナ王女が呟き、ゼロを見たのをカレンは見逃さなかった。見るからに美味しそうなハンバーグを嫌いなどと言える人間がいるだろうか。しかもゼロが!作った!ゼロの手料理で!! 「私も!ハンバーグ大好きです!」 スザクに負けてなるものかとカレンが好物アピールをする。 「それはよかった。だが、食事中に大声を出すのものではない」 たしなめるようにゼロは言ったが、どこか嬉しそうに聞こえた。 よし、ポイントを稼いだと言わんばかりにカレンはいい笑顔だ。 「うん、おいしい。こんな美味しいハンバーグ久しぶりだ」 嬉しそうな声につられ、みなもハンバーグを口に運ぶ。 「うん、おいしい!」 おいしい。その言葉しか出ない。口の中にじゅわっと広がる肉汁も、デミグラスソースも何もかもが美味しい。よくここまで再現できたものだ。もしかしてゼロはプロの料理人なのでは?そう思わずにはいられない。 「とても美味しいです」 異世界の住人であるディアナの口にも合ったらしい。今まで見た事が無いような、年齢相応の可愛らしい笑顔をうかべていた。 C.C.も黙々と箸を進めている。ピザの件で不機嫌なのかと思ったが、これはハンバーグが美味しくて言葉をなくし食べているだけなのかもしれない。 「それにしてもスザク、あんた普段こんな美味しいもの食べてるの?さすが皇女様の騎士は違うわね」 皇族には専用の料理人が付き従い、一流の料理を作るだろう。彼女の騎士であるスザクもご相伴にあずかっているとうことだ。 「え?違うよ。僕はユフィと食事をする事はないよ」 騎士である自分が皇女と食事なんて。とスザクは笑った。聞けば、スザクの上司が手料理を差し入れてくれるか、あるいはレーションやその辺で買ったお弁当が殆どらしい。 「その上司が料理上手なの?羨ましいわね」 あ、でも私の上司であるゼロも料理上手だから引分けよね。 「あ・・・えっと、セシルさんの料理は、その、何というか個性的で・・・」 スザクの声がみるみる小さくなってきたので、どんな料理?と聞くと、ブルーベリージャム入りのおにぎりと言うので思わず噴き出しそうになった。 「ってことは、こんなハンバーグ出すお店が近くにあるの?」 「違うよ、ルルーシュの家に行った時に食べたハンバーグに凄く似てるんだ」 「ルルーシュ」 ディアナ王女の箸が止まり、スザクを見た。 「うん」 「あの、よくその、ルルーシュの料理を?」 「僕は軍人だから、軍の仕事が無い時にね。そういう日は僕の好物をたくさん作ってくれるんだ」 のろけにも聞こえる内容だが、ブルーベリージャムのおにぎりやチョコレート入りのおみそ汁、レーズンを混ぜた炊き込みご飯の話を聞くとそりゃあ楽しみになるわよねと同情する。 気づけばディアナの視線はゼロに向いていて。 「あ!でも!ゼロの方が絶対おいしいですから!」 カレンは、ディアナにルルーシュのハンバーグよりゼロの方がおいしいと強くアピールをした。びっくりしたディアナは「そ、そうですか」と少しぎこちなく笑った。ちょっと力を入れ過ぎたようだ。 「気にするなどっちも同じだ」 C.C.は下らないと言い放った。 どっちも同じ?ルルーシュの食べたことないのに決めつけるなとカレンは言おうと思ったが、 C.C.の皿は既に空で、もしかしてさっきのお腹の音は彼女なのでは?と考えた。空腹は最高の調味料だ。お腹が空いていたなら、たしかにどちらでも美味しい。で、終わるかもしれない。とはいえ、作った本人を前にそういうか。 ディアナでさえ、ゼロが気を悪くするのではと心配そうにゼロとC.C.を見比べている。 「おい、ゼロ。おかわりはないのか?」 だがそんな空気など全く気にせず、おかわりを催促した。 C.C.の呼び掛けに、ゼロは本から顔をあげた。 「多めに作ったから、パンもハンバーグもまだある。食べたければ自分でよそってこい」 「しかたないな」 C.C.は空になった皿を手に、厨房へ向かった。 |